第2話 この世界

 その日の夜、また父と母が来た。そしてこの世界の身分制度について教えてもらった。


 その内容は、一番上に王家様がいて、その下が俺たち一級貴族。その下に二級と三級もいて、その下が宮職平民。そしてその下、最底辺が看護師さんが言ってた平民。ちなみに貴族の中でも一級貴族は上級貴族と呼ばれ、二級・三級貴族は下級貴族と呼ばれるらしい。ということだった。

 そしてこの身分制度は学校などの生活にも密着していて、いろんな所で上に見られるらしい。


 それはなんとなく予想できたことだ。でも、身分が上でも、生活していくには学校に通わなきゃいけないのか……


 俺は向こうの世界では不登校だった。いじめられたりもしてたから、対人関係が苦手ではある。そんなところで慣れない一級貴族という身分で暮らさないといけないというのは結構大変なことにも思える。


 そして父と母は家に帰ってしまった。それと入れ替わるかのように兄が来た。


「身分制度、説明されたんだ。あれ理解できた? 分かりにくい制度だよねぇ……」


 まあ、理解はできた。


「あ、一級貴族が誰かっていう説明受けた?」


 いや、それは受けてない。多分。


 俺は首を横に振った。


「じゃあ、説明してやる。一級貴族は8つの家があってそれぞれに継承技っていうのがあるんだ」


 継承技……魔法みたいな感じか?


「それで、炎の坂野さかの家、水の相原あいはら家、氷の久遠くおん家、風の花宮はなみや家、毒の真宮まみや家、電気の宮瀬みやせ家、光の小羽こはね家、そして影の水風家。この8つが一級貴族。それより下は継承技なんかないし、数も多い。下級貴族を全部覚えてる人なんてほとんどいないと思う」


 ほぉ……その選ばれし8つの一つなわけね……炎とか水とかは属性かな……? 多分。


 俺、このままどうしたらいいんだろう……


「文人、今、なんて言った?」


 え? 俺、何か言ったっけ……?


「声、出てた……喋れるのか?」


 俺は声を出そうと試してみるが声は出ない。


「どういうことだ……」


 俺も知らないって……


「もしかして、お前、不思議属性……」


 不思議属性……?


 俺は首をかしげる。


「不思議属性、言霊。数百年に1人発見される能力と言われていて普段は喋らないかテレパシーを使って意思疎通をする」


 そんな能力が使えんのか……? 俺、


「まだ何もわかってない能力だし、言霊使いは短命って言われてるし、良いんだか悪いんだか……」


 俺、これこそどうしたらいいんだ……


「とりあえず、可能性として父上には伝えとく」


 反抗期真っ只中なはずなのにちゃんと父上って呼ぶんだ……さすが一級貴族。

 俺は一応頷いといた。

 もしそんなに見つかっていない能力なら、何されるかわかんないし、めっちゃ不安……


 その日はそれで兄は帰り、そのままその日を終えた。


 俺はこの世界で死ぬまでこの『水風文人』として生きていかなきゃいけない。そしてもうあの世界に『里見蓮』はもういない。そう考えた方が良さそうな気がした。まあ、あんな事故に遭ったのに生きてる方が凄いか。



 翌日、面会時間が始まった瞬間に父と母が病室に飛び込んできた。


「言霊ってほんとか!?」


 最初にそう言ってきた。俺もそんなの知らないって……


 そして父は一級貴族の力なのか、昨日可能性として出てきたことなのに早速『能力鑑定士』という人を連れてきていた。


 能力鑑定士とは、その名の通り対象の人に能力があるか、そしてどのような能力があるかを鑑定する職業。これも一種の能力らしい。その人の視界には対象の人を選択すると、その人の能力が表示されるらしい。この世界の様々な能力者合計での割合は一割以下、まず能力鑑定士という存在を知らない人もいるくらいらしい。


 そしてその能力鑑定士という人が俺の能力を見た。そこには『言霊Ⅱ』と書いてあったとのこと。言霊Ⅰはただの言霊で、言霊Ⅱはテレパシー的なのが使えるとのこと。


 それが本当に正しいなら俺は数百年に1人見つかるくらいの珍しい能力をこの転生で得たという訳か。大体こういうのって、めっちゃ強かったりするもんだけど、この能力に関しては事例の報告がほとんどないことから何もわかっていなくて、強いかどうかも分かっていない。


