男子校の4年生は異世界で!
人け
プロローグ 絶望を告げる帽子
澄み渡る青い空に白い雲。
「うぉぉぉぉ!」
「よっしゃぁぁぁ!」
「第5系統だけは勘弁してください......」
なにか行事が行われているのか、至る所から歓声や悲鳴に近い絶叫など聞こえてきて、辺りは喧噪に包まれていた。
凄い人混みで前の方を見ることは出来そうにない。
そして、集まっている人達の髪の毛を焦がすかのようにギラギラと輝く太陽が二つ。
この時点で鋭い人なら気づいたと思うが、ここは地球ではない。
なぜ、こんな異世界にいるのか話すと長くなるので割愛する。
いやまあ中学の卒業式の後、気づいたら異世界で赤子として生まれてただけなんだけどね。
まったく長くなかったな......
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「いやなんでもない、少しボーっとしてしていただけだ。
それよりも、凄い騒ぎだな。」
「そりゃあそうだよ、今日は何てったって魔法学園の適正検査の日だからね!」
すっかり一人の思考の世界に入ってしまっていた所を、光沢すら感じるほど美しい黒髪のポニ―テ―ルと、大きく宝石のように美しい赤い目を持つ『妹』に声をかけられて戻ってくる。
そう『妹』。
前世では妹が居なかった自分にとって妹とは憧れの存在だったのだ。
この妹の存在だけでも、この世界に来てよかったと思える。
おっと、また話が脱線するところだった。
妹キャラの魔力恐るべし......
今このマントラスの町では14歳になったら入学願書を出すことのできる国一番の学び舎、バイアギル国立魔法学園への入学のための適正検査が行われている。
この適正検査の結果によって入学できる学部が変わる。
それは即ち、その人の運命をも左右する大切な行事なので町全体がお祭り騒ぎなのだ。
「まあ、すでに結果の見えている俺たちにはあまり関係のない話だけどな」
「それもそうだね~
でも、史上初の事態がこの後起こるじゃん?
そしたら、もっと騒がしくなっちゃうからちょっと憂鬱かも」
『生徒番号236番~240番までの生徒は前に来てくださ~い』
事前に配布された生徒番号の書いてある紙を見ると、239番と書いてあった。
妹も同い年であり、一緒に入学願書を出したため、妹の紙には238番と書いてある。
妹と他愛のない会話をしていると、ついに自分たちの順番が呼ばれたようだ。
気の抜けるような、おっとりとした声のアナウンスに従い、人混みをかき分けて前に出る。
前に出ると、木製の大きなステージがありその上に椅子が5個ほど並べてあった。
指示に従い番号順に椅子に座ると左から、外国の大学生が卒業式の時に被ってそうなあの四角い帽子を被せさせられていた。
ちなみに、あの四角い帽子はアカデミックキャップというらしい。
まさか、異世界に来てこの知識を使うことになるとは思ってもいなかった。
一番左端の女子生徒がアカデミックキャップを被ると、
「うーん......第一魔法学部っ!」
帽子が叫んだ。
「ハリーポ〇ターかよっ!」
思わず大声でそう、ツッコミそうになるのをギリギリ堪える。
偶然の一致とは怖いものだなと一人で思っていると、隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
隣を見てみると我が妹、イオもなぜか笑いを必死にこらえていた。
きっと、帽子が喋っている様子がシュールで面白かっただけだろうな。
地球での元ネタの話なんてこっちの世界の人が知っているわけないし......
そう一人納得しているとイオの番が回ってきたようだ。
まだ笑いが収まらないのか、にやけた顔のまま帽子を被る。
そして、ついに学部の発表!
かと思ったら、そのまま約3分が経過した。
…
……
…………
一向に告げられない結果に、もしかしたら、どの系統にも適性がないとかだったらどうしよう。
兄的にはどうフォローしたらいいんだろうか?などと焦っていたら、
「クンカクンカ......
妹属性持ちの黒髪ポニーテール......
スゥゥ~ハァ~、これぞ至高の香りだぁ。ねぇどんなシャンプー使ってんの?」
絶賛セクハラ中だった.......。
おいコラ、クソ帽子。人の妹の髪、嗅ぎまくりやがって燃やすぞ。
という目で睨むと、帽子も観念したのか
「すぅぅうう~、おっとこれ以上は燃やされそうなので止めておきましょう。
あなたはっ第一魔法学部ですっ!
正直、長いことこの仕事やってきたけどあなたほどの完璧な髪は初めてだ!
次の奴みたいな男の頭とか汗臭くて嫌なんですよね~、
今なら魔法の効果が少しupする特典付き! どうです?」
どうやらイオは女性にしか適性がないと言われ、加速系魔法を操れるという、第一魔法学部に所属できたようだ。
ちなみに、第五魔法学部という男性にしか適性のない地獄のような学部も存在するらしい......
あと、あの帽子は後で絶対に燃やす。
というか、イオが第一系統なのは正直知っていた。
なぜなら、俺とイオが昔遊んでいた時に、たまたま落ちていた第一系統の魔法の教科書を読んでみたら二人とも使うことが出来たのだ。
当時はまだ、あまり字が読めなかったため超初歩的なものしか使えなかったが。
この世界では、自身の適正ではない魔法系統は絶対に使うことが出来ない。
そのため、俺とイオが第一系統なのは確定的な事実だった。
そう、女性にしか適性のないと言われる第一系統魔法を使えたのだ!
つまりそれは、見渡したらJKしかいない楽園で可愛い妹と過ごす学園生活という夢にまで見た理想の生活の訪れを告げる的中率100%の予言だ。
遂に、自分の番が来た。
過去にいた世界とは違う、新たな世界での夢のような生活への期待を胸に、ゆっくりと慎重に帽子を被った。
「うわ、汗くっさ。せっかくの美少女のいい匂いの後にこれとか最悪だわ。
あ、あとお前第五魔法学部な。」
は.......?
こうして、俺の高校生活はは異世界の男子校で始まったのだった。
あと、クソ帽子。お前は絶対後で燃やす。
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