第73話 新たな神託
「それでは順を追って説明します」
リエナもそんな俺に呼応するかのように、優しい年上のお姉さんの顔からキリッとした若き高位神官の顔になると、説明を始めた。
「勇者様がこの世界に帰還してから少ししたくらいに、私の母が女神アテナイより新たな神託を受けました。それも大神託と呼ばれる極めて特別な神託です」
「新たな神託――大神託を? どんな内容だったんだ?」
「討伐したはずの魔王カナンの魂が世界の垣根を超え、『異世界同位体』がいるこの世界に逃げ込んだという大神託です。それで魔王カナンの魂を追って私もこちらの世界に渡ってきました」
「魔王カナンの魂が世界を渡った? まさか魔王カナンを完全に討伐しきれていなかったのか? でも確かに倒した手応えがあったんだけどな? それと異世界同位体ってのはなんなんだ?」
異世界同位体――初めて聞く言葉だった。
「異世界同位体というのは、世界の垣根を越えて魂を共有できる特別な存在のことです」
「魂を共有?」
「はい。完全に同じ存在というわけではありませんが、この世界に魔王カナンとほぼ同一たりうる存在があり、おそらく勇者様に倒されて身体を失い魂だけの存在となった魔王カナンは、この世界でその異世界同位体に同化することで復活しようと目論んでいるのでしょう」
「なんだって!? 魔王カナンがこっちの世界で復活しようとしているのか!?」
「細かいところは抜きにして、大まかにはそういうことになるかと思います」
「まさか俺が平和に高校生をしている間に、そんなことが起こっていたとはな……。それにしても身体は討滅されながら魂だけになって別の世界に逃げるとか、もうメチャクチャだな」
「直接戦った勇者様が一番ご存じかとは思いますが、魔王カナンは空間を操る特殊な能力を持っていました。おそらくその延長で次元の壁を越えてこの世界に移動したのではないかと思います」
「ま、リエナも俺も異世界転移したんだもんな。そう考えれば魔王カナンができない理屈はないか」
「はい、さすがは歴代最強の魔王と呼ばれるだけのことはあります。敵ながら本当にしぶといです」
リエナが悔しそうに言った。
「正直認めたくないが同感だな。完全に復活する前に討伐しないとマズイことになるぞ? なにせこの世界には聖剣『ストレルカ』がないんだ。正直、聖剣『ストレルカ』なしで完全体の魔王カナンに勝てる気はしないから」
聖剣『ストレルカ』を手にして初めて五分五分と言ったところだ。
それほどまでに魔王カナンは強大すぎる敵だった。
「やはり聖剣『ストレルカ』なしで挑むのは、いくら勇者様でも厳しいですよね……。私が来る時に一緒に持ち出せればよかったんですけど、あれだけの神力を保持する伝説の聖具を異世界転移させることは、私の力ではできなかったんです」
「それは仕方ないさ。こうやって危機を伝えてくれただけでも充分すぎるんだから。それで魔王カナンの魂の有りかや、異世界同位体とやらの目星はついているのか? できれば魔王カナンの魂が異世界同位体に入って完全体になる前に、片を付けたい」
そしてそういった探し物は、女神アテナイの神託を授かる高度なスキルを持ったリエナの得意分野なのだ。
しかし――
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