第一部 四章【新たなる物語の幕開け】

第71話襲来! 風のマクツ(*ユニコン視点)


「殿下! これ以上は危険です! 引き返しましょう!」

「煩い! 黙れ! 余は大陸を魔族から守る白の勇者! 聖剣タイムセイバーが所持者と認めたユニコン=ネルアガマであるぞ!」


 ユニコンの怒りに満ちた声が甲板を席巻する。

 いつものわがままが始まった……と思った将軍口を閉ざす。

船員達も、理不尽に怒鳴られてはたまったものではないと思い、黙って操舵作業に従事する。


 総数10隻にもなる対魔連合の大艦隊はユニコンの指示に従って、不気味な静けさに包まれた洋上を進んでゆく。

 向かうはドロス海の果て。

 大陸と、侵略者である魔族の故郷魔大陸のはざま

 盾の戦士ロトがシフトシールドを使って生み出した、大陸をドーム状に覆う障壁の一端である。


 これまでは半年ほどの間ならば、魔族の侵攻を阻むことができていた。

しかしここ最近、魔物達の攻勢が凄まじく、このまま行けば2ヶ月と経たないうちに、崩落してしまう可能性があった。


(見ていろ……余をコケにした馬鹿者どもめ! 吠え面を描かせてやる! 特にロト! 貴様は必ず余へ傅かせてやるぞ!)


 根にもつタイプのユニコンは心の中で、そう固く決意を結ぶ。


 やがて周囲を流れる風が不快な湿り気を帯びる。

空は暑い雲に覆われて、轟を上げている。

そして水平線の向こうに、罅をを浮かべた金色の壁が見え始めた。


 半透明の壁の向こうでは、有象無象の魔物が火炎や毒液を撒き散らしている。

 人間と同等の知能がある魔物は、巨大な船を操り、艦載されている衝角での体当たりや、大砲での砲撃を行なっている。


 壁に群がる魔物達の勢いは凄まじい。壁の崩落は時間の問題である。


「で、殿下! お待ちを!」

「ええい! 煩い! 貴様は黙って戦闘準備を進めよ! こういう時こそ、余が先陣を切らねば、兵の士気に関わると分からぬか、愚か者め!」

「し、しかし!」

「者どもよ! 我に続けぇー!」


 ユニコンは将軍の制止を振り切って、船から飛び立った。

 莫大な魔力に由来する飛行能力は、ユニコンを矢のごとく洋上を疾駆させる。


 その時、障壁がガラスのように破裂した。

巨大な穴が生じ、そこから続々と魔物や、魔族の艦艇が侵入してくる。

 

 ユニコンは腰の鞘から、聖剣タイムセイバーを抜く。

 タイムセイバーが壮絶な赤い光を放った。


「滅べぇ! 余の生み出し必殺剣で! ぬおぉぉぉ! デストロイアエェェッジ!!」


 光は巨大な刃へと変化した。

 赤く巨大な刃は海を割と、群がる魔物を一発で蒸発させる。

更に艦艇までもが切り裂かれ、海の藻屑となる。

 威勢よく侵攻して来ていた魔物達へ動揺が走った。


「くははは! 見たか! これこそ余の力! 余は唯一無二の白の勇者! 大陸を貴様らの脅威から守る者ーーユニコン=ネルアガマであるぞ!」


 ユニコンは高笑いを上げつつ、洋上を飛翔し、真っ赤に染まったタイムセイバーを振るい続ける。


「殿下を援護するのだ! 飛龍隊全隊全力発艦!」


 将軍の指示を受け、全ての艦艇から無数の飛龍隊が飛び出した。


「続いて、各艦支援砲撃開始! 弾薬は惜しむなよ!」


 対魔連合艦艇に搭載されている大砲が、一斉に火を吹き始める。


 飛龍隊は火炎放射や、魔法爆雷を撒き散らす。

 艦艇の砲撃が海を穿つ。

相変わらずユニコンは真っ赤に染まった聖剣で、敵の駆逐を続けている。


 狭い道を通ることしかできない魔物達は、成すすべも無く、次々と海の中へ沈んでゆく。

もはやこれは戦いではなく、一方的な蹂躙であった。


(余は次代の大陸の覇者! そして勇者! 余には大陸を守る責務がある!)


 そう思いながら戦うユニコンの背中が、揺れを感じ取る。

 驚いて振り返ると、味方の艦艇が一隻、爆発し海の中へと沈み始めていた。


「こ、これは!?」


 ユニコンは強大な気配を感じ取り、空を仰ぎ見た。

 空までも覆っていた障壁の一部に穴が空いていたのだった。

そして空には、緑の外套を纏った人影が窺える。


 飛龍隊が緑の外套の人影へ群がり始める。

 しかし近づいた瞬間に、飛龍の首が次々と切り落とされた。

まるで見えない刃に切り裂かれているようだった。


「僕に挑むには君たちじゃ力不足だよ。ごめんね」


 更に緑の外套から翡翠色をした光球を放つ。

 光球は無防備を晒していた将軍の乗る旗艦へ降り注いだ。


 旗艦が爆発し、数多の悲鳴が洋上に響き渡った。


「しょ、将軍! ブラノア将軍! おのれぇ……貴様ぁぁぁ!!」


 最も信頼していた部下を失ったユニコンは激昂し、飛び上がる。

遮二無二、緑の外套へデストロイアエッジを放つ。

 緑外套はひらりとかわすが、赤い刃に顔を覆っていたフードが切り裂かれた。


「へぇ……僕に当てられたんだ。君すごいね?」


 緑外套の素顔が白日の下に晒された。

鳥のような顔を楽しそうに歪め、ユニコンを見下ろす。


「余は白の勇者ユニコン=ネルアガマ。貴様、四天王の一人だな?」

「ご挨拶どうもありがとう! なら返礼を……僕の名前はマクツ。魔王ガダム四天王の一人【風のマクツ】だよ! よろしくね、ユニコンさん!」


 鳥男ーー風のマクツはひょうげた声音で、丁寧に礼をしてみせた。

 そんな余裕な様が、ユニコンの勘に触った。


「死ねぇ!」

「おっと!」


 ユニコンの斬撃を、マクツは風の中を舞う木の葉のように、ひらりとかわしてみせる。


「いきなり死ねとか、怖いなぁ、もう……」

「ええい、黙れ! 貴様のせいで数多の兵が死に、ブラノア将軍までもが……許さん! 貴様だけは絶対に許さぬぞぉ!」

「それはこっちの台詞だよ。散々僕たちの仲間を殺しておいてよくもそんなこといえるよね!」


 マクツは緑の外套を翻し、無数の風の刃をユニコンへ放つ。

 ユニコンは舌打ちをしつつ、その全てを聖剣で切り裂き、弾く。


「余は勇者! 大陸を、民を、貴様ら魔族から守るものぞぉ!」

「僕だって負けられないだ! 壊すことしかできない、こんな僕に優しくしてくれた土のファメタスさんと水のリーディアスさん……そしてお前達に殺されたたくさんの同胞の仇! ここで晴らさせて貰うよっ! KUTUUU!」


 白と緑の閃光が洋上を激しく駆け巡る。

かくして白の勇者ユニコンと、魔王ガダム四天王の一角、風のマクツとの空中決戦が始まったのである。

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