第54話 リレーの準備(2)
中庭に着いた俺たち4人は早速、
「時間も限られてるし、ちゃちゃっと練習を始めようか」
伊達がバスケ部の練習に行く時間になるまでバトンパスの練習をやり始めたんだけど──。
「うーん、なんだかあんまり上手くいかないね?」
新田さんからのバトンパスを伊達が掴み損ねて落としてしまったの見て、ハスミンが首を傾げながら呟いた。
この2人に限らず、バトンパスはなんとも微妙な成功率だった。
「このまま練習するより、少しみんなで対策を話し合った方がいいかもな」
俺たちは練習をいったん中断すると、作戦会議を始めた。
「お互いに走った状態でバトンを受け渡す……言うのは簡単だけど、シンプルなだけあって難しいね。バトンは小さくて滑りやすいし」
落としたバトンを拾い上げた伊達が少し困ったように肩をすくめる。
しゃれた動作が無駄に似合っている……さすがイケメン伊達だ。
「どう考えても付け焼き刃だものね。私も2回に1回は落としちゃいそうになるわ。本番は緊張もしてるでしょうし」
新田さんの言葉に、
「練習では完璧でも失敗するのが、一発勝負の本番の怖さだもんな」
俺も心の底から同意する。
(俺も勇者になって最初の頃は失敗続きだったからなぁ……しっかりと準備して絶対に上手くいくはずなのに、なぜか結果は失敗ってことが何度もあった)
それでも俺がただの1度も負けることがなかったのは、俺が女神アテナイにこれ以上なく愛されていたからだ。
俺が受けた女神アテナイの加護は、過去に例を見ない最強に強力な加護だったらしい。
ま、今の俺は失敗することもめっきり減ったし、少々の失敗なら即リカバリーできる自信もあるんだけれど。
なんてことを思っていると、
「――とか言ってさ、修平くんだけは相変わらず上手だったよね? 実はこんなこともあろうかと、こっそりバトンパスの練習してたでしょ? うりうり、白状しなよ?」
ハスミンがじゃれついてくるように、人差し指で俺の脇腹をツンツンと突っついてきた。
「俺はどんだけ用意周到さんなんだよ」
それがなんともくすぐったかった俺は、笑いながらツンツンするハスミンの指をポンと軽く押し出すように払いのける。
するとハスミンは俺の防御に対抗するように、今度は両手の人差し指でダブルツンツンを敢行してきた。
それに対して俺も腹筋を固めて徹底抗戦。
「うわっ、かたっ!? なにこの腹筋! このっ、このっ!」
ハスミンが何度も突っついてくるものの。
鍛え上げられた俺の筋肉は鉄板のように硬く、ハスミンのダブルツンツンを全て跳ね返す。
「悪いがその程度の攻撃じゃ、俺の防御は打ち抜けないぞ?」
「いやあの、わたし別に攻撃したわけじゃないんだけど……」
言いながら3度目の脇腹ツンツンをしてくるものの、もはや俺にその程度の攻撃は通じはしない!
「今回は俺の勝ちだな。ハスミンにはミ〇四駆レースで3連敗させられたからな、リベンジ成功だ」
勇者として鍛え上げた身体で、一般女子高生の脇腹ツンツンに対抗するのは正直どうかと思わなくもないんだけど。
いかんせん俺は負けず嫌いな性分なのだ。
「うわぁ、まだあのこと根に持ってたの? 修平くんって基本的にすごくおおらかなのに、変なところで小さいことに拘るんだね」
「小さくなんかない。あの3連敗で、俺のプライドは木っ端微塵にズタボロにされたんだ……」
「あんなのただの遊びじゃんか……からの不意打ち! あイタっ!?」
「悪いが全てお見通しだ」
のほほんと話しながら油断を誘うハスミンの計略を、俺は完全に見抜いていた。
実戦慣れしている俺にとっては、こんな初歩的な駆け引きは朝めし前だ。
そんな風にハスミンとじゃれ合っていると。
「相変わらず2人は仲良しね。いっそのこともうこのまま結婚したら? あ、結婚式には呼んでよね。絶対に行くから」
新田さんが呆れたように言ってきた。
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