第15話 もう1つの脅威


「ふぅ……さて、この現状をどうするかなぁ」


 前回とは違い、思考は鈍っていない様子。

 しかし、ヒュドラは目前まで迫ってきており、今は予断を許されていない状況である。

 そんな状況のなか、現状の打開策を考え始めた。



(……大丈夫。俺ならきっとやれるはずだ)


 ヒュドラの姿を目の当たりにしても、今の俺には不安感や焦燥感などは一切感じない。

 寧ろ、冷静になれているのが俯瞰で分かるほどである。


「思考や視界がクリアな状態だなんて、こんなことは初めてだな……」


 そう呟きながらも打開策を考え続けており、まるで脳が複数あるかの如く様々なことを熟せる状態のようだ。

 それは謂わゆる「覚醒」と呼ばれる状態であり、その覚醒はニカナによる影響で相違無い。




「……!! うーん、この策か……どうするかな……よしっ、この策で行こう!」


 現状の打開策を閃くが、その策は色々と成功させなければならず、まるで綱渡りのような策ではあるが、それでも臆することなく閃きを信じて打開策を実行することに。


 先ずは右足が嵌った状態で毒沼に左手を突き魔法を唱える。


虎砲こほう!」


 左手の掌から高出力の衝撃波が発生。

 それにより身体が一瞬で宙を舞い、見事に毒沼から右足を抜くことに成功。

 落下前に透かさず次の魔法を唱える。


「天舞!」


 自身の身体を空中に浮かせたので毒沼に足を突かずに済み、併せて直接的な毒の影響も防ぐことにも成功。

 空中での体勢を整えてから更に魔法を唱える。


空牙くうが!」


 ヒュドラへ向け放たれたのは無数の真空の刃であり、裂空のような高威力ではないがその分手数が多い魔法である。

 その無数の真空の刃がヒュドラの全身を斬り刻む。


「ジュロロォッ!?」


 ヒュドラは全身から無数の出血となり、突然のことに驚き動揺して歩みを止めた。

 これでヒュドラの足止めに成功。


「良かった! 全て上手くいってくれた!」


 練りに練った現状の打開策は全て成功に終わる。

 だが、今の状態ではすぐに再生されてしまうと判断して、間髪入れず次の攻撃に出た。


「もう1発だ! 空牙!」


 立て続けに空牙を唱え、ヒュドラの全身は無数に無数を重ねた傷と大量出血となり、最早生きているのが不思議なほどである。

 本来なら同じ魔法の連唱は不可能なのだが、ニカナの影響により2連唱が可能となっており、この超絶スキル「連魔解放」だけでもニカナを持つ理由としては充分だろう。

 そして2連の空牙により、倒せずとも再生速度を遅らせることはできたハズ。



「……!! 今だ!」


 千載一遇の好機が訪れ、その好機を逃す気は更々無い。

 速攻でヒュドラを倒すため、最短距離で移動可能な魔法を唱える。


天駆てんく!」


 天舞のように空中を舞うのではなく、空中から一直線にヒュドラの元へと駆けていく。

 そしてそのまま勢いに乗り、ヒュドラへの接近を試みることに。


「よーし、このまま行けば勝てる!」


 俺は勝利を確信していた。

 しかし、この時はまだ気づいていなかったのだ。

 もう1つの脅威が既に迫っているということに……

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