第89話 形容し難い光景


「そ、その黒服の人は一体誰なんですか……?」


 イズナから纏雷が使える理由を聞いたが、その理由は黒いローブを身に纏った見知らぬ人物から教わったとのことで、当のイズナも何故教えてくれたのかは分からないそうだ。

 俺の質問にも「うーん、さっぱり分からないわ……」と言って頭を悩ませているので、嘘を付いているとはとても思えない。

 だがそれでも「他に何か気づいたことはないですか?」そう尋ねてみると……



「……あっ! 思い出した! 確か、右側に変な紋様が付いた黒い耳当てをしてたわ!」


「へ、変な紋様……ですか……?」


「えぇ! しかも、あんな立派な耳当てをしてるのに会話できてたし、言葉も流暢だった!」


「なるほど……」

(あの人と同じように、塞いでもそれを感じさせないってことか……紋様といい、まさかな……)


「因みに、その変な紋様ってどんなのでした?」


「えっと……銀色の刺繍で十字架と蛇が縫ってあったわ……確かそう、十字架に蛇が巻きついてる感じで!」


「えっ!?」

(まさかとは思ったけど本当に……そうなると、あの人と関わりのある人物ってことになるな……)


 神妙な面持ちで考え事をしていると、前方で土煙が立ち昇る様子を瞳に映す。

 しかし考え事に夢中となり、何も気にすることなく直進しているうちに、いつの間にか100匹以上いる魔物の群れに追いついてしまう。


「ねぇ……ねぇってば! アナタ何考えてるの!? ……はっ!? まさか、このまま突撃する気!?」


 イズナの言葉でハッと我に返ると、既に魔物の群れの最後尾にまで接近しており、危うく魔物と激突しそうになる……が、寸前のところで急停止し、少し間合いを空けてから魔法を唱えた。


「ふぅ、危なかったな……それより、後ろからで悪いが倒させてもらう! 来い、氷鷹ひだか!」


 左手を天に向けて魔法を唱えた直後、空中で吹雪が球体状に舞い、その吹雪が一気に爆ぜると、そこには氷で象られた巨鷹が姿を現す。

 蒼氷の翼を豪快に羽ばたかせ、魔物の群れの上空を飛翔していくと、蒼氷の翼からキラキラと輝く氷の粒子を魔物達の頭上に降り注いだ。



「ひっ、ひぃぃぃっ!? なななっ、なんだアレは!?」


 遥か前方から男の悲鳴が響いてくるが、きっと氷鷹を見て驚いたからに違いない。

 そして、一方の魔物達は頭上から漏れなく凍っていき、じきに100を超える全ての魔物が駆ける姿のまま氷漬けとなる。

 その光景は夕陽と相まって、圧巻であり幻想的でもあり、なんとも形容し難い光景であった。

 その後、氷鷹は輝きながら氷の粒子となって消えていき、俺とイズナが冒険者達の元へ駆けつけると、腰を抜かして立てずにいる5人の姿が。



「皆さん、大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」


 俺の呼び掛けに5人は、思い思いの体勢で腰を抜かしたまま、呆けた顔で何度も頷く。

 その5人は皆Cランカーらしく、男4・女1という女性を巡って争いが起きそうな組み合わせだ。

 しかも唯一の女性は色気が物凄いうえに、ロングスリットの赤い旗袍チーパオを見事に着こなしている。


(み、見ちゃダメだ……けど……)


 どうしてもスリットの隙間から見える生脚が気になってしまい、その生脚から目が離せずにいる俺であった……

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