第59話色々な面のあるデルタ


「デルタ。パーティーを結成すると言っても、俺もジェイも冒険者ギルドには登録していないぞ?」

「大丈夫! 問題ない! オッゴ!」

「は、はいぃ! ど、どうぞ!!」


 デルタはオッゴから何枚かの羊皮紙の束を受け取って、堂々と受付へ向かってゆく。

それらの書類を見せると、すんなり手続きが終わる。

 書類を借りて見てみると、デルタとオッゴは冒険者として登録されていて、ノルンとジェイは今回の依頼にのみ適用されるゲスト冒険者となっていた。


「なるほど……しかし、ゲスト冒険者制度は金等級以上の冒険者が申請できたはずだ。デルタはいつの間に冒険者としてそんな成果を?」

「ガウ? よくわからん……我がやって欲しいと頼んだら、オッゴがなんとかしてくれた!」


 さらりとそう言うデルタの傍で、竜人となったオッゴが苦笑いを浮かべている。

どうやら、オッゴの苦労の末の結果らしい。


「それにどうして俺とジェイなんだ? パーティーを組むならそれこそロト達で良かったのではないか?」

「我、ノルンと狩りたい! ノルンとが良い!!」

「ま、まぁ、百歩譲って俺は良しとしよう。だが俺以外のメンバーだったら、それこそビグやラングを竜人化させて……」

「雌、ダメっ! 我以外の雌、不要! ンガァァァ!!」


 デルタがものすごい咆哮を上げた。

咆哮が衝撃波を生みひ弱な冒険者や書類を吹き飛ばす。

このままでは集会場が崩れかねない。


「わ、わかった! このことはもう聞かん! だから落ち着け!」

「ガウッ……わかれば良い……我、みんなの装備取ってくる! 少しここで待つ!」


 デルタは一方的にそう言って走り出す。

 そんな彼女の背中を見ながら、竜人となったオッゴが苦笑いを浮かべている。


「大変だったようだな、オッゴ」

「デルタ様、ヒルドルブの討伐依頼も、ゲスト冒険者申請も金等級以上じゃないとできないって、何回もご説明しても全然ご理解して頂けなくて……まぁ、ウェイブライダの次期族長だし、三姫士だから、実力的には大丈夫かなって、少し書類を……」



つまりは公文書の捏造……さすがにこれは元勇者として、見過ごしてはいけないと思ったのだが……


「ここ最近、仕事終わりに書類準備ばっかやってたら、全然ガザの面倒がみれなくて……そしたらここ最近、ボルちゃんが口を聞いてくれないんですよ……子供が産まれるまではラブラブだったのになぁ……ははは……」


 オッゴは遠い目をしながらそういった。


(さすがに、ここで責めるのは気の毒か……)


近いうちに飲みに誘って、色々と愚痴を聞いてやろうとノルンは思うのだった。


「待たせた! ここ人でいっぱい、うざい! 外で話す!」


 大きな葛を背負ったデルタはそう言い放った。

随分な言いようだが、デルタの放つ覇気が、他の冒険者たちを閉口させる。

ノルンたちは居心地の悪さを覚えつつ、デルタに続いて、集会場から外へ出てゆく。

 デルタは準備した装備品を各自へ配布し始める。


「オッゴ、これ!」

「りょ、了解です!」


 オッゴは対巨獣用に開発された速射・連射の可能な弓弩――突撃弓弩アサルトボウガンと装備一式が配布された。


「お前はこっち!」

「まぁ、これなら……」


 ジェイには弓と、その装備一式が渡された。


「準備完了! いざ!」

「デルタ、俺の装備は……?」


 一人だけなにも渡されていないノルンがそう声をかけると、


「バン……がうぅ……ノルン、我と一緒! 我とお揃い、斬空竜牙剣!」

「確かに持ってはいるが、今の俺では……」

「お揃い! 一緒! 我とノルンは一緒! 一緒が良い! ガアァァ!」


 デルタは妙に嬉しそうに吠えながら、尻尾をパタパタさせていた。

どうやら聞く耳は持ち合わせていないらしい。


(まぁ、なんとかなるだろう……それにもしも本当にヒルドルブが目撃されているなら、ヨーツンヘイムのためにも討伐は必至だ)


