269.港町シナノ

 東大陸に到着した。


 感想としては、中央大陸との違いは全く感じない。


 大気や空気の雰囲気も似てるし、景色も中央大陸と何ら違いはない感じだ。


 一先ず、ソフィアに島への扉を作って貰い、レイラお姉さんにもこちらに来て貰った。



「ここが噂の東大陸ね! 中央大陸とあまり変わらないようね?」


「そうだね、僕も全く同じ感想かな」


「まずはあの町に向かうのかな?」


 レイラお姉さんが指差した先には、港街セベジアと交易で結ばれている東大陸の玄関口と呼ばれている、港町シナノだった。


「港町シナノという町みたい。お父さんから最初はシナノ町から行くといいと言われたから、まずはシナノ町からだね」


「獣人族の町ね! 楽しみだわ!」


「うん!」


 僕とレイラお姉さんは、東大陸で初めて訪れるシナノ町に胸躍らせた。




 ◇




 シナノ町の風景。


 端的に言えば、前世の……昔の日本に似てた。


 確か……こういうの江戸時代とか言っていた気がする。


 江戸時代の建物のような建物が並んでいた。


 高い建物は一切なく、殆どが平屋で、奥にちょいちょい高い建物がある。


 後は、遥か遠くの高台に『城』のようなモノも見えた。



 周りを見てみると、やはり、多くが獣人族だった。


 中には、ちゃんと人族の人もいたけど、やはり獣人族の方が多いので、返って人族が目立つ感じだ。


 勿論、僕達も物凄く目立っている。


 そもそも衣装が全然違う。


 ここにいる住民達は皆、浴衣や甚平を着ていた。


 僕達のようなズボンやスカートは非常に目立ってる気がする。


 そこら辺の皆さんは、僕達をチラチラと見ていた。


 僕はお父さんに教えて貰った、ある店を探す事にした。



 ――――そして、二十分程探し、その店を見つけた。


 『万屋よろずや七星しちせい』という店だ。




 ◇




「こんにちは」


 挨拶しながら店に入った。


 店の奥は畳になっており、その畳の上に二人、人と獣人族が座っていた。


「いらっしゃい~、万屋の七星へようこそ……と、中々珍しいお客様だね」


「ふむ、西大陸からの人だろう」


 西大陸というのは、僕達が中央大陸と呼んでいる大陸の事だ。


 お父さんから事前情報は少し聞いて来ているからね。



 最初に迎えてくれた黒髪の女将さんと、獣人族の男性が、畳から立ち上がり、玄関に降りてきた。


「私は七星のお菊っていうの、こちらは旦那のゴロスケね」


「「夫婦!?」」


 旦那という言葉に僕もレイラお姉さんも驚いた。


「そうさね、西大陸では獣人族が珍しいだろうけど、こちらでは人族の方が珍しいの、それに獣人族と人族が一緒になるなんてのも珍しくないよ」


「そうだったんですね……これは失礼しました」


「まあ、そんな事はどうでもいいか、それで別嬪さんの二人はどういう用件かい?」


 僕は男性ですというと、二人は目を丸くして笑った後、謝罪してくれた。


 慣れているからいいけども……。



「僕達は、この大陸にあるダンジョンを巡りたいと思ってます」


「ほお、ダンジョンね……その情報と案内をして欲しいと?」


「はい」


 返答と一緒に、エクシア家の紋章を見せた。


 お菊さんはじっと紋章を見ると、ゴロスケさんに向かって「本物よ」と話した。


 ゴロスケさんは納得したように頷き返した。


「分かったわ、まず立ち話も何だし、上がりな」


 奥の部屋に案内された。


 島で旅館を経験している僕達だから、靴を脱いだりすると、お菊さん達は更に驚くのだった。


 部屋に案内されている間、ゴロスケさんは玄関を閉めているようだ。




 案内された部屋は、本で読んだ江戸時代の客間と呼べるような部屋だった。


 畳の和室に、中央には窯のようなモノが置いてあった。


 これって……確か囲炉裏いろりっていうモノだったような?


「お菊さん、これって囲炉裏ですか?」


「へぇ、あんた、中々知っているわね。囲炉裏の事を知っている西の客人は初めて会ったわよ」


「あはは、うちは獣人族の従業員が沢山働いてくれてますから」


 ちょっと、冷や汗をかいたけど、何とか言い誤魔化す事が出来たかな?


 僕達は囲炉裏を中心に向かい合った。


 最初、正座しようとしたけど、西の客人はそんな事気にせず、普通に座りなと先に言われてしまった。


 レイラお姉さんも足を崩して、横座りになった。



「まず、ダンジョンだったわね、こちらの大陸にダンジョンが二つあるのは知ってるかい?」


「はい、多分でしたけど、やはり二つですか?」


「そうね。確かにこの大陸には二つのダンジョンがあるさ。でも残念な事に一つは入れないよ」


「入れない?」


 何か入れない事情でもあるのだろうか?


「一つは、大陸中央にある首都エドオリの近くにあるから、そこには入れるわね、でも入るには許可証が必要なので、まずは女王陛下に許可を取らないとね」


「女王陛下!?」


「ええ、ヤマタイ国の頂点、女王陛下なのさ」


 どうやら、東大陸はヤマタイ国という国が大陸を統一しており、その頂点には女王陛下がいるそうだ。


 かなりの武闘派のようで、割と力で解決する事でも有名なようで、ずっと内戦が続いていた大陸をヤマタイ国の女王陛下が女王様になってから、一気に大陸統一を果たしたそうだ。


 統一して、まだ五十年くらいしかならないみたい。


 女王陛下って既に五十歳は超えている事になるのね……。



「そして、もう一つのダンジョンは、首都エドオリから遥か北、最北端にある山『絶山ぜつやま』の麓にあると言われていてね……その絶山には恐ろしいモンスターが住んでいて、入れないのさ」


「成程……その絶山にあるダンジョンも許可が必要ですか?」


「いや、あそこには誰も近づけられないから、許可は要らないはずね」


「分かりました。では、まずは首都エドオリに行って、ダンジョンの許可を取りたいです」


「そうさね、分かったわ。中々長丁場になるから料金はそれなりに覚悟しとくんだよ?」


「ええ、全く問題ありません……が、まだこちらの国のお金は持っていないので、中央大陸で使えるお金か、欲しい物資があれば物資で支払います。ちゃんと働いてくだされば、吹っ掛けてくださってもいいですよ?」


「ふふっ、あんちゃん……中々商売上手やね」


「いえいえ、そうでもありませんよ? 目的の為なら、お金なら幾らでも出しますよ」


「そうさね…………では、達成出来た際には――――――」


「分かりました。その条件で良いです」




 こうして、僕は『万屋七星』の夫婦、お菊さんとゴロスケさんと東大陸を冒険する事となった。

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