裏14話 調査の一歩目(※三人称)
そんな義理はない。そう言えばそこまでだったが、流石のマティも「それ」に躊躇ったようである。幽霊の正体が分からなければ、(おそらくは)この町にも平穏は戻ってこない。その幽霊にずっと怯え、夜には幽霊への不安を抱きつづけなければならないのだ。
幽霊への不安が消えなければ、町の人々にも危害が及んでしまう。実際、その危害が及んでいるし。自分がこの町に住んでいる者、あるいは、何らかの形で関わっている者なら堪ったモノではない。正直、今まで逃げなかったのが「不思議だ」と想ってしまった。
マティは自分の顎を掴んで、ライダルの目を見つめた。ライダルの目は見たとおり、真剣そのものである。「暴くのはいいが。暴いた後は、どうする?」
ライダルは、その言葉に眉をあげた。それの意図するところが一瞬、彼には分からなかったらしい。ライダルはマティの目をしばらく見たが、やがて地面の足下に目を落とした。
「それはもちろん、その幽霊を倒し」
「どうやって、倒す?」
「え?」
「その幽霊をどうやって? お前には、幽霊への対抗手段があるのか?」
そう言われたらもう、ライダルも黙るしかなかった。確かにその通りだ。幽霊の正体が「仮に分かった」としても、その対処法が分からなければ無意味……さらに言えば、お手上げである。相手は人間でもなければ、怪物でもない。それらとは離れた、本当の未知なる存在なのだ。
未知なる存在と戦うためには、それ相応の力がなければならない。幽霊の力を抑える、あるいは、祓うような力が。でも、ライダルには「それ」がない。剣術の腕は確かにあがったが、「それが幽霊に通じる」とは限らないのだ。「自分の攻撃が幽霊に通じない」となれば、この意思自体も無意味になってしまう。この燃えたぎる闘志に「突きすすもう」とする意思も。だが、「諦めたくない」
ライダルは、両手の拳を握った。それが自分の、「内なる意思だ」と言わんばかりに。
「幽霊の調査を! 幽霊の正体が分からなければ、町の人達も『それ』にずっと怯えていなきゃならないから」
マティは、その言葉に押しだまった。それを聞いていたマノンも、その思いに目を細めている。彼等は宿屋の主が「おお!」と唸る声を無視して、ライダルの目をじっと見つづけた。
「そうか」
そう呟いたマティがどう思ったのかは、周りの誰にも分からない。その意図を何となく察したらしいマノンも黙って、彼の横顔を眺めていた。マティは無愛想な顔で、宿屋の店主に視線を移した。
「金は?」
「金?」
「金は、誰が払う?」
一瞬の沈黙は、その質問に驚いたからなのか? 店主はマティの顔をまじまじと見たが、やがて少年の顔に視線を移した。少年の顔もまた、彼の言葉に驚いている。
「それは当然、偉い人だよ。偉い人が、払う。アイツ等は、町の連中から金を巻きあげているんだから。自分だけ儲かるなどありえない。こう言う金は、アイツ等こそ払うべきだよ」
「そうだな、確かに。責任者が責任を払わないのは、文字通りの無責任だ。無責任の金食い虫」
「ふふふ、そうだな」
「おい」
「うん?」
「その金食い虫は、どこにいる?」
「それは、もちろん」
町の中心部だった。あらゆる情報が飛びかい、あらゆる交流がなされる場所。人と物資が行きかう場所。そう言う場所に管理者が住まうのは、流れとしても当然のように思えた。マティは門の兵士達に用件を話し、彼等の許可をもらった上で、金食い虫のところに向かった。金食い虫は見たとおりの腑抜け、幽霊の問題にも「我関せず」と言う男だった。マティは金食い虫に自分達の事を伝えてからすぐ、真面目な顔で相手の目を見はじめた。
「幽霊の事は専門外だが、これも何かの縁。ギルドセンターが受けつけないのなら」
「君達が何とかしてくれるんだね!」
前のめりの状態から放たれた言葉。彼にとっては、面倒事が減る絶好の機会だったのかも知れない。彼はマティに「センターの対応が悪い」とか「アイツ等は、頭の中に金食い虫を勝っている」とか、そう言う愚痴を何度も吐きだしつづけた。
「いやはや、本当に助かります。この幽霊には、本当に困っていてね。自分も、頭を抱えていました。こう言う手合いは、長引くと厄介ですから」
マティは、その言葉を遮った。その言葉をこれ以上聞くのは、マティとしても「面倒だ」と思ったのだろう。特にこの手合いは、一旦喋りだすといつまでも喋りつづける。それこそ、取り付く島もない程に。マティは「それ」を分かった上で、相手の前に右手をかざした。
「お前の苦労話は、いい。肝心なのは、これからの話だ」
「うっ、うう、そう、だな。うん! 肝心なのは、これからの話だ。この幽霊を何とかする」
「そうだ。俺達は、『それを何とかしよう』と思っている。コイツの、ライダルの正義感にかけても、な?」
ライダルは、その言葉に驚いた。自分の名前が急に出てきて、思わず「ふぇ?」と驚いてしまったらしい。
「は、はい! 僕は幽霊の事、この事件を何とかしたい。みんなの不安を取りのぞくためにも!」
「おお! それは、ありがたい。君のような少年は」
ライダルは、その言葉を遮った。マティ程ではないにしろ、彼もその言葉を「聞きたくない」と思ったらしい。ライダルは真剣な目で、相手の目を見かえした。
「貴方の知っている範囲で構いません。
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