340.歌姫

 リヴァがドラゴンと戦っていた頃、地上の戦いもより激しさを増していた。


 降りた敵のモンスター達が一か所に集まり、いよいよ動き出した。


 それをいち早く把握した地上軍は迎え撃つ準備を整えていた。


 防衛軍を引率するのは、ヤマタイ国の女王卑弥呼であった。


 女王は敵軍が見え始めた時、神器の一つである八尺瓊勾玉を持ち上げた。


 ――そして。


「神術! 八尺瓊勾玉やさかにのまがたまの解放!」


 防衛軍全員に大きな加護が付与された。


 既にこの力だけでも、多くの防衛を担っている兵達は強くなっていた。


 しかし、そこにもう一人。


 神器に負けない存在が兵士達を鼓舞した。


 ――――彼女の名は『ナターシャ・エクシア』。


 ナターシャは戦場にあるステージにライブを始めた。


 直後、神器『八尺瓊勾玉』同様、防衛軍全員に光を灯した。



 ナターシャの力。


 それは奇跡の二文字でしか表現出来ない力であった。


 クロウティア消失の三か月間。


 すっぽり空いたような感触から、ずっと戦うために頑張っていたナターシャ。


 しかし、他の奥さん達とは違い、戦う能力はない。


 彼女が頑張ったのは、従魔を従える事。


 しかし、三か月の頑張りも虚しく、出来るようにはならなかった。


 そしてクロウティアの帰還。


 その後、ナターシャはまた悩んでいた。


 暗黒大陸が出現してから始まる戦いを。


 しかし、暗黒大陸でも自分だけが出来る力はなかった。


 ただ、普段から記憶力が良かったり、判断力に優れていたので、クロウティアの従魔達に指示を出せる事は出来た、そして、暗黒大陸の戦いでは従魔達を引き連れて活躍した。


 しかし、その戦いが終わり、決戦の日までの三か月、ずっと悩み続けた。


 そんなある日。


 彼女は合同練習している地上軍に対する女王卑弥呼の神術を目撃した。


 それがナターシャにとって、大きな転機となる。


 あのように味方を鼓舞する事が出来れば……と考えた彼女。


 そんな彼女は味方を鼓舞する方法を知っていた。


 それが『ライブ』。


 答えは既に……クロウティアから教わっていたのだ。


 中央大陸で、史上最高の人気を誇り、行った全てのライブで人々を魅了し楽しませてきた彼女のライブ。


 ナターシャは自然と『ライブ』を行うようになった。


 ――その時、奇跡が起きる。




 - 職能が進化します。-


 - 職能『ノービス』が『歌姫』に進化しました。-


 - 職能により、歌唱の効果が味方に付与されます。-




 ナターシャの頭に響く、女神様の声。


 人類初の奇跡を起こした人となったのだ。




 ◇




 戦場に音楽と歌が流れ、防衛軍達は今まで以上の力を発揮した。


 更にアカバネ大商会のサポートもあり、怪我人は直ぐに救出し回復させた。


 ヤマタイ国のツクヨミ五人と賢者三人による、遠距離神術と魔法により、敵の大型モンスターも蹴散らした。


 次々攻めてくる敵であったが、地上軍には一切に被害もなく、全てなぎ倒して勝利を収めた。




 ◇




 ◆アカバネ島◆


 アカバネ島のガーディアン、ヘレナは上空の島を見つめていた。


「ふむ! あの島……怪しいですね! あの作戦はマスターを驚かせようと待っていましたが……これは先に準備しておかなくちゃいけませんね!」


 彼女は驚くマスターを想像しながら、楽しそうに島の中央に向かい歩き出した。




 ◇




 ◆クロウティアの屋敷◆


「ヴィン、この戦いが終わった後、『世界樹』が弱まるかも知れないわ」


「理由があるんだな?」


「ええ……アハトシュラインは良くも悪くも世界に『魔素』を増やしているわ……『世界樹』は『魔素』から力を保つの、本来なら『魔素』以外の力が決して受け付けないの。だからこのままアハトシュラインが崩壊すれば……いずれ『世界樹』は弱まると思う」


「そうか……その時は、エレノアの役目なのだな?」


「ええ……本当にごめんなさい、やっと帰ってきたのに……また離れるかも知れなくて……」


「いや、我が子を守るためだ、仕方ないさ。ただ……一つ頼みがある」


「いいわ、何でも言って頂戴」


「……もし、『世界樹』の生贄にならなくちゃいけなくなったら……俺も一緒に連れてってくれ」


「それは…………」


「息子も孫もあんなに立派に育っている。今更、爺一人いなくても問題ないはずだ。まあ、もしもの話だ。あの子達ならきっと何とかしてくれるさ。そんな気がするよ」


「ふふっ、そうね。クロウくん達ならば……きっと、世界を平和にしてくれるわ」


「ああ、なんたって」


「「私達の孫だからね」」


 二人は遥か空の向こうの天空の城を見つめた。

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