第15話 パーティー その3

 食べ物のテーブル近くでは、遥と蓮華が、話をしていた。


 「ごめんね~任せちゃってぇ。でも鮮やかねぇ、ノンてば。逆に飛鳥。一人になったらハイエナどもがたかってくるって言ってたのに、何ボケっとしてるかな〜。」

 うっせーな。大体、みんな社交ってやつに散らばったじゃないか。僕は隅でひっそり息を潜めてたよ。

 いつもみたいに、心の中で悪態をつく。声にしないのは、ばか力の餌食にならないためだ。そもそもが暴力女。不死者の僕になら、加減をしないでいいと思ってるのか、反射で手を出してくる。いや、不死者になる前からか。一般人出の僕が気に入らないのか、昔から、教育だなんだと、物理的、精神的に、ガンガン攻めてくるから、苦手なんだ。


 「やだなあ、飛鳥ってば。蓮華さんは、暴力女なんてことはないですよ。飛鳥のことを思ってくれてるんですから、感謝しないと。」

 はあ?ふざけんな!

 何、人の気持ち勝手に喋ってんだよ。

 マジでこいつ、絞めてやろうか?

 「ちょっ、飛鳥、ばか?何やってんのよ!」

 一瞬で、僕の周りに、蓮華が結界を作る。


 しまった。感情に引きずられて、霊力が勝手に憲央を襲うところだった。僕は冷や汗が流れるのを感じた。こんなところで刃傷沙汰なんて、言い訳もさせてもらえない。

 大体、僕の霊力は桁違いに多いらしく、幼い頃から訓練を受けたわけでもないため、感情に合わせて動いてしまうきらいがある。日常でそんな物騒な力をコントロールできないとか、自分でも、ない、と思うけど、無意識下だ、簡単な話じゃない。

 解決策なんてうまい話ではないけど、僕ができるのは、極力人と関わらない、何にも関心を持たない、なんていう消極的な方法だった。

 心を動かさないためには、何もせず、関わらず。


 クソ見たいな生き方だと、自分でも思う。

 そんなことで生きてるといえるのか?そんな風に言って来た奴もいたっけ。

 でも放っておいてくれ、生きたくて生きてるんじゃない。ああそうさ。死ねないなんてのは、生きてないと同義じゃないか?

 だから僕は日々を無為にすごす。

 誰にも会わず、何もせず、ただ日だけが過ぎる。


 せっかくそんな風に感情をなくしているのに、無駄にちょっかいを、かけてくるやつがいる。僕だって聖人君子じゃない。本当に感情がないわけじゃないんだ。むしろ、常に不安や不満を抱えて爆発寸前だ。そんなことは自分でも分かってる。いや。本来、感情の起伏が激しい方なのかもしれない。


 だから、誰も僕に、構わないでくれ。


 そんな祈りは虚しく、なぜか、絡んでくるやつが多い。

 そうして感情を爆発させてしまったら、いつでも後悔するのは、僕だ。

 力をふるってしまったら、機構やまわりからのペナルティは必至。だけでなく、それなりに自分が情けなくなる、なんていう心理的苦悩まで抱えてしまう。



 だから気をつけていたのに。

 今、間違いなく、こいつを攻撃するところで。

 間違いなく、蓮華に気づかれ、止められた。

 当の本人は、ヘラヘラしていて、わざと挑発したんだと、まるわかりだ。蓮華だって分かってるだろうに、あくまで悪いのは僕一人ってわけか。


 戦いの時は、敵の前に飛び出す僕に、この結界で力強く守ってくれる。何人たりとも通さない、強固たる盾。これがあるから、僕は力を振るえる。

 が、あくまで、僕を守るなら、ということだ。

 今、蓮華はその結界を僕の拘束のために用いてる。こちらから攻撃を仕掛けた力をも絡め取って無効化した上で、徐々に拘束を強め、全身締め上げられて行く。


 「蓮華さん。助けて頂いてありがとうございます。今は人目もありますし、僕もお陰様で無事ですし、飛鳥を、許してやってくれませんか。」

 は?どの口が言ってる?お前のせいだろうが!

 「フフフ。まぁ反省はしてないみたいなので、お灸は後で据えることにしましょうよ。」


 「分かったわ。あんたがそういうならしかたないでしょ。」

 一瞬、今までより強く、結界を絞めたと思ったら、カクンと拘束が消えた。


 わかっていたのか、その僕の体を、憲央が支える。


 「ほら、お腹が空きすぎて、ふらつくんですよ。何、食べます?あ、遥先生、飛鳥に食べさせたら、報告ですよね。」

 「あんたがこのまま飛鳥の面倒見るなら、別に今日はいいわ。誰かに振るならあんたの責任でなさいな。」

 「承りました」

 「飛鳥?何食べます?確か、お子様舌なんですよね?」

 なんだよお子様舌って。

 そう思うが、憲央に引きずられて料理を渡される、その内容は、僕の好みに、悔しいけど、合っていた。

 

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