260.管制塔システム

 僕が初めて賢者様と出会ってから二か月が経った。


 この二か月、非常に忙しい日々を送っていた。


 リサと一緒に各地を訪れたり、ナターシャお姉ちゃんに付いてって『ライブ』の応援をしたり、セナお姉ちゃんはグランセイル王国のちょいちょい顔を出してるようで、グランセイル王国からの依頼で、各地を訪れていたので、それにも付き添ったりした。


 ディアナは殆どの時間を島で過ごして、警備隊の稽古を担当してくれていた。


 アレウスお義父さんとヘレネお義母さんと一緒に新人さん達を育ててくれているのだ。



 戦争後に結婚した『戦慄の伯爵』様こと、アデルバルト伯爵様からまた多くの奴隷達が送られてくるようになった。


 今度は料金なしでバンバン送られて来た。


 アカバネ大商会も人手不足気味だったので、とても助かった。


 その中でも戦闘に心得がある者は第二の警備隊に所属となった。


 レベルもウリエルのダンジョンのおかげで簡単に上げられるので、職持ちじゃなくても参加している者もいた。



 それと最近、気になる事があった。


 それは僕だけの事ではなかった。


 定期的に弱い地の揺れが起きるのだ。


 中央大陸だけでなくアカバネ島も揺れを観測した。


 つまり、世界が揺れている事になる。


 その揺れは大した事がないのだけど、僕は人一倍敏感に反応していた。


 そんな僕の反応に反応したのが、セナお姉ちゃんだった。


 僕が不安を覚えるモノなら、ただ事じゃないと言い出して、商会の管理職を巻き込んで、各国の上層部にも何かが起きるかもしれないと連絡していた。


 そこで計画されたのが、




 ――――――『アカバネ島、管制塔システム』だ。




 この『管制塔システム』は『遠話の水晶』を更に開発させ、『遠話の水晶』を持っている者全員に強制的に『遠話』を届かせる技術を編み出した。


 大陸何処にいても『管制塔』から発信された『遠話』は全員に一瞬で届くのだった。


 これで何が起きるのか。


 それはつまり、情報伝達の速さだ。


 向こうからの『遠話』を受ける『オペレーター』という専門の人が二十人程待機していて、入って来た『遠話』を貰い、場所の特定と内容をいち早く『管制塔の指示役』に伝える事が出来たのだった。



 僕は奥さんに言わるがまま、言われた事だけを実施した。


 決して、文句一つ言わせてもらえず、言われるがままに……。


 これで何もなかったらどうしようって想いしかなくて、心配な僕をよそに、アカバネ島では多くの者が楽しそうに、でも真剣に取り組んでいた。




 ◇




 既に各国の上層部は薄々気づいていたはずだけど、アカバネ大商会が『転移魔法』を使えると発表した。


 勿論、あくまで各国の上層部にのみだ。


 既に『女神ポーション』などのとんでもない商品を出しているので、さほど驚かれなかったみたい。


 精々皇帝さんが椅子から転げ落ちるくらいだったと聞いている。



 その事により、もしもの時の非常時避難ルートが決められた。


 各国を繋ぐ、大型の『次元扉』も既に準備してあった。


 僕は何度もそこまでしなくていいって言おうとしたけど、セナお姉ちゃんが言わせてくれなくて……寧ろ、これが無駄になる事の方が不安になったくらいだ。


 セシリアお義母さんから「備えあればうれいなし」と言われて、少し気が楽になった。




 ◇




 本日はカナン町のひっそりした公園に来ていた。


 この公園。


 あまり用がない人の出入りはご遠慮くださいとの表札が出ており、それを無視して入るような輩は今まで一人もいないという。


 この公園の名称は『追悼の丘』だ。


 僕はその丘の湖沿いに建てられた『追悼の碑』に向かった。


 沢山の花が置かれていて、日々、人々が訪れている事が良く分かる。


 特にここには多くの戦争孤児や被害家族がいるから尚更、そうなのかも知れない。



「イカリくん、あまり来れなくてごめんね? というか……結婚するって言いに来たぶりなのかな?」


 僕は多くの花の中に、持って来た花を置いた。


 真っ白な花と紫色の花が多く置かれていて、風が吹く度に花びらが空を舞った。


「報告する事が多すぎるね。まずね、僕、ちゃんと結婚出来たよ。吃驚すると思うんだけど……以前にも話したように奥さんが四人も出来たよ。みんな毎日何かを目標に頑張っていて、僕はそれを手伝うくらいしか出来てないけど……でも僕と一緒にいてくれてとてもありがたいんだ――――。

 あっ、それとさ。まだここでは報告してなかったね…………。イカリくんのお母さん、元気になったよ。イカリくんのお姉ちゃんも見つかってさ、イカリくんも知ってる人でね、なんと、エドイルラ街のシャル姉ちゃんだったんだよ? あんなに近くにいたなんて……人ってどうなるか本当に分からないね」


 優しい風が僕を撫でてくれた。


 イカリくんが頭を撫でてくれるような、そんな感じがした。


「これからはもっと頻繁にくるからね?」


 僕は一人、追悼の碑で時間を過ごした。


 あの頃のように、イカリくんが一緒にいてくれる、そんな気がした。

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