 地を這う陸の覇者。

 戦の狼。

 100年周期で地中から目覚め、大暴れをする地龍こそ、今回の標的のヒルドルブである。

直近の目撃証言は10年前で、明らかに周期が早い。

原因は未だわからずだが、放置すれば村はおろか、ヨーツンヘイムやマルティン州へ甚大な被害が及ぶことは容易に想像できる。

 ノルンだけならば手に負えない巨獣だが、今、側には三姫士の中でも最も戦闘力の高いデルタがいる。

 この機会に討伐するのは、今後のことを考えても、とても良いことである。


 かくして装備を整えたデルタをリーダーとする、ヒルドルブ討伐隊は、件の巨獣の目撃報告が上がっている、ヨーツンヘイムの中でも最も奥にある山ソンネンへ入ってゆく。


「デルタ様! みなさん! 敵、感あり! 北北西より侵攻! 数10! 闇小竜ダークレッサードラゴン! あと30秒で接敵です!」


 道中、オッゴが声高らかに報告を叫び、突撃弓弩を構えた。


「ま、マジか!? ええっとぉ!!」


 これが初戦闘のジェイは慌てて弓を構え出した。

 ノルンもまた、左腕にはめた魔法上金属の小手を握りしめる。


「温い! 先手必勝! ガァァァ!!」


 デルタは真っ先に飛び出して、顕現させた竜牙の大剣ーー斬空竜牙剣を思い切り薙いだ。

 重く鋭い刃が何本もの太い木々を薙ぎ倒し、激しい風圧が枝葉を激しく揺さぶる。

 そして、胴を跳ね飛ばされた何匹もの闇小竜の死骸が空へ舞い上がる。

すると、大剣を思い切り薙いだために、若干の硬直状態に陥っていたデルタへ、別の闇小竜が接近する。


「ごめんね……でもこれもお仕事ですから……狙い撃っちゃうです!」


 最後方のオッゴが、突撃弓弩の引き金を引いた。

 炸薬によって打ち出された鋼の矢が、闇小竜の頭を一撃で吹き飛ばす。


「ナイス、オッゴ!」

「背中はお任せを! ガンガンやっちゃってくださいデルタ様!」

「ガァァァ!!」


 デルタは翼を開いて、空へ舞い上がる。

 空中の闇小竜は火球を吐き出そうと、空気を吸い込み始めている。


「させないですよぉ!」


 オッゴの援護射撃は、闇小竜の姿勢を崩し、火球の発射を防いだ。


雷斬ボルティックスラッシュ! ガァァァ!!」


 稲妻を纏ったデルタの竜牙刀が敵を切り裂き、焼き尽くす。

 更に、噛みつこうと突撃してきた個体を片手で受け止めた。


「威勢は良し! しかしひよっこ程度に遅れを取る我ではない!」


 デルタは闇小竜を地面へ叩きつけた。

 

「もっとだ! もっとこい! 我を楽しませろ! ガァァァ!!」


 デルタは空中を自在に舞いながら、咆哮を上げて、


「俺もがんばっちゃいますですよぉ! ガァー!」


 なんだかんだでノリノリなオッゴは嬉々とした様子で突撃弓弩を撃ち続けている。

やはりオッゴも男の子で、更に獰猛な飛龍だったようだ。


「す、すげぇ! デルタの姉ちゃんもだけど、オッゴもすげぇよ!」


 ジェイはデルタとオッゴの活躍ぶりをみて、すごく興奮していた。


「でも、これじゃ俺らっている意味あるのかなぁ……」


 それはノルンも同意だった。

 あまりにデルタが強すぎて、ノルンとジェイはぼぉーっと眺めていることしかできなかったのである。



⚫️⚫️⚫️



(結局、今日は帰れなかったか……)


