第10話 全治四週間:兄

 今、俺は全治四週間の診断を受けて、部屋で寝っ転がった状態で土日休みを過ごしている。松葉杖で歩かなければいけない世界を初めて経験し、足の不自由な方を電車で見かけたらすぐ席を譲ってあげようと誓った。


「あの、妹おおおお」


 ちなみに今俺は、大変お怒りである。何故だか、それは松葉杖生活に怒っているのでもないし、全治四週間に怒っているのでもない。


「もう、妹とは絶対に仲良くなんてしないからな」


 そう、妹に怒っているのだ。何があったか、話すと長くなるが、簡単に言うと、妹に階段から落とされて骨折したのである。あの日、俺は誕生日だった妹にプレゼントを渡しに行っただけなのに、パンツ姿の妹は、怒って俺を追い出し、骨折までの偉業を成し遂げた。女は怖い生き物だと、再確認した気がする。

 ちなみに、初めて女が怖いと思ったのは、母さんが父さんのへそくりを見つけて、顔をパンチし、父さんの眼鏡をぐしゃりと割った時だ。へそくりごときで、女は豹変するのだなと、初めて背筋が凍った。


 そして、俺は、妹に二度と渡すことはないであろうプレゼントを、クローゼットの隅に置いたまま、いつもと同じ日々を松葉杖で送る。もう二度と、妹と仲良くしないと誓って。

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