 まあ、この人の実力は確からしく、能力鑑定士の中でも一番と言われている人なんだと。そんな人にそう言われちゃったら何も言い返せないじゃんか。


 冷静に考えてみると、言霊って言ったことが本当になってしまうようなことだから、結構危ないのか……? だから喋らなくても意思疎通できるような能力も一緒になっている、ということか。


 能力鑑定士が帰る時にも言ってたけど、

「能力は、人を殺すことがある。助けになることもあるけど、その使い方には気を付けること」

 確かにそうだな……気を付けよ。


 この能力のことはできるだけ秘密にすることになった。理由としてはまず、能力を公開する人がほとんどいないから。そして、数百年に1人とも言われている能力だから、何をされるかわからない。命を狙われることもあるから。理由は大きくこの二つだった。


 父と母は帰っていったが二人にも帰り際に気を付けろと言われてしまった。


 俺、そんな信用できないですかね……?


 まあ、意識が戻ってすぐに文字が書けたり、こんな能力を持っていたり、いくら自分の子供でも怪しいと思うのは当たり前か。


 今は7月で、おそらく来年には高等学校に進学しなきゃいけない。それまでにこの世界に適応して、周りに追いつく。今の俺じゃ無理かもしれない。でも半ば強制的にそういう道に行くことになりそうだし、どうなっちゃうんだろうなぁ……と不安になってしまった。



 あれから何回も能力を試してみたものの、あの時以降一回も使えていない。能力はだんだん使えるようになるらしいけど、ほんとにこの能力があるのか不安になる。



 そして数日後、点滴が外れてご飯を食べるようになった。

 この世界のご飯は病院食にしては美味しかった。病院食がまずいという偏見から来るものかもしれないがシンプルに美味しかった。まず、食べ物は向こうの世界とあまり変わらなかった。食べ物の面ではすぐに適応できそうだ。



 そして目が覚めてから数週間後、リハビリが始まった。14年間動いてなかった身体を動かすのは結構大変だ。最初はこの身体のサイズに対応するのがまず大変だった。俺的には最低限の生活ができればいいんだけど、なんかリハビリの人は男子なんだからもっとちゃんと動けるような身体までにしなきゃいけない、と言われてしまう。こっちは適応するまで結構な時間がかかりそうだった。



 リハビリが始まって少し経ったある日、父がこれからの事を話したいと言った。ここからは父上とでも呼んだ方がいいのだろうか。まあ、どうせ聞こえない訳だしいっか。


「文人、文人はこれから、勉強して、剣とか魔法を使えるようになって、高等学校へ行く。だから、頑張ってもらうからね」


 え……あ、ああ。わかってますけど……?

 とりあえず、勉強は今からでもできるのでは?


「おお……これが言霊Ⅱの能力か……声は聞こえてないのに内容が入ってくる……」


 え、俺、今、なんかしたの……? もしかしてテレパシーのやつ、使っちゃった……?


「確かに勉強は今からでもいいな……」


 よかった。そこだけしか聞こえてなかった……その前は若干煽ってたからな……


「あとで色々持ってくるから待っててくれ」


 あ、は、はい。



 一応今、文字が書けたりするわけだから、学力はわかんないけど、とりあえず中等学校までの内容が全て詰め込まれたドリルを持ってこられた。

 この世界にもワークドリルがあるんだなぁ……


 内容を見てみると内容は元いた世界と全く同じだった。俺は不登校とはいえ、ちゃんと勉強はしてたから内容はしっかりわかる。これなら普通に行けるんじゃないか……?


「文人、どうだ?」

『わかる……わかります。父上』

「そうか、それはよかった」


 テレパシー的なやつ、うまく使えてる……もしかしたら、こっちがあっての言霊なのかもしれないな……


「もしわからなかったら、聞いてくれていいし、波瑠人も文花もここはちゃんとわかってるはずだから、わからなかったら誰でもいいからちゃんと聞くんだよ?」

『わかってます』


 でも、聞かなくてもこの辺はわかります。


「家に帰れば波瑠人の使っていた教科書があるから、それで調べてもらってもいい」


 あ、そういうのもあるのか。


『ありがとうございます』

「いいんだよ」


 これが一級貴族の力とやらだろうか……なんか色々揃えられてるし。何の仕事してんだろ、貴族って。

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