298.リッチお爺さん
「こ、こほん、こちらが『精霊の鍵』になるのじゃ」
「ありがとうございます! 身体は大丈夫ですか? お爺さん」
「おう! こう見えても儂は『精霊』じゃからの、先は本当に死ぬかと思ったが、おかげで治ったのじゃ」
ソフィアの怒りを買い、ボコボコにされたリッチは、「わ、儂が死ねば『精霊の鍵』は手に入らんぞ!」と脅してきたのだ。
ソフィアは不満そうにいつもの僕の右肩に飛ぶ乗って【早くご主人様に渡すモノを渡しなさい】と威圧感を放っていた。
リッチお爺さんも諦めたようで、「闇属性魔法を撃ってくれれば、回復するのだが……儂の頭が欠けてしまった……」とぼやいていたから軽く闇属性魔法を撃ってあげたら一瞬で全回復した。
リッチお爺さんに渡された『精霊の鍵』はそれぞれの七つの絵柄が刻まれていた。
「それで、クロウくんとやらは、『アルテナ大陸』に行き、何をするつもりなのじゃ?」
「えっとですね、その大陸は今や『暗黒大陸』と呼ばれていて――」
「『暗黒大陸』じゃと!? それは本当の事か!!」
「え? そうですよ? 魔族の大陸になっているみたいで、僕達は攻められているので『暗黒大陸』の扉を全て閉じたいんですよ」
「ほぉ? 向こうの扉を知っておるのか……君は中々に博識なのじゃな」
「知り合いから教わりました~」
「そうか、それは良い知り合いに恵まれて良かったの」
「はい! あ、でもそこに行く方法が分からないんですよね」
「ほお、それは簡単じゃ、あの扉を『精霊の鍵』で開けて行けばいいのじゃ」
えええええ!?
リッチお爺さん指差した場所に扉が一つ、ポツンと立っていた。
いつの間に!?
しかも、何となく、『次元扉』を思わせる作りだった。
「ソフィア、これって『次元扉』と似てるね」
扉の前で扉をぐるぐる見回ると『次元扉』と全く同じ感じだった。
【ご主人様! この扉、食べてみてもいいかな?】
「え!? 腹壊さない? ――――う~ん、それならいいか、いいんじゃない?」
「ん? 何をするつも――――ギャアアアアア!!!」
ソフィアが例の扉を丸飲みすると、リッチお爺さんが奇声を発した。
「せ、精霊の扉が……な、なんて事を…………」
リッチお爺さんが絶望している。
「ソフィア、どう?」
【ん~! ご主人様! やっぱり、これ『次元扉』だよ!】
「えええええ!? 『次元扉』!? 僕、作った覚えないよ??」
【うん! これを作ったのは…………あれ? でも
「えっ? ん~気づかないうちに作ったのかな? あ、リッチお爺さん」
未だ何かブツブツ呟いている。
ソフィアが体当たりをした。
あ……ソフィアのリッチお爺さんに対する当たりが妙に強い気がするのよね。
「ぐ、ぐはっ! 何をするのじゃ! 死んだらどうする!」
【ご主人様の質問に答えなかったら、本当にあの世に送るからね!】
いや、ソフィア……多分、その声は聞こえていないと思うんだけど……。
ソフィアの威圧感から、何を言っているのか察したリッチお爺さんは僕を見た。
「えっと、『精霊の扉』? は、誰が作ったんですか?」
「ん? あれは…………ふむ、既にお主に鍵も渡した事だし……そこのスライムが飲み込んだのだからな…………まぁ、良いか、その扉を作りしお方はのう」
「女神様じゃ」
「えええええ!? 女神様が!?」
「そうじゃ、そもそもそんな空間を繋ぐような扉を『女神様』以外、誰が作れるというのじゃ?」
…………。
どうしよう。
僕もソフィアも作れちゃうんだけどな……。
【ご主人様は女神様より偉いんだから!】
そ、ソフィア……ちょっと違う気がするけど、ありがとう。
取り敢えず、ソフィアの分析が終わったので、飲み込んだ扉を吐き出すと、リッチお爺さんは「女神様~! ご無事で何よりです!!」と泣いていた。
扉が女神様ではないと思うんだけど……。
扉にしがみついて泣いているリッチお爺さんが邪魔で入れず、イライラしたソフィアはまたもやリッチお爺さんに体当たりすると遥か向こうに吹き飛ばされた。
ソフィアは触手を伸ばし、扉を開ける。
――そこに広がっていたのは、真っ暗な部屋だった。
「クロウくんや、もしよければ儂も同行させてはくれぬか?」
「え? リッチお爺さん、歩き回れるんですか?」
「おお、儂はその『精霊の鍵』を守る為、『精霊の鍵』に取り憑いていただけなのじゃ。既に封印は解かれ、儂はまた自由の身となっておる。『精霊の鍵』を守りたい心は今も変わらぬ。今のお主を守りたいのじゃ。どうかの?」
リッチお爺さんから真剣な想いが伝わって来た。
「いいですよ! 僕も仲間が増えるのは嬉しいので、でも…………」
「でも?」
「僕と一緒に行くとなると……その格好のままですと……僕の奥さん達にボコボコにされるかも知れませんよ?」
なにせ、僕の奥さん達はお化け屋敷が大の苦手だからね。
こんな歩くお化けが一緒にいると何をするか分からないから。
「それは困ったのじゃ……どうすればよいのか……」
「せめて、そんな禍々しい雰囲気じゃなければ……」
「ん? 禍々しい雰囲気? あ~忘れておった! 脅かす為にわざとそうしていたのじゃ。では本物に戻すとするか~」
リッチお爺さんから眩い光が身体を包んだ。
――そして。
「これは本物の姿じゃ!」
衣装が真っ白になったリッチお爺さんがいた。
白くなっただけだけど、まあいっか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます