【書籍化】隣の席の美少女をナンパから助けたら、なぜかクラス委員を一緒にやることになった件【Web版】

マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~

第1章 異世界を救った勇者、現実世界に帰還する。

第1話 異世界を救った勇者、現実世界に帰還する。

 高校1年の夏の終わり。

 天国のような夏休みが終わってしまい、またいつもの灰色の高校生活が再開する、そんな2学期の始業式を迎える9月1日の朝。


 俺――織田修平――は突然異世界召喚されて世界を渡った。


 召喚されたのは中世ヨーロッパ風の異世界『オーフェルマウス』。

 俺はそこで勇者になり、5年の激しい戦いを経て魔王カナンを倒して世界を救った。



 そして魔王討伐と世界平和を祝う盛大な式典が行われた数日後――俺は女神アテナイを祭る神殿にいた。


 足元には壮大な魔法陣が描かれている。


「勇者様はやはり元の世界に帰ってしまわれるのですね」

 5年間、俺と魔王討伐の旅を共にした女神官リエナが、やわらかな金髪を揺らしながら悲しそうな顔で言った。


 リエナは若くして未来を指し示す女神アテナイの神託を聞くことができる最上位の神官だ。

 アテナイの神託に従い、5年前に俺を異世界召喚したのもリエナだった。


 身体のラインが結構出て目のやり場に困る真っ白な制服っぽい神官服が、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるスタイル抜群のリエナに良く似合っている。


「ごめんリエナ。でもやっぱり俺は元の世界に帰るよ」


「そうですか……」


「俺は一人っ子なんだ。向こうの世界じゃいい思い出はそんなになかったけど、それでもやっぱり父さんと母さんを悲しませたくないから」


 一人息子の俺がこのままこっちの世界に居座ってしまったら──元の世界ではおそらく行方不明だ──俺の両親は死ぬまで泣き続けるだろうから。


「決意は固いようですね。分かりました、家族の絆はとても大切なものですものね。私もお腹の子供は責任を持って大切に育てますから、どうかご安心ください」


「いやいや俺たちそういう関係じゃなかったよな!? 世界を救う旅に出た勇者と、勇者に女神アテナイの神託を授ける神官っていう、それはもう清らかすぎる関係だったよな!?」


「私は出会ったその日から勇者様に好意を抱いていましたよ。ですが戦いの邪魔になると思ってずっと胸の奥に想いを秘めていたんです」


「そうだったのか……うん、俺もリエナのことはいいなとは思っていたんだ。でもごめん。やっぱり俺は元の世界に――日本に帰らないといけないから」


「はい、承知しております」


 しばらく俺とリエナは無言のまま見つめ合った。

 この5年間のことが走馬灯のように思い起こされる。


 リエナに召喚されてすぐに勇者しか抜けないという伝説の聖剣『ストレルカ』を抜き。

 それからは各地の魔物を討伐して人間の勢力圏を回復していった。


 さらには強大な魔王四天王をも倒した俺は、最後は激戦の末に人類の敵たる魔王カナンを討伐したのだ。


 そしてそんな俺の側にはずっとリエナが居て、俺を支え続けてくれたんだ。


 召喚の魔法陣が清浄なる白銀の光を放ち始める。

 5年を過ごしたこの世界とも、以来ずっとともに旅を続け苦楽を共にしたリエナとも、お別れの時間が迫ってくる。


「リエナ、今まで本当にありがとう。俺が魔王に勝てたのは君がいてくれたおかげだ。感謝してもしきれない」


「もう、何を言ってるんですか。感謝をするのはこっちの方ですよ。勝手に召喚して、魔王を倒してもらったのは私たちのほうなんですから」


「ははっ、言われてみれば確かにそうだな」


「この世界を代表して私が最後にもう一度、偉大なる勇者様に改めて感謝の気持ちを述べさせていただきます。本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


