君がいてくれたから

君がいてくれたから

私はいなくてもいい存在で

私が死んでも誰も悲しまない

誰からも愛されていなくて

私が悲しんでも、誰も見向きもしない


そんな私に手を差し伸べてくれた男の子がいた。

それが、恋の始まりだった。


–––教室 –––


私、藤咲華蓮(ふじさきかれん)はいつも1番に教室に来る。

そして次に、クラスで人気者の男の子“ヒロくん”と呼ばれている武野寛人(たけのひろと)くんが教室に入ってくる。


しばらくすると、他の生徒たちが登校してくる。

その中でも私に突っかかってくるのは、自分が武野くんの彼女だと言っている“くるみん”と呼ばれている女の子未崎久瑠美(みざきくるみ)さん。


未崎さんは登校後、私の机にやってきていつものように言ってきた。

「おはよう、藤咲さん。今日も早いのね。もしかして、私の彼氏を取ろうなんて…考えてないわよね?」


いつも言ってくるので、今日こそはと言う決心をした。

「毎日言ってくるようだけど、そんなに心配するなら未崎さんも早くくればいいじゃない。」

すると彼女は顔を赤くして

「誰があんたに取られると心配するのよ!」と言って、教室を出ていった。

すると、

「くるみんにそんな事言わないで。」

「早く来れない理由があるはずよ。」

そう言って彼女を追いかけてく2人の女生徒。“みーさん”と呼ばれている

秋田美玲(あきたみれい)さんと“ちーちゃん”と呼ばれている河辺千夏(かわべちなつ)さんだ。


2人はいつも未崎さんと一緒にいる。

そのため、私が未崎さんに何か言い返すと必ず2人から何かしら言われるのだ。


今日もいつもどうり予鈴がなって、先生が教室に入ってきた。

「今日は、転校生を紹介する。水野くん、入ってきて。」

この時期に転校生は珍しいなと思った。二学期だったからだ。

そう思っていると、水野くんが入ってきた。

「水野翔太(みずのしょうた)です。一年間よろしくお願いします。」


すると、クラスに黄色い歓声が響いた。

「かっこいい!」「仲良くなりたい!」「こんなにイケメンな人がいるなんて、信じらんない!!」

その中でも一番声を出していたのが未崎さんだった。

「先生!私の隣の席空いてますよ!」


でも先生は「つめて座ってもらうから、水野くんは藤咲さんの隣の席に座って。」と言った。

未水野くんは席に着くと、「藤咲さん、よろしく。」と言われたので、「よろしく、水野くん。」と返した。


–––休み時間–––


「ちょっと、藤咲さん!席変わってよ!」

「どうして?先生が決めた席だよ。」

「そんなこと言って、本当は水野くんの隣がいいから変わりたくないんでしょ。」

「水野くんの隣はくるみんなのよ!」

「水野くんも好きで藤咲さんの隣に座ってるわけじゃないのよ!」


なんとなくこうなるとは思ってたが、ここまでとは…。困っていると、

さっきまで男子と話していた水野くんが席に戻ってきて言った。

「なんかちょくちょく聞こえてくるけど、別に僕は藤咲さんのこと嫌いじゃないよ。どちらかと言えば、未崎さんの方が苦手なタイプだな。」


その言葉を聞いて未崎さんは

「藤咲さんのせいだ!」と言って教室を出ていった。すると水野くんが、

「藤咲さん、大丈夫?」と聞いてきた。

私は「いつもの事だよ。」と言った。


その日から、水野くんは私に話しかけてきた。

学校には私の後にきて、休み時間はずっと一緒にいる。もちろん、水野くんから話しかけてきている。

その時はまだ、私は水野くんに興味がなかった。


三学期に入って久しぶりに学校に通うと、教室には水野くんがいた。

「おはよう、水野くん。こんなに早いのは初めてだね。」

「おはよう、藤咲さん。早く来たら藤咲さんにすぐに会えると思って。」


そう、三学期に入る少し前から、水野くんが私に会いたいと言うようになったのだ。

初めは物好きだと思っていた私だが、私自身もだんだんと水野くんにひかれていったのだ。


またしばらくすると、未崎さんが教室に入ってきて、すぐに水野くんに近づいて言った。

「水野くん、おはよう!始業式めんどくさいね〜。」

「おはよう、未崎さん。僕は好きだよ、始業式。」

「なんで?先生の話長いじゃん。」

