294.不可侵の結界

 一通り入り口はないかと、暗黒大陸を一周してみたけど、入れそうな箇所はなかった。


 暗黒大陸は見えない壁のようなもので囲まれていて入れないし、内部は距離が遠くて外から覗き見る事も出来なかった。


 見える範囲では、町のようなモノはなかった。


 大地の状況からして、とても人が生きられる場所ではない事くらいは感じ取った。


 それでも、所々に戦った跡のような形跡が見えるのだから、何者かは生きているに違いない。


 先程、僕の風属性魔法で吹っ飛ばした魔族のスニカーグルさんも、飛ばされてからは現れていない。


 あれくらいで怪我を負ったようには見えないから、別な場所に移動したかも……。


 僕は一旦、管制塔に戻る事にして、ソフィアにはここの空中の座標の記憶と共に、管制塔への扉を作って貰った。


 管制塔に着くと、それぞれのダンジョンでの戦いがモニターに映し出されており、管長のミューズさんがせわしく指示を送っていた。


 各オペレーターからの報告を瞬時にまとめ、的確に指示を送っており、『次元扉』を使ってアカバネ大商会の警備隊も的確に出動していた。



「クロウ様」


「ミューズさん。お疲れ様です。暗黒大陸には入れませんでした」


「そうでしたか……了解しました。ではこのままクロウ様は『暗黒大陸への侵入方法』を探してください」


「分かりました! 厳しそうな所がありましたら直ぐに呼んでください!」


「かしこまりました」


 僕はミューズさんを後にして、魔族を捕まえている『監獄』を訪れた。




 ◇




「ん? 何だか久しぶりだな?」


「ええ、少し事情がありまして……三か月間ずっとここで過ごして貰ってすいませんでした」


「いや……特に不自由なく過ごしているよ。それで? 久しぶりに来たのには理由があるんだろう?」


 僕を出迎えてくれたのはアンセルさん。


 いつもだとシュメルさんが対応するはずなのに、今日は珍しくアンセルさんが話してくれるのね。


「はい、実は……『暗黒大陸』が肉眼で見えるようになりまして」


「なっ!? それは……本当か?」


「はい。そこで、皆さんには一つお願いというか、ここから解放する代わりに、一つやって欲しい事があるんです」


「……ああ、いいだろう。最初こそ酷いモノだったが……お前達の対応は我々の想像以上のモノだった。命も取られてないから、頼み事一つくらいなら何でも言ってくれていい」


 アンセルさんの正直な気持ちが伝わって来た。


 やっぱり、魔族といっても人と分かり合えない訳ではないと、そう確信した。


「ありがとうございます。これから皆さんには、暗黒大陸の目の前まで行って貰います。そこで、僕は『不可侵の結界』によって中には入れないのですが、魔族さんはどうやら中に入れたみたいなので、その確認をさせて欲しいんです。それも中から自由に出られるかを教えて貰いたいんです。それが今回、みなさんを解放する条件になります」


「そうか、分かった。その条件、俺が間違いなく守ると約束しよう」


 こうして、僕は『暗黒大陸』に入れる方法を模索する為に、捕まえていた魔族の六人を解放する事にした。


 『次元扉』の秘密事項もあったので、最初に四人を僕の『闇の手』で現地まで運んで先に解放した。


 その後、再度戻り、アンセルさんとシュメルさんを『闇の手』で連れ、『暗黒大陸』の前の上空に戻って来た。



「本当に『暗黒大陸』が見えている……」


「えっと……こうなる前って、中から外の景色はどんな感じだったんですか?」


「あ、ああ、中からは外が見えていた。君達が中央大陸と呼んでいる大陸も、東大陸と呼んでいる大陸も見えていたよ」


「そうなんですね……意外と…………僕達は近くにいたんですね」


「…………そうだな」


 もしも。


 もしも、暗黒大陸と自由に行き来が出来ていれば……こういう戦いはしなくても済んだかな?


「なあ、クロウ」


「はい」


「これから僕達は中に入る。そして、直ぐに一度戻るよ。もし、戻らない場合は……出れないと判断してくれ」


「分かりました」


 精霊眼を使うまでもなく、アンセルさんの目を見ただけで信頼出来た。


「実は、現在殆どのダンジョンからモンスターが溢れています」


「なっ!?」


「僕達は守りたい人の為、必死に受け止めています……ですが、このままでは人と魔族の戦いが本格化するのも時間の問題でしょう……いや、既に始まってましたね……だから、もしこの先、僕が『暗黒大陸』に入れたとしたら……また皆さんとは戦いになるかも知れません。その時は、申し訳ありませんが……僕は自分の守りたい人達の為に、貴方達を討たなければなりません」


 僕は真っすぐアンセルさんとシュメルさんを見つめた。


 アンセルさんも真剣な目で僕の話を聞いてくれた。


 そして。


「分かった。そうなるのは……仕方ないだろう。もし、その時は、全力で君を止めてみるさ」


 そう言いながら、アンセルさんは右手を出してくれた。


 僕はアンセルさんと握手を交わした。




 会う場所が違っていれば……僕達は友人になれただろうか?


 暗黒大陸の『不可侵の結界』の向こうに消えたアンセルさん達が戻る事はなかった。

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