第26話 セリーヌ


「……はっ!? いっ、今っ、何時だ!?」


「キッ!?」


 俺は慌てて起き上がった……が、どうやら夢を見ていたようだ。

 時系列はバラバラだったが、過去の記憶であるのは間違いない。


「キッ!? キッ!?」


 寝惚けて急に起きたものだから、モモが何事かと驚きながら辺りを見渡している。

 今までの俺だったら声を上げて笑っていたのだろうが、今の俺では笑えなさそうだ。


「モモ? 俺が寝惚けたせいで起こしちゃってごめん……」


「キキキッキッ!」


「気にするな? ははっ、ありがとう……」


 モモのおかげで少しは笑えるようだ。

 だがその時、ふと昨日の出来事を思い出す。



「……うぅ……い、嫌だ……やめてくれ……これ以上は思い出したくない……た、頼む……やめてくれ……頼むから……ううぅ……」


「……キィ……」


 頭を抱え込んで苦しむ俺を見て、モモは心配そうに声を掛けてくる。


「だ、大丈夫……もう少し時間が経てば落ち着くはずだから……」


「……キキィ……」


 モモが心配するなか、俺は座ったまま俯き、暫くの間何も考えずに過ごした……




「ねぇ、何してるの?」


(……誰だ? 俺に話し掛けているのか……?)


 そう思いながらゆっくりと顔を上げて、声を掛けてきた相手の顔を覗く。すると……



「!? せ、セリーヌ……!?」


 俺に声を掛けてきたのは、元恋人である『セリーヌ』であった。

 セリーヌとは生まれた頃からの幼馴染で、20歳の時に恋人となり、そしてつい2日前に破局したばかりというただならぬ関係である。

 まぁ破局したといっても、一方的に俺が捨てられ……いや、フラれたわけだが……



「ねぇ、何ポカンとしてるの?」


「……えっ?」


「はぁ、まぁいいわ。それより、こんなところで何してるのよ?」


「あ、あぁ……昨日ちょっと、門限に間に合わなくて……」


「ふーん……じゃあ、昨日野宿して今に至るって感じね?」


「あ、あぁ……まぁ、そんな感じかな……」


「ふーん……」


「……」

(うっ、何故か気不味い……)


 気不味い雰囲気が漂い出し、少しの間だが沈黙となる……



「……ねぇ、街の中に入らないの? もうとっくに開門時間は過ぎてるけど?」


「あ、あぁ……今はちょっと……」


「ふーん……じゃあ、一緒に中へ入る?」


「えっ……街の中へ……一緒に……?」


「えぇ、そうよ?」


「……」


 セリーヌに誘われた際、一緒なら恐怖にも耐えられるのでは? という思いが浮かぶ。

 しかし、結局は恐怖が勝り、行動に移すことができずにいた。だがその時……



「ほらっ、行こ?」


 そう言ってセリーヌは俺に右手を差し出す。

 その右手はとても輝いて見え、無意識に俺は左手を動かしていた。


「……あ、あぁ! 行こう!」


 まるで導かれるように差し出された手を取り、力強く立ち上がった。

 すると、セリーヌはパッと俺の左手を離して西門へ向けて歩き始めたので、狼狽えながらもセリーヌの後に続いて歩くことに。

 そして歩きながら毛布をアイテムポーチへ収納。その後ふと顔を上げた瞬間、セリーヌの横顔が瞳に映る。


「えっ……!?」


 その瞬間俺の瞳には、セリーヌの横顔が怪しげに微笑んでいるかのように映っていた……

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