第11話 揺るがぬ意志


「……チリッ、チリチリッ、チリッ……」


 花や草の焼ける音だけが響く……


 大爆発の影響によって辺りは一時炎上するが、徐々に鎮火が進み落ち着きを取り戻してゆく。

 そして、合わせるように黒煙や土埃も少しずつ収まり出し、次第に視界が開けてくる。



「やっと収まってきたか……」


 その言葉が言えるということは、何やら俺は無事のようだ。

 しかも身体には傷一つない様子で、いつの間にか五感や身体の感覚も戻っていた。



 黒煙や土埃がほぼ収まると、漸く辺りを見渡せるようになる。

 爆裂甲虫は俺を道連れにと考えて自爆したようで、既に原型を留めてはいない。

 僅かに残った身体の一部を黒箱へ収納して、俺はその場から立ち去った。



「それにしても、どうして俺は無傷なんだ?」


 疑問ではあるが察しはつく。

 それはニカナによるものであり、あの大爆発の瞬間に男性の声が聞こえた気がした。

 流石のニカナでも勝手に守護はしないと踏んだのだが、どうやら違ったようで寧ろ僥倖である。


「ニカナの張ってくれた、この結界のおかげで助かったのか……ありがとう、ニカナ……」


 俺の周囲には青色透明の結界が張られている。

 風魔法では間に合わないと思っていたのだが、どうやらニカナが結界を張ってくれていた模様。

 因みに結界の名称は「幽世かくりょ」と命名。


 しかし、流石に今回だけは焦った。

 もしニカナが結界を張らずにいたら、きっとタダでは済まなかっただろう。

 それほどまでに激しい爆発であったのだ。



「……うしっ!」


 気を取り直したあと、毒沼地帯へ向けて再び歩き出す。



「……!! あっ、そうだ! 今のうちに確認しておこう!」


 歩きながらも今のうちに所持品の確認をと閃いたため、早速だが確認を始めることに。


 先ずはアイテムポーチだ。

 空間拡張の魔法が付与されたポーチで、見た目よりも多くの収納が可能である。

 但し、安物なのであまり多くの物は入れられないが。


 次はこの腕魔時計だ。

 僅かな魔力で動く時計で生活必需品である。

 これも安物だが、意外に丈夫で長持ちなのが嬉しい誤算。


 続いては鋼鉄製ナイフだ。

 通常の鉄製ナイフよりも丈夫で壊れにくい。

 無けなしのお金で購入した逸品である。


 最後はやはり、この『ニカナ』だ。

 虹色に輝く謎の宝石? でコレを身に付けているだけで自信が湧いてきたり、あり得ないほどの力とチカラを発揮することができる不思議な石。


 因みに、そのニカナは御守袋の中へ大切に仕舞ってあり、他にも茶色のクマさん毛布とお金を少しだけ所持してはいるが、それらはアイテムポーチの中に入れてあるのだ。

 以上が俺の所持品となるが、少なすぎて涙が出そう……




「こ、ココが……」


 暫く歩いたが爆裂甲虫以降、魔物の気配はほぼ感じない。

 理由は恐らく、ココの近くにはいたくないからだろう。

 そう、漸く辿り着いたのだ。この、驚ろ驚ろしい毒沼地帯へ……



「この雰囲気は……なんとも言えない嫌な感じがする……」


 流石にこの驚ろ驚ろしい雰囲気の中で平静ではいられず、背中からは冷や汗が流れた。

 嫌な感じがするのもきっとそれが原因だろう。

 しかし、それでも俺の意志は揺るぐことはない。


「ふぅ……よし、行くか……」


 緊張感を漂わせながらも、沼地の中へと歩を進めるのであった……

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