第16話 手作りのお菓子:妹

 配信お休み中の土曜日、宿題は早々と終わらせて、暇をしていた。まだ、配信が出来る気持ちになれないなぁともやもやしながら、昼ご飯をリビングで食べていると、お母さんが話しかけてきた。


「今日、廉も父さんも土曜出勤のお仕事だから、手作りお菓子でも作って渡そうと思うんだけれど、一緒に作らない?」


 お母さんは、お菓子を作るのがとても上手だ。お父さんも、兄もいない休日は、基本何か焼いている。


 昔はよく一緒に作っていたけれど、最近はあまり、そういったことは無くなった。私が忙しいせいもあるが、珍しく今日は声を掛けてきたのだ。きっと、暇なオーラを出す私を察知して、声を掛けたに違いない。


「うーーん」


 私はどうしようかなと、悩んでいる返事をすると、お母さんは何かに気が付いたように話しかけてきた。


「何?恋の悩み?さっきから、難しい顔して、どうしたの?」

「えっちょ……なにそれ、そんなんじゃないから」

「へぇ。まぁ、たまにはお菓子作りでもして、気分転換してみない?廉に渡したら、喜ぶわよ」

「な、何言ってんのお母さん、ないない」


 女というものは、母になっても鋭い。恋の悩みなどではないが、私の頭の中で、誰かの事で悩んでいることになんとなくでも気が付ける時点で恐ろしい。

 そして、あいつにお菓子を渡したらなんて、とんでもない提案をしてくることに、イラっと私は顔を歪ませる。


 すると、お母さんは続けて言った。


「廉、あんなだけれど、麗のこと大好きなのよ。骨折した時も、タイミングが悪かったって、反省してたわ」

「そうなの?あんなのが?タイミングって?」

「あなたに渡したいプレゼントがあったらしいのだけれど、渡せなくて実はショックを受けてたのよ、あ、この話、お母さんが言っていたって、廉には言わないでね」


 正直、自分の母親は何を言っているんだと、頭を捻ったが、プレゼントの話を聞いてから、私は少し反省をしていた。

 だって、あいつが私にプレゼントを渡そうとしていたなんて、考えたこともなかったし知らなかったから。


「お母さん、私、たまには作ろうかな。気晴らしに」

「よし、そうこなくちゃ!廉喜ぶわね!」

「いや、あいつにあげるなんて言ってないから!」

「ふふ、久々に麗とクッキング嬉しいわぁ」


 お母さんはにやにやしながら、私の顔を見てきて気持ち悪いが、一緒にお菓子を作れることが嬉しそうだったので、黙っていた。

 

 ま、べ、別に、あいつにあげたいわけじゃないし。


 私は、エプロンに着替えると、お母さんが用意した材料を使って、生地を作りこねる。そして、型に入れて、オーブンで焼いて、待つこと数十分。


「できた!美味しそうなマフィン!」

「麗、昔よりも手際よくなったわね!」


 お母さんは嬉しそうに褒めながら、ひとつつまんで味見をし、グッドと親指を立てて、喜んでいた。


「あ、お母さんはこれ、お父さんにあげるから、麗は廉にこれ渡してきなさい」

「え?ちょ?」

「あんた、骨折させたんだから、お詫びしなきゃでしょ?」

「待って、あれはあいつが……」


 お母さんが無理なお願いを私に押し付けてきたので、困惑していると、誰かが帰ってきた。


――――ガチャリ


「ただいまぁ、あ、いい匂い!ん?リビングに二人並んで、何してんの?」


 最悪なタイミングで、兄が帰ってきたので、お母さんは早く渡しなさいと私を押して、逃げられない状況になってしまった。

 母に押され、兄の真ん前に立たされた私は、腕に抱えた焼き立ての美味しいマフィンを……。


 叫びながら、全て放り投げてしまった。


「お、お、お、お兄ちゃん、骨折、ごごごごご、めんだからああああああ」


 バラバラに転がったマフィンなんか無視をして、私は超特急で二階に駆け上がり、部屋に籠ってしまった。


「な、なに謝ってんだ、わ、私」


 顔は赤面し、何故こんなにも頭の中がパニックているのか、私にはよくわからなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る