288.帰還、そして……
『追想の再生』
それは、最も大事な記憶を封印し、その封印が解かれる事で、想いの力を得る魔法だった。
僕は、奥さん達の記憶から消された。
残されている時間のリミットもそう長くなかった。
『神界』での一日は、現世の二年になるみたい。
お爺ちゃんの時間の限界は、明日という事だった。
だから、僕は『神界』の一日……つまり、現世の二年間に賭ける事にした。
本当にいつも勝手に事を決めて、奥さん達には申し訳ないのだけれど、僕はどうしてもお爺ちゃんを助けたかった。
だから『追想の再生』を引き受けた。
現世では、僕がいなくても三か月間、何もなかったかのようにみんなが生きていた。
でも僕が空いた
奥さん達だけでなく、お父さん、お母さん、ダグラスさん達やお義父さん、お義母さん達もまた……。
帰ったら、またごめんなさいしなくちゃね!
「あ、不思議に思ったんですけど、お爺ちゃんの力はどうして減っていくんですか?」
今世では、今でも『お寺』で『
少なくなっているとはいえ、無い訳ではない。
多少なりとも、『想い』の力は届いているのだろうからね。
「ふむ、それはのう……クロウくんには話せないのだが……いずれ、君にも分かる日が来るやもしれぬな」
お爺ちゃんが難しい表情をしていたので、これ以上は聞かない事にした。
シヴァさんは、小さく「人々を救う為だ」と話してくれた。
僕達は『現世の映し鏡』で奥さん達を眺めていた。
セナお姉ちゃんが紙に文字を書いている。
『てうろく』って並んでいて、少し、クスっと笑ってしまった。
それから、皆が頑張ってくれたけど、名前が完成しなかった。
そこに、レイラお姉さんとヒメガミさんが訪れて、何かを話すと――僕の名前が完成した。
「クロウティア」
「はい?」
「…………、この一件、俺は一生忘れないと誓おう。感謝する」
と、シヴァさんが頭を下げた。
「いいえ! 僕はお爺ちゃんに貰ってばかりでしたから、これで、少しでも返せられたら嬉しいです!」
お爺ちゃんとシヴァさんが優しく微笑んだ。
「クロウくんや、本当にありがとうのう、これからは奥さん達を大切にするんじゃよ? ああ、それと、ここにはいつでも遊びに来てくれて良いからの?」
「本当ですか!? これからは定期的に遊びに来ますね!」
――――そして、僕の身体から眩しい光が溢れ出した。
その光は、小さな蝶々となり、
その力は想像を遥かに越え、世界を埋め尽くした。
蝶々はやがて、花となり、木々となり、大地となり
ああ……この世界は真っ白だったのは、美しかった訳ではなかったのね。
その世界が…………『虚無』だった事を知った。
◇
帰って来て早々、僕の事を思い出した人々が、僕に逢いに連日訪れて来てくれた。
セナお姉ちゃんのめいれ……じゃなくて、案により、これからは毎日奥さんの誰かと常に一緒にいる事が義務付けられた。
僕が消失してから三か月。
その三か月間の想いは、力となり、神様を助ける事が出来た。
神様とは言えなかったけど、僕が満面の笑顔で「お爺ちゃんを助けたかったから」と答えると、奥さん達も「クロウらしい」と笑ってくれた。
こうして、僕は元の生活を取り戻した。
僕に取っては、たった一日の出来事だったけど、奥さん達はそうじゃないからね。
新婚なのに、三か月間も離れ離れになったのは、本当に申し訳ないと思っているよ。
それから、僕は奥さん達と日々を暮らし、数日が過ぎた。
僕を想ってくれたレイラお姉さんとヒメガミさんとの婚約も、無事決まった。
皇帝と女帝に挨拶に行った時の緊張感は、中々に凄い事があったけど、両家共に喜んでくれた。
そんな幸せな日々が――――。
僕はいつまでも続くと思っていた。
――その日までは。
◇
その日。
世界に大きく長い地の揺れが襲った。
あまりにも、いきなりの出来事だった。
僕が消えてから三か月。
僕達は一つ、大事な事を見逃していた。
それは『魔族』という存在だった。
六人の『魔族』が僕達の所に捕まえられている。
三か月間、彼らには不自由ではあるけれど、決して大変な生活は送ってはいない。
ただ、彼らが帰還する事が出来なかったこの三か月。
それが、今になって、大きな牙となり、僕達を襲おうとしていた。
◇
【クロウくん! 北東側の海を急いで見て貰いたいの!】
メティスの慌てる声に、僕達は全員で島から、遥か海の向こうを見つめた。
――そして、そこにあったのは。
「あれが……暗黒大陸……」
中央大陸すら超えたその先の遥か海の向こう。
中央大陸と東大陸と三角の形となる場所に、新たな大陸が……禍々しいまでの雰囲気の大陸が出現した。
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