第4話 トップを目指す:妹
私は、今、東浦桃の葉女子高等学校の校門の前にいる。割と、私の通う高校とは近く、一時間も掛からずにここまで来ることが出来た。ちなみに、今日は自分の学校には噓をついて早退した。頭が痛いなんて言って学校を早めに抜け出してしまった。
さすがに、親には連絡は行かないよねと、不安に思いながら他校の校門でスタンバイする。スマートホンの画面には、ねねちゃんのであろう昔の写真を出しておいて、いつでも確認できるようにしてある。そして、この子が出てきたら突撃するしかないとしゃがみ込んできょろきょろするが、一向に現れてくれない。
「やばい、怪しまれてるかも」
気が付けば、ある女子生徒の気配を後ろに感じた。しゃがんで校内を覗いている私はよく考えればさすがに不審者だ。一人だけ、違う制服で門の前にいた私を不審に思っているかもしれないと、私は俯いたまま額に汗を増やして、考え込む。
これはやばい。いなくなるまで下を向いてやり過ごすしかない。
しかし、ずっといる。
ずっと後ろに誰かいる。
間違いなく私を見ている気配がする。
ふ、振り向くしかないか。それしかない。
「「あのおおおおッッッ」」
汗を増やしたまま、勇気を出して生徒の方へ振り向くと、そこには堂々と腕を組んでフンッと立っているさっき画面で見ていた顔があった。どうやら、声を同じタイミングで発していたようだ。沈黙が私たちを包むが、私はすぐに声を大にして叫ぶ。
「ねね、ねねちゃんだああああああ、探した、探したあああ」
私は大声で叫ぶと、はぁ、とため息をついて、彼女は私なんかよりも大声で叫び返してきた。
「ど!ど!どちら様かし、しらないけどおおお!ねねのこの美貌に惹かれてやってきたのねぇ!フン、いいじゃない!話を聞いてあげるわ!」
余裕たっぷりの表情で、彼女は腕を組み校門で私を指さす。私はあまりの声の大きさに驚いてしまい、口が開けないままでいた。
「な、なにかしゃべりなさい!ななななな、な、このあたしのスクープを撮りに来たのでしょ!」
「ち、近い、し、声でかいから!」
真後ろでこんな大声で叫ばれ、私は鼓膜が破れそうだった。そして、ねねちゃんの素顔を確信し、安堵する。
「てか、ねねちゃん、ほんとにひどい顔……」
「い、今、何て言ったの?もしかして、ねねのこの変装が、本当の顔だとでも、思っているんじゃないでしょうね!」
目の前に立っていたのは、このスマートホンに映る顔と同じねねちゃんだ。間違いない。ボブヘアの髪の毛に、丸い眼鏡。小さい目と、ぶつぶつの肌。間違いない、合っている。
しかし、待て、今ねねちゃんは、変装と言っていたようだけれど、どういうことだろうか。私は何を言われたのかわからず、聞き返す。
「あの、変装とは……本当の顔?あの、アイトプのねねちゃんですよね?」
そう言うと、ねねちゃんはプルプルと震えながら私に叫ぶ。
「今は、ばれないように変装モードな!の!アイトプが真の、あ!た!し!」
「えっと、それは、もしかして、今の顔を認めて……」
私が突っ込もうとすると、ものすごい声の大きさで彼女は叫ぶ。
「これは……変装なんだからああああああ」
そして、怒ったのか、彼女はフンッと駅方向に両手を下にピンと伸ばしグーにしてスタスタと歩き出す。私は慌てて彼女を追いかけ手首をつかみ、叫んだ。
「あ、あの。私にも!私にもなれますか!ねねちゃんの本当の姿みたいに、変われますか!」
めいっぱいの勇気を出して手をつかんだまま叫ぶと、彼女は立ち止まり小さな声で呟く。
「なれるわよ……なれ……」
そして、振り返り私を指さして今日一番の声量で叫んできた。
「女はね、なんだってなれるわ!ウィッグとかメイクでね、なんだって変われるの!そこのあんた、いつか、いつか、真のあなたでこのあたしを追い抜いて見せなさい!てっぺんで待っているわ!」
「ねねちゃん……」
そして、ねねちゃんはスタスタと駅方向へ帰っていった。その堂々たる背中に私は聞こえるように叫ぶ。
「ねねちゃん!!えっと……ありがとう!頑張るから!」
そして、私は決意した。
「なれるのなら、やるしかない。アイガールのトップを目指しかないでしょ!」
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