第91話 母親に女友達を紹介する陰キャの定め。

 魔王カナンを今度こそ完全に討滅し、すっかり元に戻ったハスミンが再登校した日の放課後。


 俺はハスミンと一緒に俺の家へと帰宅した。

 その途中で相変わらず例のラブホを根城にしているリエナと合流する。


 魔王になって異世界『オーフェルマウス』についても知っていたハスミンには、俺が異世界を救った勇者なことや、リエナが異世界から来た人間であることは、簡単にではあるけど改めて伝えてあった。


「ただいま! 友だちが2人来てるんだ。部屋で話するから上がってもらうな」


 帰宅早々の俺の第一声を聞いて、母さんがパタパタとスリッパを鳴らしながら少し慌てた様子で玄関までやってきた。


「修平がお友だちを連れてくるなんて珍しいわね。高校のお友だちかしら。どうぞどうぞ、狭い家ですがお上がり下さい――って、ええっ!? 友達って女の子が2人も!? ど、どういうことなの修平!?」 


 ハスミンとリエナを見た途端、母さんが目を大きく見開いて固まった。


(母さんが俺をどう思っているのか、この反応が全てを物語っているな……)


 両親そろって体育祭に来てたから、俺が活躍したところもバッチリ見ていたはずなんだけど。

 それでもまだ母さんは、俺が変わったことを信じられないんだろう。


 でもそれも仕方ない。

 だって母さんはもう何年も、ろくに友だちができない俺をずっと優しく見守ってきてくれていたんだから。


 だからちょっと俺が活躍したのを見たくらいじゃ、母さんの中では新しい俺の姿がなかなか上書きされないんだと思う。


 ま、急ぐ必要はない。

 魔王の脅威は今度こそ完全に打ち払った。

 世界は平和になったのだから。


 だからこれから少しずつでいいから、母さんにも今の俺がもう前までの俺とは違うことを分かってもらえばいいんだ。


 俺がそんなことを考えていると、


「えっと、蓮見佳奈と申します。修平くんとは同じクラスでとてもよくしてもらっています。今からお部屋にお邪魔させていただきますね」


 ハスミンが少し緊張したおももちで、とても丁寧な挨拶をした。

 おそらく事前になんと挨拶するか考えていたんだろう。


 リエナもそれに続く。


「私は女神アテナイ教団で高位神官を務めるリエナエーラです。勇者シュウヘイ=オダ様には2度も世界を救っていただき、感謝の気持ちでいっぱいです」


「あらあら、同じクラスの蓮見さんと……え? あなた今なんて?」


(おいこらリエナ、なに普通に自己紹介してるんだ。来る途中で打ち合わせしただろ)

(す、すみません! 反射的につい!)


「こほん、失礼しました。勇――敢なるシュウヘイさ――んと同じクラスのリエナです。お母さま、どうぞよろしくお願い致しますね」


 俺にわき腹を小突かれたリエナが慌てて自己紹介し直す。


「あ、ええ。同じクラスの蓮見さんとリエナさんね。修平と仲良くしてくれているみたいで嬉しいわ。どうぞごゆっくり」


 どうやら母さんはリエナのアホな自己紹介を聞き間違えか、それとも斬新なギャグとでも思ってくれたみたいで、特に疑うことはせずにいてくれたみたいだった。


 ふぅ、やれやれ。

 こんなこともあろうかとヨドバシ・ドッ〇・コムの即日配送で取り寄せたブラウスとスカート、スクールセーターという、うちの高校の女子制服っぽい私服をリエナに着せておいて正解だったな。


 リエナは24歳だから、高校生にしてはちょっと顔立ちが大人っぽすぎるけど。

 でも日本人と比べて外国人は大人びて見えるらしいし、なんとかギリギリ女子高生に見えなくもない……はずだ。


「すぐに紅茶とお菓子を持って行くわね」

「ありがとう母さん」


「調子に乗って変なことしちゃだめよ?」

「そんなことはしないから」


 俺が女の子を家に連れてきたことがそんなに嬉しいのか。

 少し目を潤ませて、声も弾ませた母さんに見送られながら、俺たち3人は2階にある俺の部屋へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る