 ノルンは星空の下で、焚き火を眺めながらそう思った。

 一応、リゼルへはこの状況を、細かく吹き込んだウィルオーウィスプを向かわせてはいる。

それでもなるべく早く帰らねば、きっとリゼルが心配するに違いない。


 ならばやるべきことは一つ。

 早く巨獣ヒルドルブを見つけ、討伐することである。


「くかー……すぴぃ……うっせぇなぁ、トーカは……! あ、ご、ごめん……にしても、いつの間にトーカの胸がそんなに……!すぅー……」


 歩き疲れたジェイは食後にすぐ寝てしまっていた。


「ふふ……ガァー! 磨きますぞぉ! ちゃっちゃと装備磨いて、さっさとヒルドルブ倒して、ガザのところへ帰りますぞぉ! ボルちゃん、今夜も帰らないから怒ってるかなぁ……」


 オッゴはデルタに言われるがまま、ヒィヒィ言いながらも、各自の装備品の手入れをしている。


(まぁ、焦っても仕方ないか……)


 そんな腹を決めたノルンの肩を、チョンチョンと何かが突いてきた。


「どうしたデルタ?」

「ガウゥ……」


 尻尾の先で肩を叩いてきたデルタが、俯き加減で佇んでいる。


「なにか話か? だったらもっと近くに寄れ」

「ガウッ!」


 デルタはパァッと表情を明るくすると、尻尾をパタパタさせながら、ちょこんとノルンの隣に座ってくる。

 普段は強く、勇ましい彼女だが、時々こうして小動物のような態度を取るのが、また可愛いところである。

 

「バンシ……グゥ……ノルンの側、嬉しい」

「そうか。俺も久々に君と過ごせて嬉しいと思っている」


 デルタは更に尻尾をパタパタとさせた。


「あと、ご飯、美味しかった。ようやく食べられた」

「ようやく、とは?」

「ジェスタとアンクシャに聞いた。二人とも、ノルンと一緒にご飯食べた。でも、我、未だだった。だけど、今日、ようやく一緒に食べられた! ノルンのご飯、美味しかった! 嬉しかった!!」


 あまり食材がなかったので、豆と保存食の肉を煮たものを作っただけだった。

しかしそんなものでも、ここまで喜んでくれているのなら、作った甲斐があったと言うもの。


「ありがとう。今度はもっと美味いものをご馳走しよう」

「楽しみにしている……」


 不意にいつもは勇ましく竜牙剣を握っているデルタの指先が、服の裾を摘んでくる。

そんなか弱く映るデルタの姿に、自然と胸が高鳴った。


「ど、どうかしたか……?」

「嬉しい……ノルン、側にいる……。我、ずっと逢いたかった。寂しかった……」

「デルタ、お前……」

「ノルン、側にいない……それだけで、我、涙、止まらなかった……でも、今ノルン、我の隣いる。嬉しい……とっても嬉しい!」


 デルタは涙を流しつつも、満面の笑みを浮かべている。

 欲してもらえた嬉しさが半分。もう半分は、寂しく思わせてしまったという罪悪感。


「済まなかったな」


 ノルンはデルタの気持ちが少しでも晴れればと、頭を撫でてみた。

 するとデルタは、膝を抱えてうずくまり、プルプルと肩を震わせ出す。


「ノルン……」

「?」

「わ、我……! 我……もう限界っ! 我、今ここで、ノルンと――!?」


 デルタの声を遮るように、地面が轟いた。


「じ、地震!?」


 夢の中だったジェイは飛び起きて、


「――!! 敵、感あり! これは……!?」


 オッゴは激しい揺れの中でも、冷静に周囲の様子を伺っている。


「ガァァァ!! 来たぁぁぁ!!」


 さきほどまでの潮らしいデルタはどこへ行ったのやら。

彼女は勇ましく吠えながら立ち上がり、すぐさま竜牙剣を呼び出し構える。


 そして夜空へ向かって、大きな砂柱が打ち上げられた。

 

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