第80話 たどりついた場所
「方角的にはこっちですね。道に沿って歩いて10分くらいだと思います」
高校のある駅から3駅隣で降りた後、土地勘がない俺に代わってリエナが例の水晶をのぞき込みながら、魔王カナンの魂の在り処へと案内してくれる。
「さすがリエナ、頼りになるな」
「勇者様のサポートをするのが私の役目ですから。ではついてきてくださいね」
リエナはさらっと何でもないようにやっているけど、これもまた超高度な術なので俺には見方がさっぱり分からなかったりする。
どうも様々な表示から距離や方角を読み取っているようだ。
(リエナって史上最年少で高位神官になっただけあって、割と冗談抜きで天才なんだよな)
俺たちは駅の北口を出ると、そのまま道沿いに北上していった。
しばらく行くと、比較的新しめの一軒家が立ち並んだ新興住宅地が少しずつ見えてくる。
「……」
しかし目的地に近づくにつれて。
俺にはどうしようもないほどに嫌な予感が、これでもかと湧き上がってきていた。
数々の死線を潜り抜けてきた俺の勇者としての勘が、ヤバいくらいに警鐘を鳴らしてくるのだ。
「どうしたんですか勇者様、さっきからめっきり口数が減ってますけど。魔王カナンとの再戦を前にもしかして少し緊張しておられます? 美味しい飴を買ったんですけど舐めますか? 別のことをすると落ち着きますよ?」
リエナが気を使って尋ねてくる。
飴を勧めてくるのがちょっと大阪のおばちゃんっぽいけど。
「ハスミンの家だ」
「え? ああ、ミント味ですか? ミックス味を買ったんですけど、入ってたかな?」
「いや飴の話じゃなくてだな。ちょうどこの先にハスミンの家があるんだよ」
新田さんに聞いたハスミンの住所は、3駅隣の駅で降りて北口を出ると、そのまま道沿いに10分ほど北上したところにある新興住宅地――だった。
「ハスミンさんというと、たしか勇者様がねんごろにされている同級生の女の子ですよね?」
「少し表現がひっかからなくもないが、まぁおおむねそうだな」
改めて確認するまでもないが、まだ俺とハスミンはそういう関係には至っていない。
この1週間、リエナとは現状確認のために色々話してその辺ちゃんと伝えたと思ったんだけどな?
まぁ今はそれはいいや。
「……たまたま偶然この近くに住んでいるんですかね?」
「ハスミンはさ。1週間前から――ちょうどリエナと再会した日から学校を休んでるんだ」
「それは……少々偶然とは言いづらいかもですね」
「ああ、しかも俺の勇者としての勘が、嫌な予感をビシビシ伝えてきてるんだ」
「直感的に危機を察知すると言われる勇者スキル『ヴィジョン』ですね――はっ!?」
突然リエナが表情をこわばらせた。
「どうしたリエナ? ――っ! これは魔王カナンの気配か!」
理由を尋ねた俺は、しかしリエナにわずかに遅れてその理由を察した。
「勇者様も感じとりましたか」
「ああ、感じたよ。忘れもしない。この身の毛のよだつような最悪に邪悪な魔の気配はな」
「はい、気付かれないように巧妙に隠ぺいしていますが、魔王クラスの魔の気配ともなれば、近づきさえすれば隠し通せるものではありませんから」
「それはおそらく向こうも同じだろうな。向こうも俺の存在に気付いたぞ」
何かうっすらとしたベールのようなものが軽く俺に触れたような、俺の気配を探られたような感覚があった。
「聖なる力の最高峰たる勇者様の力も、そうは隠し通せるものではありませんからね」
「これでもう戦いは避けられない、か」
邪悪な気配の先に一件の家が見えてくる。
なんの変哲もない一軒家だが、そこに魔王カナンがいるのはもはや確定的に明らかだった。
もうまったく気配を隠そうとしておらず、その邪悪なオーラはどんどんと強まっている。
そしてその家の表札にある名前を見て、顔には出さなかったものの俺は心の中で大きな怨嗟の声を上げる。
表札に書かれていたのは「蓮見」という文字。
そこは――――ハスミンの家だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます