第49話 僕を知る者たち

 「あ、そうだ。飛鳥、行事予定とか分かってる?」

 聖也が、微妙になった空気を蹴散らすように言った。

 「行事予定?」

 「ああ。うちの学校って行事多いからさ。」

 「そうそう。イギリスってどんな感じ?」

 ルカも追随して聞いてくる。

 「行事って言ってもなぁ。」

 イギリスで通ってたのはプライマリースクール小学校だったしなぁ。

 でも中学だとダンパとかショートトリップぐらいだと思う。日本とはちょっと違うかな?

 僕が首を傾げてると、まぁいいや、とルカも言った。

 「一番近いのは、社会見学。それで、次が遠足かな?10月入るとすぐ運動会だから、その練習はそろそろ始まるんだ。」

 「確か社会見学は来週月曜だっけ?」

 「そうそう。今年は和菓子だって。」

 「和菓子?」

 「なんか有名な和菓子屋の工場見学した後で、作る体験があるっていってたよね。」

 「それって全員参加?」

 「当たり前じゃない。まさか休む気だったんじゃないよね。」

 休みたいのはやまやまだけどな。

 「それって、全生徒で行くのか?」

 「ん?学年全員だよ。学年によって行く日も違うしね。」

 なんだ。じゃあ、空っぽの学校を調査、なんてのは無理か。


 「遠足はどうせどっかの神社とかお寺だろ?」

 太朗が、そんなことを言ってくる。

 「そうだね。でも僕は遠足のお寺巡りは好きだな。特別の国宝とか見せてくれたりするじゃない?」

 「ありがたがってるけど、単なる木の人形だろ?」

 「罰当たりだよ、太朗君!」

 「ああ、今年は違うわよ。」

 「え?委員長、違うって?」

 「ええ。今年は二条城だって。こちらも国宝は見せてもらえるらしいけどね。」

 二条城自体が国宝だろうが。

 わざわざ見せてもらえるとか言ってるということは壁画だろうか?だとしたら奥まで入れる。けど、アソコは面倒なんだよな。三度ずれてるっていうミステリー、もっともらしくいろんな説があるけど、本当のところは霊的な問題。だてに離宮が置かれてたんじゃないんだけど。


 「ねぇ、飛鳥ちゃんってば!」

 「え?」

 ルカに体を揺すられて、びっくりした。どうやら自分の思考に沈んでる間に、話は進んでいたらしい。

 「だから、どうしたいかって話!」

 何が、だろう?

 「あ、ごめん聞いてなかった。何がどうしたいって?」

 「おいおい。そんなんだからお前んとこのお兄様方が心配するんだろうが。だからさ、運動会の種目だよ。どれが出たいって話。もう練習が始まるからさ。」

 やれやれ、という感じで太朗が説明した。

 練習だって?運動会で?あんなの、その日やって終わりじゃないのか?

 「あのね、うちは運動会って球技大会も兼ねてるの。球技1つフィールド1つは最低出なきゃダメなんだからね。」

 「練習は運動場か体育館を使うけど、体育の時間だけじゃおっつかないからさ、抽選で場所取りするんだよ。」

 話によると、練習までして運動会に向かうのは中学生だけらしい。高校は受験に向かってまっしぐらで、運動会にも自由出席だそうだ。運動部は部の威信、とかで、高校生も出席必須だそうだが。中学生がこんなに面倒なら高校に入れて貰えば良かった。どうせ上はこんなことも分かってたんだろうけど。


 僕は、考えとく、と言いつつ、教室を出ていく。

 一緒に帰ろう、という3人は無視だ。なんで、すぐそこの寮まで仲良く帰らなきゃならないんだか。ていうか、もうちょっと学校をうろつかなきゃ、他のやつらに怠慢、とか言われそうだし、霊力に引っかかってるところだけどもチェック、できれば排除しておこうか。こっちの校舎は僕一人って、なんか仕事量多い気がする。

 僕は、聞こえないふりをして、さっさと彼らの前から姿を消した。



 しばらく、校舎内の廊下をうろつく。

 主にトイレや、階段の踊り場、そんなところで、札や魔法陣を見つける。

 種類も実は様々だった。

 一つなんかはまったく起動してなかったけど、まじめにソロモン王の召還陣で、一瞬焦ったよ。踊り場に設置された鏡の影にあったのも、ホント、何の知識だって話。これについては、クロウリーに渡した方が良さそうだ、と、丁寧に物理的に剥がして保管しておいた。


 そんなこんなで、そこそこの数、駆除した僕は、下校しようと玄関へ。上履きと靴を履き替えるべく、与えられた靴箱を開けていると、後ろから視線を感じた。

 誰だ?

 僕はゆっくりと、そちらに目を向ける。

 女子生徒だった。

 真面目そうなお下げの少女。

 あれは・・・

 僕は頭に入れた生徒情報を思い出して、眉をひそめた。

 あれは、生島麻朝いくしままあさ。元華族令嬢。僕の素性を知るであろう同級生その2だ。

 僕は気づかないふりをして靴を履き替えると、足を踏み出した。


 「あ、あの!」

 僕の背中に向けて、生島は声をかけてきた。

 一瞬迷ったが、気づかないふりをしよう。

 「ちょっと待って。た、田口君、あの、協力・・・情報あるの。」

 情報?

 養老と違い、上から来る様子でもない。むしろ僕を怖がっている?だけど思い切って声をかけたといった感じだろうか?

 「生島麻朝?」

 「私、を、知ってる、の?」

 驚いたように、そして少し怯えた目で僕に聞いてくる。

 なんか僕がいじめてるみたいで、居心地が悪いじゃないか。

 「あんたが僕を知ってるほどは知らないと思うよ。」

 「あ、そう。そうよね。あの、その・・・」

 「で、情報があるって?できればあんまり親しくしたくないんだけど。」

 「ごめんなさい。」

 ぺこり、と大きく頭を下げる。

 だから、別にいじめるつもりはないんだ。

 僕は、怖がらせないように、ちょっとだけ、ゆっくりと近づく。

 頭を上げた彼女は、別に逃げたり後ずさりしたりする様子はなくて、ちょっと安心だ。

 「でも、ちょっとお話ししておいた方が良いかなって。その、田口、くん、の目的に関係ある、かも、なんで・・・」

 「どういうこと?」

 「あの、ここでは・・・」

 「人目を避けた方が?」

 「うん。」

 といっても女の子と二人っきりって言うのもなぁ。蓮華でも呼ぶか?

 僕がちょっと思案していると、おずおずと笑顔を浮かべながに、生島は言った。

 「内緒話出来る喫茶店が近くにあるんです。よければそちらで。」

 「その、男と二人とかまずくない?その・・仲間の女の人、呼ぼうか?」

 クスッ、と、はじめて心から笑われたようだ。逆に僕がおどおどしてしまったからか。

 「飛鳥様って、あ、ごめんなさい、田口君って、かわいいですね。あ、その女っぽいとかじゃなくて、なんていうか態度で、ってごめんなさい。そんなこと言われたらイヤですよね。あの、私、ごめんなさい、なんか緊張しちゃって。その変な子ですよね。あ、どうしよう。私、何言ってるんだろ。その、田口君と二人で全然大丈夫ですから。そんなにお時間取らせないです。」

 パニクってるのかなんなのか、一人で百面相している。けど、なんか悪い子じゃなさそう。

 「飛鳥、でいいよ。様はやめて。その、生島さんが良ければ、その喫茶店、行こうか?」

 「あ、はい。飛鳥さん、ううん飛鳥君でいいですか。私、麻朝って呼んでくれたら嬉しいです。」

 「あ、うん分かった。じゃあ麻朝ちゃん、行こうか。」

 「はい。」

 なんだか、嬉しそうになった麻朝ちゃんに連れられて、近くのビルにある喫茶店に僕らは行った。喫茶店はビルの1階にあって、普通に複数の席があるけど、その店舗内にある内階段を登ると、個室が複数用意されているようだ。麻朝ちゃんはVIPと認識されているのか、どうやら顔パスでその個室に案内された。

 僕らはコーヒーを頼み、向かい合って座った。

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