第2話 AAO
「飛鳥ちゃーん。待ったぁ~?」
馬鹿みたいに大きな声を出し、こちらに手を振るよく知る顔。
僕は、一度そちらに目を向けたけど、すっと目を離してしまった。
奴の馬鹿でかい声に振り返り、目を釘付けにされる一般人が多数。タダでさえ目立つのに、目立つ格好をして、馬鹿みたいな声を張り上げるなんて、こいつマジで馬鹿か。
「ちょっと何無視してんのよ!」
走り寄ってきたそいつは、ガツンと手にしたハンドバッグで思いっきり俺の頭を殴りつけた。わざとだろう、金具が頭蓋を直撃して、目の前に星が飛ぶ。
背は僕よりも頭一つデカい。ヒールを履いてるからさらにでかい。肩までの真っ黒なチリチリ頭。ってソバージュって言うんだったか。当時はまだそんな名称も多少は残っていたらしいが・・・
無駄にでかい胸と、くびれすぎてる腰が自慢だ。あのとき、ちょうど頑張って痩せてて良かった、とか言うのがこいつの、やせ我慢か。
そう。こいつも、あの日呪われた一人。いつまでも僕のことをガキ扱いの暴力女だ。
「ちょっと聞いてるの、飛鳥。あ、そうそう、これ、お誕生日おめでとう!」
商業ビルから出てきて、大きな袋をいくつも抱えているが、その一つを僕に押しつけた。たく、めでたくなんか、ねえよ。
僕は、殴られた頭を押さえつつ、まだひかない痛みに眉をひそめる。
「ちょっと、ちゃっちゃっと受け取りなさいよ。」
ぐいぐい押しつける、その袋を仕方なく受け取った。
「で?」
やつは、僕の顔をわざわざ屈んで、下から見のぞき込む。
ったく、なんなんだよ。
頭が痛くて下向き加減なのが気に入らないのか、僕の長い髪のてっぺん付近をぐっと掴み、顔を上向けさせられた。容赦なく引っ張られて、反射的に涙が浮かぶ。ふざけんな。オーバー300の握力で引っ張られたら、首も毛ももげるっての。
「プレゼントをもらったの。で、なんて言うの?」
「あ、ありがとう。」
「良く出来ました。」
やつは、髪の毛を掴んだまま、僕の顔を、うざい脂肪の塊に押しつけて、ケラケラ笑った。
だから、こいつらと会うのは遠慮したかったんだ。
しばらく僕の反応を楽しんだ蓮華は、僕の肩を抱く、というよりも、ほぼヘッドロック状態で、歩き出した。
歩道橋に付設の階段を降り、ロータリーの方へ。
ロータリーも素通りして、ワンブロック歩くと、1台の黒いバンが止まっていた。
そのバンへと僕らが近づくと、扉がスーッと開けられる。
その体勢のまま、僕は車に向けて放り出された。おっとっと、っと躓きながら、なんとか車内に滑り込む。
これ、誰かに見られてたら、誘拐事件って通報されるんじゃねぇの?なんて、思ったけど、口には出さない。
「よおっ。相変わらず飛鳥ちんは可愛いねぇ。ケッケッケッ。」
笑う、ツンツン頭の男を見てうんざりする。濃い色の丸いサングラスは相変わらずか。驚くほど細いのもいつもどおり。
車は、富士山に向かってひた走る。
車内にいたのは、3人以外に、運転をしている機構の森永。そして、助手席には同じく機構の明石メリダ。
毎年、我々は最低限、7月7日に顔を合わせることになっている。そう、僕らが神に呪われた、その日に。
車は、しばらく、樹海を突き進む。
一見、人を拒む緑の要塞。
が、その奥には、一般人には知られていないエリアがある。
【AAO】
アクエリアン・エイジズ・オーガニゼーション
その日本支部の広大な施設が広がっている。
20世紀末、ノストラダムスの大予言に怯えていた時代。
この機関の前身は、秘密結社として作られた。
20世紀末というのは、単なる世紀末に納まらない。普通の100年単位の世紀という意味だけでなく、それは1000年代から2000年代へと大きく時代が動く年とされ、またある種の神秘を追う者はさらに大きく、新たな星座の時代への変動期だと唱えた。すなわちキリスト生誕から始まる魚座の時代から、あらたな2000年紀への移行の時代だと。あらたな時代は水瓶座の時代。水瓶座の時代はスピリチュアルの時代だと声高らかに叫ぶ人々。事実、これをスピリチュアルと呼ぶのかどうか、いわゆる超能力に目覚める者達が産まれ始めた。これらを保護しその力を次の時代へと覚醒させようとした秘密結社。それがAAOの前身だ。
僕たちは、この結社に絡め取られ、神の意志に反した、らしい。
その結果が、この有様ってワケだ。
秘密結社は21世紀になって、すぐさま新たな活動を開始し、AAOという機構を作り出した。そもそもが世界中のVIPが所属していた結社だったから、世界的な機構を作り、秘密裏に神の置き土産へと対処をするための組織として再編することは、難しくなかったらしい。
その対処の1つが、僕ら呪われた者達の確保と調査。
僕らは、不死と超能力なんて、笑わせる力を持っちゃいるが、彼らに逆らえるよしもない。それはこの60年、身をもって知らされた。ああ、まったく笑えない。身をもって、だ。
そして、今年も、7月7日、僕らはここへと集うことになる。
今年は無事何事もなく解放されるのだろうか。
僕は、横でケラケラと笑いながらさえずっている淳平をガン無視しつつ、そんな風に考えていた。
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