「先生の話聞いてる真面目な藤咲さんが見れるから。」

そういって、私に目を向けてニコッと笑った。私は顔があつくなった。

未崎さんは私を指さして言った。

「どうしてこんな女を構うのよ!藤咲さんなんかといるより、私といたほうが楽しいわよ!」

さすがの私も、この言葉には傷ついた。

「藤咲さんは、笑顔が可愛くて、優しい心を持ってて、未崎さんといるより、藤咲さんといる方が楽しいと僕は思ってるよ。」

水野くんの言葉に、さらに顔を赤くした私をみて、水野くんが、

「顔が赤い藤咲さんも可愛いね。」といった。

1人置いてかれてる未崎さんが、「もう知らない!!」と言って教室を出ていった。


その日を境に、水野くんは私に「可愛い」というようになった。

ある日、可愛いという水野くんの顔が、少し赤いことに気づいた。


–––数ヶ月後–––


「えー、みなさんはもうすぐ卒業なので、今日からは放課後残って準備をしていきたいと思います。」

「もう卒業かぁー」「まだ中学生でいたかったな」「早いなぁ」


私は、卒業したら水野くんに告白しようと考えている。

水野くんは私のことどう思っているのだろう。少しでも意識してくれたらいいのにな…。


少しずつ準備が進むなか、未崎さんが水野くんによく近づくことから、武野くんが彼氏なのは嘘って噂が流れ始めていた。それに気づかない未崎さんには言いづらく、武野くん本人に聞くと、付き合ってないと言っていたらしい。かげで、未崎さんは悪口を言われるようになったのだった。


–––卒業式当日–––


最後の日だと言うのに、今日も未崎さんは私に突っかかってきた。

「藤咲さん、私は今日、水野くんに告白するの。だから邪魔しないでね。」

「邪魔なんてするつもりないよ。したことないじゃん。」

「いつも邪魔してるじゃない!私が話そうとしても、ずっと二人で話してるじゃない!朝も、休み時間も、帰り道も!」

邪魔してるつもりは無かったのに、こんな事言われると、腹が立った。

「お互い楽しいんだからいいじゃない。邪魔なんてしてないわ。」

そう言って私はその場を離れた。


最近、水野くんのおかげで未崎さんにも言い返すことができるようになった。

水野くんには、感謝しかない。


卒業式が終わって水野くんを探していると、未崎さんが水野くんの隣にいるのが見えた。

私は2人きりなのが見たくなくて、教室に戻った。


しばらくして帰ろうとしていると、教室のドアが開て、水野くんがいた。

「水野くん?どうしてここにいるの?」

「靴があったからもしかしてと思って。僕、藤咲さんに言いたいことがあるんだ。」

水野くんが私に言いたいことなんてあるんだと思っていると、意外な言葉が耳に入ってきた。

「藤咲さんのことが好きです。付き合ってください。」

はじめは自分の耳を疑った。でも、水野くんの目は真剣で、耳も、頬も真っ赤だったので、嘘じゃないことは明らかだった。

告白しようと思ってたから、私は嬉しくて泣いてしまった。そんな私をみて水野くんは勘違いしてしまい、

「そんなに僕のこと嫌いだったの!?言ってくれれば良かったのに…。」

私はあわてて言った。

「嫌いじゃないよ!むしろ…好き、だから。」

実際口にすると、とても恥ずかしくなってしまい、顔が真っ赤だ。

水野くんから反応がなくて見てみると、水野くんは目を見開いてかすかに言った。

「藤咲さん…それ、本当…?」

「…うん。」

そう言うと、水野くんが抱きついてきた。

「こんなに嬉しいと感じたのは初めてだ!」

「…私も!」

まさか、水野くんと付き合えるなんて思ってなかった私は、嬉しさのあまりスキップしてしまいそうな程だった。


その日の帰り道、水野くんが名前呼びでいいと言うのでおたがい呼びあった。

「翔太くん。送ってくれてありがとう。」

「どういたしまして。そういえば、華蓮に渡し忘れてたものがあるんだ。」

「渡し忘れてたもの」

「うん。要らなかったらごめんね。これ、僕の第二ボタン。」

「くれるの!?嬉しい!ありがとう、翔太くん!」


私は、翔太くんの第二ボタンを、一生大事にすると決めた。

これから、大人への1歩をまた進む。


〜完〜

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