第24話 初クエスト、初討伐 1 

 何度も味わったクエストの空気だが、今回は「それ」が妙に違っていた。自分の作ったパーティーでやる、初めてのクエスト。新しい冒険のはじまり。そこに漂っていた空気は、「復讐心」よりも「冒険心」をくすぐる不可思議な空気だった。


「こんな空気は、初めてだな」


 今までは、「負」の感情を礎にしていたのに。今は、「正」の感情を礎にしている。これから起るだろう様々な出来事に胸を踊らせている。「それが命がけの、自分の生死に関わる大冒険だ」とは分かっていたが、それでも胸の高鳴りを抑えられなかった。


。今度は決して、間違えないように」


 俺は、背中の杖に意識を向けた。背中の杖は、俺の背中をしっかりと守っている。


「よし」


 それに驚くクリナだったが、そんな事はどうでもいいか。この気持ちは、自分だけが分かっていればいい。


「なんでも。ただ」


「ただ?」


「ここからは、遊びじゃない。命がけの真剣勝負だ。ちょっとの油断が命取りになる」


「う、うん、分かったわ」


 顔は余裕だが、声は緊張。初心者には、よくある事だね。俺も、最初はそうだった。


「気をつける」


「ああ。ミュシアも気をつけて」


「うん」


「もしもの時は、クリナと一緒に逃げていいから」


 ミュシアは、その言葉に目を見開く。クリナはクリナで、不服な模様。二人は互いの顔を見あったが、やがてクリナが「ちょっと!」と叫びだした。


 クリナは、俺の目を睨んだ。それがちょっと怖かったのは、俺だけの秘密。


「アタシの事、舐めているの?」


「舐めているんじゃない、現実の話だ。危なくなったら、すぐに逃げる。自分の命を第一に考える。俺は、自分の夢があるけど」


「アタシにだって、夢はあるわ!」


「だったら、なおさらだよ。夢は、生きていなきゃ叶えられないんだ」


 それで、彼女も押しだまった。猪突猛進な彼女だが、そう言う事は分かっているらしい。彼女は最初こそ悔しげだったが、やがて「分かったわ」とうなずきはじめた。


「その時は、迷わずに逃げる。ミュシアも、いいわね?」


「うん、いい。その時は、一緒に逃げよう」


 二人は、互いの顔をしばらく見あった。それは別にいいのだが……ここで一つ、疑問を覚える。君達、いつから名前でお互いの事を呼ぶようになったの? さっきまでは、そんな素振りなんてなかったのにさ。これには、流石に驚いちゃったよ。


 俺は改めて、女の友情(らしき物)に瞬いた。


「何だか分からないけど、すごいなぁ」


 二人は、その言葉に驚いた。特にクリナは「ふぇ?」と言う顔で、俺の顔を見かえしてきた。


「アンタ、なに言っているの?」


「え? い、いや、何でもない」


 そう言って誤魔化す、俺。そう言わないと、また面倒な事になりそうだからね。ここは、「誤魔化す」の一択しかない。


「それじゃ、行こうか?」


 口調を変えた。目つきも変えた。そうすれば、この空気も変わるに違いない。そんな甘い考えだったが、それが案外上手くいってしまった。


 二人は、自分の姿勢を正した。ミュシアは自分の正面を見つめ、クリナは腰の剣に手を伸ばしている。二人は俺が二人の足を促した後も、真面目な顔で地面の上を歩きつづけた。


 俺は、二人の前を歩いた。「それが一番安心だ」と思ったし、同時にまた「自分の魔法をもっと試したい」と思ったからだ。意識の中に浮かんだ呪文を唱え、それによって撃たれた魔法がどんな性質の物なのか? 魔術師の雑記帳にそれを書きとめれば、自分の力も自ずと分かってくる。


「自分の力が分かれば、それだけ旅も安全になる筈だ」


 俺は「うん」とうなずいて、地面の上を歩きつづけた。

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