一級貴族に転生し、今生きてる人がほとんど知らない能力を持ちました。

月影澪央

転生

第1話 転生

「お名前、お伺いしてもいいですか?」

「あ、里見さとみれんです」


 そう、俺は里見蓮なのだが、書類に書いてあるのになんでわざわざ言わなきゃいけないんだ? 俺、話すの得意じゃないんだけど……


 今日は高校の学校説明会とやらに来た。親は共働き&休日出勤なので一人で来た。ちなみに一人なのは俺だけだった。そりゃそっか。


 特に何事もなく、パンフレットのことを説明されただけだった。


 その帰りのことだった。この時はあんなことになるなんて思ってなかった。



 自宅近くの横断歩道の信号待ちをしていた。

 前には幼稚園生か小学校低学年くらいの男の子とそのお母さんらしき人がいた。


 信号が青になった。横断歩道を渡る。

 男の子が持っていた何かを落とした。男の子はそれをしゃがんで拾ってお母さんの所まで走っていく。


 すると、


 キュルルルル


 車がすごい速度で曲がってくる。そのまま進むと男の子が……


 その男の子は驚いたのか、恐怖の影響なのか、動けなくなっていた。


 俺はとっさに男の子の方へ走った。走るのは何年ぶりだろう。

 男の子を抱え、車の方に背中を向ける。


 俺はそのまま車にはねられ、結構な距離を飛ばされた。

 なんとか受け身を取ったが、さすがに無傷では無かった。男の子も俺と一緒に飛ばされた。


 痛っ……


 そう思っても声は出なかった。


 そして車がいた方をちらりと見ると車は止まらずにそのまま向かってくる。


 あ゛っ……


 俺は首から鎖骨のあたりをかれた。まさかそのまま向かってくるとは思わなかった。



「大丈夫ですか……!!」


 車が走り去った後、誰かがそう話しかけてくる。でも俺は答えることもできなかった。

 そしてだんだん意識が……


 ◇◇◇


 ピ…ピ…


 機械音が部屋に響いている。


 俺は少しずつ目を開けた。


 ここは……どこだ……


 ここはおそらく病院だった。


 俺はベッドから起き上がった。体がすごく重くて、起き上がるのも一苦労だった。起き上がったことによって酸素マスク的なやつが引っ張られて外れる。


 死んで……なかったのか……?


 あの時は本当に死ぬんだなと思った。でも、生きている。そんなことを考えながら、辺りを見回してみた。


 置いてある機材などはよく医療ドラマで見るようなものと同じようなものだった。夢にしては部品が細かいくてリアルすぎる。だから多分夢ではない。


 この部屋は大きな窓がついていてその奥に看護師っぽい人がいた。


 その人と目があった。


 あ……


 その人がこっちに向かってくる。


「起きられたのですね、文人あやとさん」


 あ、あやと……? 俺、蓮だけど……

 あと、めっちゃ敬語なのはなんで……?


「今、医師とご家族を呼んだので……」


 あ……はい


 そう言おうとして口を開いたが声が出なかった。


 なんでだ……?



 その後、家族と名乗る人が来た。


 でも、誰かわからなかった。俺の知っている両親ではない。それに、もう一人居る。俺には兄弟姉妹はいない。不可解だ。


「は、初めまして。私はあなたの父親の水風みかぜ波瑠輝はるきです。こちらは私の妻、あなたの母親の文花あやか、そしてあなたの兄の波瑠人はるとです」


 で、俺が『あやと』か……


 親の名前から名付けられた感じみたいだった。


 あ……


 やっぱ喋れない。どうしよう、


 あたりを見回してメモ帳とペンを見つけた。俺はそこに聞きたいことを書いていく。


 『以下の質問に答えてください。俺、喋れないんで。

 1.俺はなぜここにいるのか

 2.俺の名前

 3.年齢

 4.今日の日付』


 そのメモを父親と名乗る人に渡す。


「えーっと……急に文字書くとは思ってなかった……これ、聞きたいのか?」


 俺は頷く。


「一つ目、なんでここにいるのか、か。君はね、生まれた時から意識がなくて、でも、生きてたんだよ、それで、今、意識を取り戻したってわけなんだが……」


 へぇ。そういうことか、そりゃ、急に文字書いたら引くよなぁ……


「それで、二つ目、君の名前はみかぜあやと。字は……」


 そのメモに漢字を書き始める。


『水風文人』


 これか、これで『みかぜあやと』って読むんだ……ちゃんと日本語だし、まだ話は通じるからよかった。


「三つ目、年齢は今、14、今年15になる」


 ここは同じか…里見蓮と。


「四つ目、日付は、7月の4日」


 事故にあった日が3日だからここも同じなのかな……?


 でもこれって、元の俺とは全く違う情報。となると転生ってことにもなりそうだが……


 両親兄弟を名乗る人たちの着ている服が少し珍しい。何というか、昔の外国に居そうな服を着ている。実際には見たことがない。でも、医療的な技術は元の世界でも存在したものたち……


 技術と文化が嚙み合っていない。ということは、まさか、別の世界か……?


