297.ウリエルの鍵
「って! こうしている場合じゃなかった! シエルさん、ごめんなさい。今地上では戦いが始まってまして」
「戦いですか!? ……どういう状況なのでしょう?」
「ええ、魔族が僕達を侵攻して……『暗黒大陸』に入る為に『ダンジョンの鍵』を集めているんですよ」
「『暗黒大陸』……? それに……『ダンジョンの鍵』……もしや、アルテナ大陸と封印の鍵……」
シエルさんが悩んでいる顔で小さく呟いた。
「あ~『暗黒大陸』は元々『アルテナ大陸』と呼ばれていたみたいですね」
以前、メティスがそう話していたのを覚えている。
「『暗黒大陸』…………というくらいですから……あの大地はとても疲弊しているのですね?」
「う~ん、中まで見れた訳ではないんですけど、外から見た感じではそんな感じでしたね」
僕の言葉を聞いたシエルさんは驚く表情と共に涙を流した。
「し、シエルさん!?」
「も、申し訳ありません……そうですか……かの大地は、既にそういう状態をなっているのですね…………クロウティア様は『ダンジョンの鍵』を集めていらっしゃるのですね?」
「はい、それを集めて『裏切りの間』を開けられるかも知れないので」
「『裏切りの間』ですか…………もしかして、ルシファーのダンジョンでしょうか?」
「恐らくはそこかな……と」
シエルさんは納得したように頷いた。
「恐らくルシファーのダンジョンで間違いないでしょう……積もる話もございましょうが、今はクロウティア様の力必要でしょうから、こちらの『ウリエルの鍵』をお渡しします」
「ええええ!? 『ウリエルの鍵』は既に鍵になっているんですね!?」
「はい、そう言えば、魔族は『暗黒大陸』から攻めて来ているのですね?」
「そうです」
「では、クロウティア様。
「本当ですか!? シエルさん! ありがとう! 今はあまり時間がないので、向こうの扉を閉めに行きますね!」
「はい、いってらっしゃいませ。もし暇な時間が出来たらまたお越しください」
「はい! また遊びに来ます!」
僕はシエルさんと動物達を残し、ソフィアに頼んでルシファーのダンジョンの最奥へと向かった。
「――ティア様…………」
◇
ルシファーのダンジョン最下層に着くと、僕が持っていた七つの鍵が光り輝いた。
そして、ぐるぐる回り始め、一つの光に纏まり始めた。
光が纏まって数秒。
眩しい光と直後、禍々しい光に代わり始めた。
【ご主人様! 危ない!】
ソフィアの言葉に、瞬時に後方に飛んだ。
直後、禍々しい光になったそれからは黒い鎌が僕が元々いた場所に刺し込んだ。
そして、黒い光は少しずつ形を成し――――人型になった。
真っ黒いローブ。
深いフードを被っていて、フードの中から真っ赤な目が二つ光っている。
足はなく、浮いている。
そして、両手は見るからに骨のまま、それぞれには大きく真っ黒い鎌を持っていた。
【クロウくん! 相手は非常に強いと思われるよ!】
中々手強そうなモンスターだね。
「『精霊の鍵』を狙いし大悪人よ。貴様の力を見せるがよい」
「おお~喋った!」
「我はリッチ、悠久に――」
「意識とかあるのかな? もしも~し~僕の言葉は分かりますか??」
「分かるわ! 今、儂が喋っておるじゃろ! 最後までちゃんと聞かんか!」
あ……普通に会話出来るんだね。
「こほん、ではもう一度……」
「あまり時間がないので、お爺さんを倒したらいいんですか?」
「は? 倒す? 儂をか? ガーハハハハッ!」
お茶目なお爺さんは、禍々しい威圧感を放ち始めた。
おお~。
お爺ちゃん強そうだね!
【まずは私達から行くね!】
そう言いながらソフィアとタマモが飛び上がった。
「ん? スライムに狐?」
【ご主人様は! 私達が! 守るの!!】
ソフィアの身体から一瞬魔力の光が放たれ、火属性、水属性、風属性、土属性の魔法が数えきれないほどリッチを覆い尽くした。
「ぬお!? なんじゃこりゃ!」
轟音と共に、ソフィアの魔法がリッチに全弾命中した。
直後、タマモが可愛らしく咆哮をあげると、口部の前に真っ白な炎が集め始めた。
キャオ――――
甲高く可愛い声に真っ白な炎からの強烈な炎の塊がリッチを更に襲った。
◇
「ま、待て待て!」
爆炎が終わり、中からボロボロのリッチが現れた。
「ま、魔法耐性が無ければ死んでおったわ……って儂はもう死んでいるがな! ガーハハハハッ」
【ご主人様、よくわからないけど、あいつにトドメ刺していいかな?」
「えっ? でも待ってくれって言ってるし、ちょっとだけ待ってあげたら?」
ソフィアが不満そうにぴょんぴょん飛んでいる。
タマモはあくびを一つすると、僕の頭の上に飛び乗って来た。
……
…………
ずっとガーハハハハッって笑っているリッチに怒ったソフィアが触手で一回ペチッと叩きつけるとリッチが遥か向こうに吹っ飛ばされた。
あれ?
意外と弱い?
遥か向こうには、腰に手を当てて痛がっているリッチが転がっていた。
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