第54話 運動場にて

 運動場。


 校舎がある場所から2ブロックほど離れた場所にある、体育館とフィールドが2つずつあるスペース。

 ここを中学3学年各3クラス、計9クラスが順番に使う、らしい。


 この学校、先輩後輩、といったつながりをことのほか大事にする、らしい。

 月-金計5日を各学年A組B組C組と、使う日が割り当てられる、のだという。

 つまり、僕のB組は1B、2B、3Bの合同で運動場を使う、ということのようだ。5日3クラスだから、曜日としては1日ずつずれるので、曜日のえこひいきがない、とのことだが、なんだ?曜日のえこひいきって?

 「曜日によって習い事が決まってるだろ?同じ曜日ばっかり練習だと、いろいろ面倒なんだよ。」

 と、誰かが言っていた。

 さすがにセレブ学校は、クラブだけでは飽き足らず、色々とお稽古なるものがあるようだ。ご苦労なことだな、と僕は興味もなく聞いていたんだ。




 運動場使用日。


 3年生が仕切って、まずは1つの体育館を1年生が、もう1つを2年生が使う。グラウンドの1つは3年生、もう1つは2年生が使う、ということらしい。

 「仕切ってるけど、毎年恒例なんだぜ。」

 と聖也がささやいてきた。

 2年は種目数が多いので、それぞれ別れて、とのことらしい。

 体育館でバスケとバレーをグラウンド側でサッカーと野球を練習するということのようだ。

 1年がサッカーを体育館で練習、と言っても、十分に広さはある。

 2年全員が体育館で各種目練習しても問題なさそうだ、というのが僕の感想だ。まぁ、うろうろするには両者を使用できるこの環境がありがたい、っちゃ、ありがたいが。




 僕は、まずサッカーチームへ。

 請われて10人抜きドリブルをやらされた後、監督権限で全員でドリブル練習。キーパーは彼らの中で決まってるようだが、なんで?という人選なんで、全員で、と、指定して、いったん離れた。


 体育館に行く振りをして、大きく迂回しながら、感覚を研ぎ澄ます。


 もう見慣れた、といってもいい、あの怪しい魔法陣や札が所々に貼られていて、その側には、呼び寄せられたのか、有象無象、というにはちょっと人間的?といえる霊が吸い寄せられている。

 そうなんだ。

 この数日で判明したこと。

 この札群は、いろんな形式をとっているが、どうやら地縛霊にもなれない土地に縛られた霊や、浮遊霊といった、元が人間、というか死者の霊が引っ張られ、ちょっと力を与えられて見えやすくなってる、ということのようだ。

 見えやすく、と言っても誰にでも見える、というわけじゃなくて、多少の霊力があれば見える、と言った感じか。

 僕らからすれば、普段は注視しなきゃ存在にも気づかない消えかけの霊が、なんだったら意志まで持ってしまって、はっきり顕現してる、といったところ。除霊、浄霊自体はたやすいレベル。見えて、場合によってはこっちが見えるからと要望を突き付け来て鬱陶しい、ということを覗けば、無害っちゃあ無害。普通なら放置、が正解。上からの指示で、事情聴取の後、浄霊、そして札の除去、までしなきゃなんないけど、普段なら僕らみたいなザ・チャイルドに振られる仕事ではないな、うん。楽で良いけど、ツケが怖い、そう思うのは被害者妄想か。



 この運動場では、一番強く、僕の霊力が発現した、という。

 僕がロシア・アメリカ連合軍に拉致されて、京都の護衛結界に隠された魔法陣に霊力を吸われていた時の話だ。

 その魔法陣は、どうやら周りの霊力を吸い取り、どこかへ転移している、ということが判明。僕の霊力がどこへ転送されるか、感知能力の優れた人員が人海戦術で、その転送箇所を探っていたところ、複数の地点で僕の魔力が感知された。

 そして、その中でも特に強く感知されたのが、この通称運動場の辺り、というのが、僕に与えられた情報。

 そして、潜入している学校の学生としての身分で容易に入れるこの運動場内から、移転先の情報をゲットせよ、というのが、僕の今すべき任務、というわけだ。


 だが、1つ問題だ。


 僕にとって、僕の霊力、というのが、実は認識しにくいんだ。

 みんなに独特だ、とか、誰でも分かる、とか、いろいろ言われている。

 けど、自分の体臭がわかりにくいように、自分の霊力なんて、感知しにくい。

 ガイガーカウンターならぬ、僕の霊力カウンター、みたいな道具は渡されてるけど、正直、僕以外の誰かの方が、任務として適切なんじゃないのか、と、ごねたのは昨日の話。結局、今の立ち位置=運動場に大手を振って入れるというアドバンテージ、がある僕の仕事だ、と、説得という名の暴力行為を受けて、今、僕はここでこうしている。



 はぁっと、ため息をつきつつ、体育館の裏の方へやってきたんだが・・・・

 僕は、スッと目を細めた。

 なんでこんなところに・・・


 「何、その顔?傷つくなぁ。あのね、ここの報告をしたの。あなたの霊力を知っている人間総動員されたときに、。ね、私、役立つでしょ。だからね、一緒に手伝って上げるわ。さぁ、こっちよ。」

 そこにいたのは、倉間葵。

 彼女はなぜか嬉しそうに、僕に来いというジェスチャーをしつつ、体育館と逆側、木々が植えられているスペースの奥に足を向けた。

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