第83話 修羅場(2)
「リエナ、お前は少しは空気読めよな?」
またしてもつい俺はツッコんでしまったんだけど、
「空気を読めなくてすみません。ですが魔王カナンの影響で心が闇落ちしてなお、勇者様のことを愛してやまないハスミンさんの強い想いを、騙くらかしてどうこうするのはいけないと思ったんです」
そう言ったリエナの声はとてもとても真剣だった。
それは俺の心に強く訴えかけてくる、例えるなら夏休み最後の日の物悲しい夕焼け空のような声で。
「やれやれまったく、リエナにはいつも教えられてばかりだな。本当にリエナの言う通りだ。今のは俺が完全に間違っていた、ごめん」
俺はハスミンの気持ちと本気で向き合うんだと、改めて強く自分の心に誓った。
オッケー、もう俺はハスミンしか見ない。
だからハスミン。
お互いに腹を割って話そうぜ。
「いえいえ。時に道に迷った勇者の行く先を指し示すのが、女神アテナイより神託を授かる神官の役目ですから」
「ああ、これからも頼りにしてるぞ、リエナ」
「はい、勇者様」
「だから! そうやってこれ見よがしに仲の良さをアピールしてっ! わたしに見せつけてるの!?」
しかし俺とリエナのそのやりとりは、ハスミンの怒りをさらにエスカレートさせてしまう。
「だから違うんだよ」
「だからなにが違うって言うのよ!」
「確かに俺はリエナに少なからず好意を持っていた。勇者として旅をしている間、ずっとリエナは俺のことを支えてくれてたからさ」
「今度は
「でも今の俺が好きなのはハスミンなんだ。同じクラスの隣の席で、一緒にクラス委員をやって。ハスミンと過ごした文化祭も、一緒にリレーをやった体育祭もすごく楽しかったんだ。ハスミンは俺といて楽しくなかったのか?」
「わたしは――」
「俺は本当に楽しかった、それこそ人生で一番ってくらいにさ。そして気付いた時には好きになってたんだ。俺はハスミンが好きだ。これからもハスミンと一緒にいたい。一緒に過ごしたい。一緒に色んなことをしたい。これが俺の嘘偽らざる本心だ」
「修平くん……」
「分かってくれたか?」
「……そんな上辺だけの言葉でわたしを騙せるとでも思ったの?」
「違う! 上辺だけなんかじゃない、心からの本心だ! 俺は本当に、心の底からハスミンのことが――」
「うるさいうるさいうるさい! これ以上わたしを惑わせないで! 悩ませないでよ!」
「ハスミン、聞いてくれ。俺は本当にハスミンのことが――」
「聞きたくない! 聞きたくないもん! もういい! ウザい! 2人まとめて殺してあげるから! そしたら悩む必要なんてなくなるもん!」
「ハスミン!」
どうして。
どうして分かってくれないんだ――!
「黙ってよぉっ! 『
ハスミンが右手を振るった。
すると再び魔力で編まれた数十個の弾丸が中空に生まれ、俺とリエナに向かって殺到する。
ズドドドドドドドン――ッ!!
「ぐぅ――っ!」
俺はリエナの前に出ると、両腕をボクシングのガードのように顔の前に上げて防御態勢を取り、再び全弾をあますところなく受け止めた。
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