第6話 隠れていた力、真の才能 1

「魔術師?」

 

 バカな? ギルドセンターでの職業選定では、「あなたの適職は、剣士です」と言われた。「それも、多くの剣士が憧れる超剣士だ」と。その才能があったから、あの人にも誘えてもらえた。メンバーの才能を第一に考える、あのパーティーに。だからこそ、彼女の言葉が信じられなかった。この俺が魔術師の筈がない。剣の腕はとても凄かった(と思う)俺だが、魔法の才能はからっきしだった。

 

 パーティーの白魔道士に回復魔法を使ってもらわなければ、自分の傷すらも治せない凡人。剣術に対する補助魔法すらも使えないポンコツ。超剣士のスキルはあくまで物理的、極限まで人間の身体能力を上げるだけで、そう言う魔法の類はまったく使えなかった。そんな俺に隠れた力が、魔術師の才能があったなんて。彼女の事は疑いたくなかったけれど、その話だけはどうしても信じられなかった。


「同情なら止めてくれ」


「同情?」


「そうさ! 君は、どう考えかは分からないけど。そう言う事が得意なんでしょう? 相手に妙な期待、うんう、疑問を持たせてさ! 頭の中を引っかき回す。今の言葉だって」


「嘘じゃないよ?」


 また、だいじょうぶ、か?


「だいじょうぶ。これは、嘘じゃない。あなたは、本当に魔術師」


 その言葉にカチンと来た。本当は、怒りたくなんてなかったよ? でもさ、それでも怒りたくなる。無能な状態で「君は無能じゃない」と言われるのは、有能な人間から「君は無能だね」と言われるよりも辛い事だった。


「だったら、証拠を見せてよ?」


「証拠?」


「そうだよ、証拠! そこまで言うなら」


「分かった」


 そう言った彼女の見せた動きは、かなり単純だった。俺の胸に当てていた指先をただ、グルグルと回すだけ。たった、それだけである。


「はい、破れた」


「え?」


「包みを破いたの」


「あなたの才能は、包みの中に隠れていた。今まで表に出ていたのは、それを守っていた門番。真の才能が侵されないための結界」


「け、結界?」


「結界の中に入っていれば、周りの誰にも気づかれない。それを持っている、あなた自身にも」


「まさか!」


 スキルがそんな防衛策を使うなんて。


「意味が分からない。そうまでして守る意味が」


「これは、危険な力。天地の理を侵す程の。だから、守らなきゃならなかった」


 それっぽい言葉を並べれば、そう思わず信じたくなる。彼女の言葉は、正にそれだった。相手の気持ちを揺さぶる、思わせぶりな台詞。


 ペテン師の常套句じょうとうく。そんな物に引っかかっていられない。


 俺は腰の鞘から剣を抜いて、自分の後ろに彼女を引っ込めた。


「どう言う手品を使ったかは分からないけど、そんな事は絶対にありえないよ」


 そう言って、目の前の怪物に斬りかかる。気持ちの方はもう、やけくそだ。自分が「守ろう」とした少女からは、訳の分からない事を言われるし。目の前の怪物に剣を振りおろした時にはもう、本来の目的すらも忘れてしまっていた。


「このっ!」


 本気の一撃。だが、それで剣が折れてしまった。どうやら、敵の皮膚は相当に硬いらしい。


「そんな!」


 この剣は、特注品だぞ? そこら辺の量産品とは、違うのだ。


「それなのに、どうして?」


 俺は、地面の上に両膝をついた。もう、絶望しかない。目の前の敵もまた、(今の攻撃で戦意が戻ったのだろう)さっきのように暴れだしてしまった。


「おしまいだ」


「おしまいじゃない」


「くっ」



「自分を、叫ぶ?」


「あなたは、魔術師」


「俺は、魔術師?」


「この世で、最強クラスの」


「最強クラス」

 

 それが力になったのか? その理由は、俺自身も分からない。とにかく、無意識の内にそれを叫んだ。


「俺は、最強の魔術師だ!」

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