 俺の身体が浮遊感に満たされ始める。

 5年前にこの世界に来た時にも感じた懐かしい感覚だ。


 同時にリエナの姿が薄れ始めた。

 別の世界へと渡る超高難度の転移禁術が発動し、時空に歪みが生じているのだ。


「さようならリエナ! 元気でな!」


「勇者様こそ、どうぞ元の世界でもお変わりなくお過ごしください! 願わくば元の世界に帰っても、偉大なる女神アテナイの加護とお導きが御身にありますように──」


 こうして。

 リエナの笑顔とともに俺は再び世界を渡り――――



 ――――浮遊感がなくなり目を開けるとそこは5年前までは見慣れた、けれどここ5年はまったく見ることがなかった、懐かしさでいっぱいの実家の自分の部屋だった。


 すぐに机の上にあったスマホを確認する。

 表示は202X年9月1日7時15分。


「これって俺が異世界転移した日だったよな? まったく時間が経過していないってことか?」


 身体を見回してみると、


「身体も5年前に戻ってる? いや、当時は帰宅部のヒョロもやしだったはずなのに、かなりガッシリと筋肉がついてるから、知識や身体スペックは勇者のままで、でも肉体年齢だけ5歳若返ったってことか」


 あまりに都合がよすぎる状況は、きっと偉大なる女神アテナイが世界救済のお礼代わりに気を利かせてサービスでもしてくれたんだろう。


「でもそうだよな、いきなり20歳の姿で現れたら両親も驚くよな」


 だから俺としてはこの配慮には感謝せざるを得なかった。

 確認ついでに俺は軽く精神を集中させると言霊を紡ぐ。


「女神アテナイよ、俺に邪悪を退けし勇者の力を――『女神の祝福ゴッデス・ブレス』」


 すると俺の全身をうっすらとした白銀のオーラが覆っていき、身体の中に強大な勇者の力が駆け巡りはじめる。


「勇者スキルもそっくりそのままこっちの世界でも使えるのか。これもサービスなのかな?」


 異世界『オーフェルマウス』での俺は女神アテナイから強力な加護を授かり、それを様々な勇者スキルとして使用することができた。


 『女神の祝福ゴッデス・ブレス』はその中でも最強の、勇者の力そのものと言ってもいい戦闘用のスキルだった。

 そして女神アテナイに与えられた勇者の力は、元の世界に戻ってきた今も健在のようだ。


 もしかしたら別れ際にリエナが祈ってくれたからかもしれないな。


「でもこれって現実世界に異世界のスキルを持ち込む――いわゆるチートってやつだよな」


 しかも俺の場合は世界を救った勇者の力という文字通り最強のスキルだ。


 100メートルをわずか5秒で駆け、軽く20メートルを跳び、巨大な岩をワンパンで粉々に粉砕するその力は、チートの中でも最上級なのは間違いない。


 さすがに聖剣『ストレルカ』はついてこなかったみたいだけど。


「まぁ聖剣を持ってこれたとしても銃刀法違反で捕まるだけか。この世界には聖剣が必要になる強大な魔王がいるわけでもないし、いらないっちゃいらないな」


 日本で聖剣とか宝の持ち腐れもいいところだ。

 あれはこの先また現れるであろう新しい神託の勇者に受け継いでもらおう。


「なんにせよ異世界で5年も勇者として戦ったんだ。こっちの世界ではちょっとくらい楽させてもらっても罰は当たらないよな」


 ――と。


「修平、いつまで寝てるの。今日から2学期でしょ。そろそろ起きないと始業式から遅刻するわよ」


 とても懐かしい声がしたかと思うと、ノックもなしに母さんが部屋のドアを開けて入ってきた。



――――


 『帰還勇者のRe:スクール(学園無双)』第1話 をお読みいただきありがとうございました!


 第7回カクヨムコン「ラブコメ部門」に参加しています!

 熾烈な読者選考を抜けるためにも、気に入っていただきましたらブックマークと☆(評価)を入れて頂けると嬉しいです。


 ☆は3回まで押せますよ!

 なにとぞ~(>_<)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る