336.暴食と節制

 ※分かりやすく表現する為に、この話限定ではありますがとある理由から念話ではなく、会話として話しております※




 ◆暴食の間◆


 ぼよんぼよん。


 スライムが跳ねる音が広場に響いた。


 広場に辿り着いたのは、ソフィア。


 地上最強の神獣として有名なアルティメットスライムである。


 そして、そのソフィアと対峙する者がいた。


 ――――ソフィアと同じスライムであった。



「ふぅん~やっぱり君も『アルティメットスライム』だったんだね」


「そうだよ! ご主人様の従魔のソフィアだよ!」


「…………ソフィア、良い名だね」


「うん! お姉ちゃんは?」


「…………名などないわ。私は『アルティメットスライム』なのだから」


「そっか! ねぇお姉ちゃん。ここにいるってことは、私達は戦わないといけないの?」


「ええ、勿論よ」


「どうして?」


「…………世界に最強のスライムは二匹も要らないのよ」


「でもでも、私はご主人様の従魔で――――」


 アルティメットスライムから大きな炎が放たれた。


 その炎はソフィアを飲み込む。


 しかし、数秒して消えた炎の中には、傷一つないソフィアが立っていた。


「貴方のご主人が、私のご主人様を敵対したのなら、貴方と私は敵同士。私達の間柄で戦う戦わないは関係ないのよ」


「そんな……折角初めて会った同じスライムなのに……」


 直後、アルティメットスライムから黒い触手が放たれる。


 ソフィアからも白い触手が放たれ、二匹の触手がぶつかり合った。


 轟音、暴風、目にも止まらぬ速さでぶつかり合う触手から解き放たれていた。


 数秒のぶつかり合いにより、広場は暴風で全て吹き飛ばされている。



 そして、二匹は高速で移動しながら触手をぶつかり合った。


「うちのご主人様は凄いんだから!」


 ソフィアの言葉も空しく、アルティメットスライムの触手はソフィアを目掛けて放たれ続けた。


「私に直ぐ名前付けてくれて!」


 一本の触手がソフィアに命中する。


 当たったソフィアが吹き飛ばされた。


「戦闘中にベラベラ喋れる余裕があるのね」


 瓦礫に埋もれたソフィアの前にアルティメットスライムが降りる。


 直後、中から爆風が起き、瓦礫が吹き飛ばされ中からソフィアが出てきた。


「うちのご主人様は困ってる人がいたら直ぐに助けるの!」


「くっ!」


 アルティメットスライムの触手の攻撃がまた始まった。


 ソフィアも必死に触手で応戦する。


「でもね、いっぱい助け過ぎちゃって奥さんが六人もいるの!」


 戦いとは裏腹に、ソフィアの気の抜けた会話に苛立ちを覚えるアルティメットスライム。


「それでね! ご主人様はどんな魔法でも使えるんだ!」


「う、うるさい!!」


 更に激しい攻撃がソフィアを襲う。


「だから……だから!」


「うるさいって言ってるでしょう!」


「きっと、お姉ちゃんにも名前を付けてくれると思うの!」


「そんなもの要らないわ!」


「ご主人様なら、きっと、お姉ちゃんも従魔にしてくれるわ!」


「私はご主人様だけのアルティメットスライム! その他のご主人様なんていらない!」


 触手の合間を潜り、アルティメットスライムはソフィアに体当たりする。


 ソフィアとアルティメットスライムがぶつかった瞬間。




 ◇




「ん? どうした、アルティメットスライム」


【えっと……えっとね? ご主人様! 名前が欲しいの!】


「……? 食事が欲しいのか?」


【ち、違うの! 私は……】


「ん? 本当にどうしたというのだ。昨日ダンジョンの奥で会った人間が気になるのか?」


【…………あの人間が連れていた従魔……幸せそうだったの……いつでも翼で羽ばたいてご主人様を守るように……】


「あの鳥はあまり美味しく・・・・なかったのか?」


【…………違う、お腹が空いてる訳じゃないの……私は…………】


「あの人間、賢者と言っていたな? あまり食べたそうじゃなかったから生かしておいたけど……やはり食べさせた方が良かったのか?」


【…………私は……あの従魔のように……名前が……ほ――――】




 ◇




「み、見るな!!!!!」


 アルティメットスライムの悲痛な叫びが聞こえた。


「い、今のは……もしかして!?」


「ゆ、ゆるさない……ゆるさない!! 私はずっと仕えても貰えなかった名前を……貴方はそんな簡単に貰えるなんて!」


「お姉ちゃん! 待って! うちのご主人様なら――――」


「いらない!! 何もかもいらない!! 大罪ノ進化!」


「だ、駄目! その力は駄目!!!」




「暴食ノ玩具!」




 アルティメットスライムから禍々しい触手が吹き出し、そして、自分自身を飲み込んだ。


「い、いやぁあああ!」


 ソフィアの叫びも虚しく、アルティメットスライムは真っ黒い物体へと変わっていた。


 真っ黒い物体となったアルティメットスライムは周りを飲み込み、どんどん大きくなっていった。


「なんで……なんで…………」


 自我を失い、自分の命すら飲み込ませた彼女・・の成れの果てを見つめながら、ソフィアは涙を流した。




「お姉ちゃん……ごめんね……私が勝手な事言って……でもね……本当に一緒に……生きて……欲しかったの……ご主人様ならきっと受け入れてくれるから……本当に優しいご主人様だから…………でももう遅いね……せめて……私がちゃんと止めてあげるよ……」




「神格化! 節制ノ天使」




 ソフィアの背中に小さい羽根が生えた。


 しかし、ソフィアの身体からは、今までとは比べものにならないほどの力が溢れ出ていた。




ホワイトホール無限放出




 ソフィアから眩い光が溢れ広場を包み込んだ。


 光を飲み込んだアルティメットスライムの成れの果ては、少しずつ小さくなっていった。


 そして、数分後。


 アルティメットスライムの成れの果てがいた場所に、小さなスライムが一匹、横たわっていた。


 既に事切れているスライムを、ソフィアは優しく抱きかかえ、飲み込んだ。


 せめて――最後は同族の中で、安らかに眠って欲しいと願いながら。

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