モブは普通の〈モブらしい〉生活を送れない

里道アルト

モブは普通の日常を過ごしたい

第1話 モブ生活に彩りを

 いつからだろう、こんなに何をしても心が動かなくなったのは。


 日々、学校に行き、勉強し、帰ってきたらゲームで遊び、動画を見る。親とは何度も衝突した。それでも、僕は嘘をつき、そんなくだらない生活を繰り返してきた。そして、その遊べる環境を作ってくれる親を小馬鹿にしながら、僕は毎日楽に暮らしてた。


 そんな毎日を送る度、僕は何をしたくて、何のために生きているんだろうといつも思う。周りが変われば、僕自身も変われるなんて、そんなふうに思っていた。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「あぁぁ。今日何日だっけ?うーんと四月十七日。今日か?初登校日」


 僕は、灰羽はいば悠斗ゆうと。今日から高校一年生になる。日々、ゲームと動画に時間を使い費やし、時間管理なんてのは、親に任せっきりでその時間を守らないことさえ多々あって、親との仲は最悪だ(と僕は思っている)。


 中学の時は一か月以上無断で休んで呼び出しをくらったことさえある僕だが、高校の最初の登校ぐらいはちゃんとやろうなんて意味の分からない責任感にかられ、家を出ようと思ったが、このザマだ。


 別に、今すぐ行けば間に合うんだろうが特に行かなきゃいけない理由も思いつかないから、僕の体は行くなとしきりに訴えている。


 しかし、決めたことを捻じ曲げるのも癪だから、僕は体を起こし、部屋を出た。


 居間では、母親が朝食を作り置いていた。もう仕事に出たみたいだ。そこには、僕以外は誰も居なかった。妹ももう用意は済ませて行ったらしい。

 父親はまだ、上で寝ているようだから起こさずに、出ていこうと思う。


 目の前に置かれたパンをかじり、僕は外に出る。


 うざいくらい眩しい光が目の中に差し込んだ。


 もうすでに行きたくないな。そんなことを考えるが、家にいても父親にばったり会いそうだから僕は最低限の荷物を持って、学校に向かった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 学校の校門前、僕が曲がり角を曲がると「ぐわぁ」なんてダサい声をあげて、こっちに向かって僕よりも少し背丈がある男が倒れてきた。


 僕はそれを避け、未だ鳴り続ける男達の情けない声がする校門前をしっかり眺めた。男達の真ん中にいるのは一人の藍色髪の女、しかし、体は全然鍛えられてるように見えないし、男達はあんな悲鳴を上げているが、自分達自身で倒れ込んでるようにしか見えない。


「私のスカートの中を覗きたいって、そんな堂々と言われても困りますよ〜♪♪」


 女はなんだか楽しげにそんな事をぼやいている。いや、そこは怖がる所じゃないのかよと頭をよぎった瞬間、周りにいた男たちは全員打ちのめされていて、女は僕が目に入ったらしくすごい勢いで距離を詰めてきた。彼女は僕を下から上まで一望した後、


「君、ちょっと先生を呼んできてもらえるかな?私はこの通り手一杯なので、お願いしたいのだけど」


 両手を揃えて、可愛くお願いされたが、さっきの事件を見ただけで僕がそんなことしないといけない義理はないし...。僕が困っていると彼女はさらに上目遣いを追加して.....


 結局、僕は職員室に行って先生を呼んできた。


 僕は負けたのだ、彼女の悪い笑顔に負けたのだ。だって勝てないだろう。僕はいや誰だって異性には弱くなってしまうんだ。


 事情を先生に説明する彼女をあとに僕は、入学式の会場に向かった。


 ブルシートがたまに引っかかって歩きづらかったが、僕は、前から二列目の右側通路から三番目だったおかげで遅れたが、あんまり迷惑をかけず座ることができた。


 ちょっと一息ついて名も知らないあの少女のことを思い出す。彼女は何者だったんだろうか?僕と同じ同級生なのだろうか??


 その割には先生とは親しげいや、なんか先生の顔が引き攣っていたから多分、面倒事が嫌そうってだけか...


 そもそも、あの男達もよく分からない。果たして、彼女にスカートの中を見せてくれなんて本当に言ったんだろうか?少なくとも、性犯罪で捕まってまでそんなことをしたいとは僕は思わないが。そもそも、そんなのは想像の中でするものだし、現実にそんな事してもらえるはずないし、何をとち狂ったらそんな考えに至ったのか....




 僕は自分の事クズみたいな奴だと自覚しているが、妄想と現実を一緒くたにしたことはない。身内には迷惑をたくさんかけているが赤の他人に迷惑をかけるような事はしてこなかったはずだ。


 ...すぐに自分耽りに走る。僕の悪い癖だ。自分に後ろめたい気持ちがあるからそんな事を考える。他人よりは自分はマシなんて言い訳をする。頭が痛い。



 もういい。始業式が始まるまであと二〇分、寝ていよう。何も考えない方が楽でいいんだから。


 なんか隣の男子は嫌そうな顔でこっちを見てきた気がするが、僕は気にしないことにした。




 僕はチャイムの音で目が覚めた。やけにうるさく聞こえるその音は僕の頭をキーンキーンと震えさせ正直、来なければよかったと思ってしまう。


「それではこれより、並河高等学校の入学式をとり行います」


「本日はお日柄もよく、こんな日に入学された事は...」


「みなさんご入学おめでとうございます。この高校生活で皆さんの...」


 長い校長、教頭の祝辞などを聞き流し、僕はあくびをかきながら、ボォーっと前を見つめていた。本当に退屈だ。やっぱり来なければ良かった。そう思って再び睡魔に襲われそうになった時、新入生代表の挨拶が始まった。それはどこかで聞いたことがある声。



「みんな〜元気にしてますかー。寝てるやつはいないかー?そんなわけで私が新入生代表をすることになった伊波いなみかえでです。つまらん台本がここにあるが私はこんなものに頼る気はさらさらない。みんな、今から遊ぼうぜベイベー」




 藍色髪の少女、それは校門前で問題を起こしていた少女だった。


 先生たちは頭を抱え、無理矢理降ろそうとする動きもあったが、それを華麗に避け彼女は叫ぶ。


 そんなふざけた挨拶と共に僕の高校生活が始まった。

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