 っていうことはこれって……


 異世界転生!?


 喋れなくてよかった。声が出るんだったら叫んでた。


 いやでも今生まれたわけじゃないから……これ、なんて言うの……?



 数分の沈黙の末、なんとなく状況は把握した。

 俺は車に轢かれて死んで、別の世界の15年間意識がなかった少年に転生(?)したということか……多分。

 今まで異世界転生系の小説やらなんやらをいくつか読んできて憧れてた時もあったが、実際に転生するとは……

 ここで生きていくしかないのか……これからどうすればいいんだ? 俺……


「もしかして、君、意識なかった間、なんかしてたのか?」


 え……?


「いや、文字書けたりとか急におかしいだろ? 君、喋れない?」


 すみません。喋れないんです。


 俺は首を横に振る。


「書けるのに、喋れないんだ」


 兄のはると(だっけ?)がそう言った。

 まあ、そうなるよな……俺もなんでだかわかってない。


「そんな責めるな」

「別に責めてないです」


 反抗期真っ最中って感じか……


「まあ、そこはどうにでもなるから、気にすんな」


 は、はい……

 俺はとりあえず頷いておく。


 そしてその数分後、父親が仕事で先に帰って行った。母親はそれについていく。その結果、兄と二人きりになった。

 めっちゃ気まずい……


「あ、えーっと……俺、一応、兄ちゃんだから、よろしく」


 あ、あ、ああ……


 兄ちゃんは俺の頭をポンポンした。


 イケメンだぁ……

 もちろん俺基準だが。よく見ると首にあざがあった。


 兄ちゃんは俺の視線に気づいて、


「これ、生まれたときからあった。だからあんま、気にしないでほしい」


 と言った。


 あ、そうですか……なんか、すみません……


 少し申し訳ない気持ちになった。


 首に傷……珍しいな……この世界じゃそうでもないのかな……?

 いやでも、あんま気にしないでってことは珍しいのか……

 首……昔なんか聞いた気がする……あ、俺の兄ちゃんの話か……俺の生まれる前に生まれるはずだった兄ちゃんがいて、その兄ちゃんは首に腫瘍ができて、呼吸できなくて……


 俺は首をブンブン振ってその先を考えるのを止めた。


「俺、一個上の16だから。じゃあ、俺、授業あるから、また後で来るね」


 あ、うん。


 兄も帰ってしまった。授業ならしょうがない。


 っていうか今何時だ……?


 俺は時計らしきものを探して部屋を見てみるが、見つけられなかった。


 この世界の学校ってどうなってるんだろ……? もしその類のものがあるなら俺も行かなきゃならないのか……? 喋れないのにどうやってくんだよ。

 あーもう、どうしたらいいんだよーっ!! 俺をこの世界に転生させた奴がいるならちょっとくらい助けろーっ!!!


 ………


 助ける気はないのか……わかったよ。自分の力でなんとかしてやる……


 そこに看護師が入ってきた。


「大丈夫ですか……? どうかされました……?」


 え……


「頭、抱えていらしたたので、どうかしたのかなと思いまして……」


 見られてたのか……やばい……

 メモ帳……どこだ……


 俺はメモ帳を見つけて言いたいことを書き出す。

 ちょうどいい。今気になってたこと聞いてみよう。


『特になんもないですが、聞きたいことがあって、教えてもらっていいですか?』


 そう書いた紙を見せる。

 看護師は驚いた顔をする。

 まあ、いきなり文字を書き始めたら驚くだろうな……(二回目)

 でも質問には答えてくれるみたいだった。


『教育システム的なのがあれば教えてほしいです。』


「教育システム……えっと、初等学校とかそういう感じでいいんですか?」


 俺は頷く。


 それを教えてくれ。


「6歳から12歳が初等学校、13歳から15歳が中等学校、16歳からは人によって違いますが、高等学校か専門学校か就職かに分かれると思います」


 へぇ……


 大学が省略されてるけど、仕組みとしてはそんな変わんないんだな。それはそれでよかった。

 あとなんか聞いておくことがあったような……


 あ、


『時間ってわかります?』


 そう書いた紙を見せた。


「時計、あそこにあります。」


 指差された方向にはよくある壁掛け時計があった。


 あ、そこにあったのか……


 俺は看護師にお辞儀をする。喋れないなりに敬意を示す。


「ああ、頭なんて下げないで下さいぃぃ……」


 なんでそんなに俺を上に見るんだろ……


『なんでそんなに敬語なんですか?』


 そう書いた紙を見せる。


「それは、一級貴族様ですから……私はただの平民ですので……」


 え、一級貴族……? 俺、そんなのに転生したのか……?


「もしかしてその説明、受けていらっしゃらないのですか……?」


 俺は頷く。


 なんか、申し訳ない……なんで教えてくんなかったんだ……


『色々教えてくださりありがとうございます。』

「いえいえ、また何かあったら呼んで下さい」


 そう言って看護師は病室を出ていった。

 これでかなりの事が分かったな……

 あとは家族に聞くか……相手を知るためにも。

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