その投げ銭はお兄ちゃん
白咲夢彩
妹side
プロローグ 授賞式前:妹
あなたはこれから、マッチングアプリで出会った顔の知らない相手に会うことになるとしよう。これから話すのは例えばの話だが、その人とはまず、とても気が合うとする。そして顔は知らないがあなたを何年も一途に想い、アプリでいつだって相談にだって乗ってくれて、沢山共通点があってどんなことも話せていつだって味方でいてくれるのだ。顔は知らなくとも心のそばにいつも寄り添ってくれて、自分が安心を抱えて生きていける人なのだ。
そう、顔は知らなくともだ。
そんな相手は、運命の相手と言えるのではないだろうか。何年も何年も顔は知らなくたって、そんな幸せなやり取りが続いているのなら、結婚できるなんて思ってしまうのではないだろうか。
「私は思うね、ふふふ」
そう呟く私は、このいつもよりも広くキラキラとした天界に眩しいわねと手をかざして幸せを踏み進めている。
わからない人の為に、教えてあげよう。
今私は何が言いたいかって?
私は今幸せなのだよ。
これからさっき話したような、運命の相手と会うのだから。
初めて、運命の人の顔を知ることができるのだから。
「超ブサメンだったらどうしよう……いや、ないないない!絶対彼はそんなことないわ。だって、大学生美男子が集う雑誌に、載ったことがあるんだもの。どの人か、わからないけれど……そう書いてあったもの……でも、イケメンじゃなくたって私はもう幸せよ」
私は待ちに待ったこの日を迎え、ドキドキを強くしながら幸せを増やす。
幸せは歩けば歩くほど膨らみ、空まで飛んでしまいそうだ。宇宙だって行けるのではないだろうか。
「あぁ……緊張する」
幸せと同時に緊張も増えるのだが、その緊張だって幸せなのだ。
私は今、幸せ過ぎて遥か彼方まで飛んでしまいそうな訳だけど、これから運命の人に会う前に、どんな出会いだったか気にならない?知りたい人がいるだろうから、運命の人との出会いを教えてあげるわ。
あれは、私が高校二年生になったばかりの頃だった。校則に引っかからないような長さのスカートに地味にふたつに結んだ黒髪でその日も登校し、机でいっぱい寝て、あっという間に帰宅したわ。そして、帰ってからは秒で晩御飯やお風呂を済ませて、そのあとは明るいウィッグとキラキラなメイク道具を片手に部屋へこもって、私の世界に入ったの。そこで出会ったのよ。
まず、私の世界が何か知らない人のために説明するわ。
教えてあげるわよ、私の世界が何か。
それは……。
アイドルトップガール。
略してアイトプ。
生配信アプリよ。
女子高校生や大学生……熟した大人まで様々なキラキラ女子たちがスマートホンの中で色とりどりのアイドルになれるアプリケーション。
生ライブ配信では、皆、バッチリメイクを決めて登場し、ファンと沢山おしゃべりするわ。
歌を歌うアイドルもいれば、演奏をするアイドルだっている。お笑いが大好きな元気っ子もいれば、熱血系アイドルもいる。そして、色とりどりのアイドルたちは、個性を生かし、沢山のファンに囲まれてトップを目指すの。
どんなオンナもアイドルになれる。
それが、アイトプ。
そして、あの日、私は配信を始めて三日目でやっとファンが出来た。学校の友達に、ばれるのが恥ずかしかったから、まだ、仮面をかぶって顔は出してはいなかったけれど。それでもファンが出来たの。とても嬉しかったわ。
そして、そのファンの人は私にこれからの期待を込めて、初めて投げ銭をくれた。しかも特大の。
ファンは生配信画面で、好きなアイガールにコメントと投げ銭をすることで応援が出来るの。
このアプリは、配信側は投げ銭を貰って稼げるシステムなのだけれど……バイトなんてしたことなかった私には、お金を貰えたこともそうだけれど、あのドキドキする、ファンからの愛を貰った喜びは今でも忘れない。そして、あの人がファンになってくれた日を忘れはしない。
そして、今、私はアイトプでトップの存在になった。ここまで来るのはとても大変だったけれど、あの人のおかげで私はここまで登ることが出来たの。数々の有名なアイガールたちよりも、私は遥か上にいるの。
そんな私はこれから、トップガールとして授賞式に行くわ。全国放送の生配信よ。あの金の豪華な座椅子に座るのよ。
そして、約束したの。
授賞式の後、私をトップへ育てたと言えるあの人と会うことを。
運命のあの人に。
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