262.スライムランドパーク①

「クロウ! 次はジェットコースターに乗るよ!」


「えええええ、い、いやぁああああああ」


 セナお姉ちゃんに腕を抱えられジェットコースター三種を全て経験してしまった。


 一つだけ救いがあるなら、僕の腕を抱えているセナお姉ちゃんの柔らかいが当たっていたくらいだろうか……。



 漸くジェットコースター三種を乗り終えた僕が一安心するのも束の間……。


 今度はナターシャお姉ちゃんに腕を引っ張られ、ジェットコースター達の隣にある中々迫力あるアトラクションに向かった。


 ただただ高く立っているその建物? レール? を前に僕は人知れぬ不安を抱いた。


「次はこのアトラクションに乗るわよ!」


「ちょ、ちょっと待ってナターシャお姉ちゃん、これはどんなアトラクションなの?」


「うん? 私もよくわからないわ。取り敢えず、名前は『無重力』というみたいね」


「むじゅうりょく」


 名前を聞いただけで既に不安だ……。


 レーンが建物に沿ってただただ高く付けられていて、下には二十人程乗れる船みたいなモノに乗せられた。


 愉快な音楽と共に、船は建物を上がって行った。


 ああ……このままゆっくり景色を――――。


 最上部に着いた船は愉快な音楽から激しい音楽に変わると、一気に地上まで超高速で落下・・した。


「いやああああああああああああ」




 ◇




 今度はディアナに優しく腕を抱きかかえられ、疲れた僕を優しく連れだしてくれた。


 何やら大きな船に乗せられた。


 こんな大きな船なら僕もゆったり出来るだろう。


 さすがはディアナだ。


 僕が疲れ――――――




 愉快な音楽と共に船が前進した。


 前進するのに何で上に上ろうとするのかな?


 あれ?


 今度は後ろに下がった!?


 あれ?


 何で下がったのに上に上ろうとするのかな?


 ゆらゆらと前後を進むにつれ、その船は少しずつ…………いや、結構な幅でに向かった。


 あ…………前に進む時は悪くないね。


 風と景色が気持ちいいなぁ……。


 このまま僕、飛行魔法で飛んでいいかな?


 だってこのまま後ろに――――――


「いやぁああああああああああああああ」




 ◇




「あ、あははは…………人間って空は飛べないんだよ? あははは……」


 そんな僕をみていたセナお姉ちゃんから「クロウは空飛べるでしょう」と突っ込まれた。


 違う、そうじゃない。




 ◇




 次はリサに連れられ、気が付けばものすごい高さの建物に登っていた。


 建物は下から自動で登る箱エレベーターに乗って最上階に簡単に来れた。


 そこからは人が簡単に入れそうな無数の透明・・な配管がうねうねと続いていた。


「くろにぃ、これはただ・・の滑り台だから楽しいと思うよ!」


 そうか、やっと普通のアトラクションなのか。


 滑り台とはまた懐かしいね。


 昔はリサとよく一緒に遊んでいたっけ、随分昔の子供の頃だけど。


 リサが僕の後ろに抱き着いて一緒にただ・・の滑り台を滑り降りた。




「い、いやぁあああああああああどこがただのすべりだいなんだよぉおおおおおおおおおおお」




 ◇




「ハッ!? ここは……どこ!?」


「あら、起きましたの? クロウくん」


 目が覚めると、目の前には、程良いたわわの向こうにレイラお姉さんの顔があった。


 あ……ここってまさか……。


 うっ、起き上がれない!


 レイラお姉さんに肩を押されて、全然立てない!


「ふふっ、クロウくん。もう少しこのままで良いわよ?」


「い、いいい、いいえ! レイラお姉さんの足が痺れたら申し訳ないから……」


「クロウくんの所為で、足が痺れ――――」


 ちょっと!? レイラお姉さん!? 何で興奮するの!?



「――――そう言えば、みんなは何処に?」


「えっとね、ここは『観覧車』というアトラクションで、向こうにナターシャさんとディアナちゃん、更に向こうにセナさんとアリサちゃんがいるわよ?」


 どうやらレイラお姉さんの選んだアトラクションは観覧車のようだね……。


 しかし、まさか初めての観覧車がレイラお姉さんだとは……奥さん達を置いといてこれはどうなのだろう……。




 ◇




 ◆ナターシャ・エクシア◆


「ふふっ、レイラちゃんはちゃんとアピール出来ているかしら?」


「クロウ様ですから……難しいかも知れません……」


「ええ、クロウくん、鈍感すぎるからね」


 私達二人は、クロウくんが幼い頃から大好きだった。


 ずっと好き好きアピールもしてきたけど、全然気づいて貰えなかった程だから……。


「レイラちゃんも大変ね、クロウくんを好きになるなんてね」


「ふふっ、クロウ様は世界で一番カッコいい方ですから」


「ええ、間違いないわ」


 それから私達は夫婦生活について他愛ない事を話した。




 ◇




 ◆セナ・エクシア◆


「セレナせんぱ――――あっ、ご、ごめんなさい……」


 この子は、まだ・・私の事を以前の名前で呼んでくれる。


 クロウから私が装着している仮面は、霧属性魔法で『セレナディア』という人物とは分からないようになると言われているけれど、この子が『聖女』だからなのか、効かないみたい。


 思えば、のために『セレナディア』として良いを演じてきていたかもしれない。


 何故なら、今の私は彼の妻になり、初めて一緒にいられる幸せをかみしめている。


 私が本当に欲しかったもの。


 それはまさにこの現状なのだと思う。


 ただ、お父様とお母様から頂いた名前を使えなくなった事だけが悲しい。


「気にしなくていいわ、そもそもこの仮面を被ってるのに見抜けるアリサちゃんが凄いもの」


「あ、くろにぃが霧属性魔法を掛けたっていう仮面でしたよね」


「うん、お義母様お母様にもちゃんといていたわ」


「さらっと凄いモノを作るくろにぃらしいですね」


「ええ、私達の自慢の旦那様だものね」


「ふふっ」


 アリサちゃんと私はこれからの夫婦の事など、他愛ない事を話し合った。




 ◇




 ◆レイラ・インペリウス◆


「クロウくん?」


「う、うん?」


「そろそろ諦めたらどうかな?」


 クロウくんがまだ私の膝の上から脱出しようと色々試していました。


「で、でも……奥さんたちに申し訳ないというか……」


「クロウくんはとても優しいのね。でも私もそんな泥棒猫みたいなことはしないわよ?」


「ど、泥棒猫……」


「ちゃんと奥様方々に許可は取ってあるから」


「へ、へぇ……そうだったんだ……」


 クロウくんの表情がますます曇りましたわ。


「ねえ、クロウくん」


「は、はい」


「――――――帝国を支援してくれて、本当にありがとうね」


 驚いた表情から笑顔になった彼がますます愛おしくなりました。

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