第107話 西門への再訪


「おぉーい! おぉーい!」


 西門に近づくと何度も呼び声が聞こえてくる。

 その呼び声に誘われるまま向かうと、そこには大きく両手を振る1人の青年の姿が。

 完全に人物を特定できる頃にはかなりの接近を。これほどの速度で駆けているのだからまぁ当然か……そう思う間に青年のすぐ側まで来ていた。


「兄さん、暫くぶりっス! 会いたかったっス!」


 俺達が目の前まで来るなり、満面の笑みを浮かべる青年。その青年とは衛兵Dである。


「あぁ暫くぶり。あれから西門は大丈夫だった?」


「はいっス! 魔物1匹来てないっス! ……ってあれ? そっちのコは誰っスか……? あっ! もしかして、コレっスかぁ〜?」


 ムツコに目を向けたかと思ったら、すぐにこちらを見ては右手の子指を立ててニヤニヤする衛兵D。

 色恋に疎い俺でも衛兵Dが何を言わんとしているかは察しが付いた。すぐさま誤解を解こうと口を開く瞬間、右隣からムツコの慌てた声が響く。


「そそそそんな! おおお恐れ多いです! 私ちゃんなんかがキュロス様と、こここ恋人なんて……!」


 顔を真っ赤にして俯くムツコ。そんなに顔を赤くされると俺まで照れてしまう。

 その後、照れながらも衛兵Dに目を向けたが、未だにニヤニヤとしている様子。

 再び誤解を解こうと口を開くが、今度は西門の奥から別の声が響く。


「あっ! なんか声がしたと思ったら……兄さん! 暫くぶりっス!」


 そう声を上げたのは衛兵Eだ。こちらの青年も「おぉーい!」と満面の笑みを浮かべながら両手を振って駆け寄ってくる。

 ほう、中々良い走りをしているな……と俺が感心するなか、衛兵Eは俺達の目の前へ。そして、切れた息を整えてから喋り出した。


「はぁはぁ……兄さん、会いたかったっス! あっ、こっちはあれから魔物は1匹も……って、あれ? そっちのコは誰っスか……? あっ! もしかしてーー」


「ーー違うからね?」


「!? ……はい」


 先んじて俺が否定したことにより、衛兵Eの出鼻を挫き黙らせた。ついでに言うなら、笑顔のまま黙れオーラを出したことが大きな勝因だろう。まぁ、勝ち負けではないが……


「……むぅ、そんなに早く否定しなくてもぉ……」


 何故かむくれるムツコ。本当に何故だ……?


「……そ、そういえば、セイナさんは?」


「えっ、あっ、姐さんなら、あそこに……」


 話題を変えようと咄嗟にセイナの居場所を聞くと、衛兵Eは指を差して方向を伝える。

 そして俺達はその方向に振り向く……と、遠くの方に人影が映った。

 よく見ると、確かにその人影はセイナで間違いない。ただ、なんらかの作業をしている様子ではあった。

 一体、何をして……? と思っていると、セイナは俺達に気づいたようで、ゆっくりとこちらに向けて歩き出す。



「すみません、お待たせしました」


 少し待つことにはなったが、セイナは俺達の元へ到着。

 開口一番に謝られたが皆待つ間に不満はなく、寧ろ夢中になってセイナの歩き姿を見ていた。それほどまでに美しく気品のある歩き姿であったのだ。

 因みに女性であるムツコも同様に感じていたようで、セイナを待つ間に「あれが、オトナのオンナ……」と無意識に呟くほど。

 きっと幼く見られるムツコの瞳には、セイナが理想の女性として映ったのだろう。


(まぁ、無理もないか……)


 この時、ムツコの身体を見ながらそう思う俺であった……

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