251.美しい日々は
アカバネ島では、かつてないほどに大忙しの状態だった。
美しい祭壇。
その周りを彩り飾る飾り物。
屋敷から真っすぐ祭壇まで伸びた真っ白いカーペット。
カーペット両脇には少し斜めに椅子が並んでいた。
本日は、島の
◇
「クロウ、少し落ち着いたらどうだ?」
「えっ!? 僕、落ち、着いている、よ?」
「そういう割には目線と腕と足がそれぞれの方向を向いているぞ?」
お父さんに言われ、良く見ると確かにそうだった。
全然気づかなかった……。
本日は僕の結婚式の日だ。
しかも……奥さん四人と同時に結婚する日程となっている。
貴族には、こういう複数の奥さんと結婚式をする事もよくあるらしい。
でもお父さんからは四人は流石に初めて聞いたと言っていた。
しかも、その顔ぶれが凄い。
『聖女』『剣聖』『黒銀狼』『アイドル』――――僕にはあまりにも勿体ない女性ばかりだ。
そんな事を言っていたらライお兄ちゃんから「クロウくんは女神様だから大丈夫」と言われた。
女神様じゃないから!
僕、男ですから!
と、ちょっと心配になって、男である証拠を確認した。
うん。
ちゃんと、僕、男になってる。
◇
◆アリサ◆
「アリサちゃん、ドレス姿、とても似合うわよ」
「お母さん、ありがとう……」
お母さんの笑顔に少し落ち着いた。
まさか、自分がくろにぃ……ううん、クロウティア様と結婚出来るなんて考えた事もなかった。
鏡の向こうでは、既に慣れた顔が写っていた。
目が覚めたら、また向こうではないか。
くろにぃと会ってから、毎朝、何度も鏡を覗いた。
そんな私をお母さんは優しく見守ってくれていた。
「あのね、アリサちゃん」
「うん?」
「私ね……アリサちゃんにはとても感謝しているの」
「感謝??」
「この世界でまた私の娘になってくれて、そしてクロちゃんにまたお母さんと呼ばれるようにしてくれて、本当にありがとう――――って、アリサちゃん、今から花嫁になるんだからそんなに泣いたら、化粧取れちゃうわよ?」
◇
◆セナ◆
今日はお父様とお母様もいらっしゃるので、素顔を出す訳にはいかない。
なので、結婚式だけど……いつもの仮面を被る事にした。
みんなには既に了解を得ていた。
鏡の向こうには、短くなった黒髪と、仮面の隙間に見える綺麗な碧眼が見える。
私の顔のはずなのに……この仮面を付けると、まるで違う別人のように見えてしまう。
実はこの仮面。
クロウに頼んで作って貰った仮面だ。
この仮面を被っている間……私が元のセレナディアだと分かる者でもそう認識出来ないように魔法を掛けてくれた。
クロウ程の魔法使いだから、この仮面を被った私を、元の私だと認識出来る人なんて、絶対いないと思う。
そんな私の隣には、何故かお母様がいた。
「セナちゃん。今日も凄く綺麗だわ」
「えっ!? は、はい。ありがとうございます……」
「むふふ、そんなかしこまらなくていいわよ。貴方もこれからは私達の
お母さんはとても嬉しそうに笑っている。
「あ、あの……
「ふふっ、お義母様だなんて、クロウくんの奥さんになるんだから、これからはお義母さんと呼んで頂戴! そうね……何となく、かな? セナちゃんは確か両親が亡くなられているのでしょう?」
「え!? は、はい……」
「ふふっ、これからは私がお母さんになるのだから、ここにいてもいいでしょう? ――――って、あらあら、花嫁になるのにそんなに泣いたら、折角の綺麗な化粧が取れちゃうわよ? さあ、こちらを向いて、もう一回綺麗にしましょう」
◇
◆ディアナ◆
「ディアナ、とても綺麗だわ」
「ありがとう、お母さん」
お母さんはここ最近、ずっと嬉しそうにしてくれている。
私とクロウ様の結婚を心から喜んでくれていた。
「毎日稽古ばかりだったけど……やっぱりうちのディアナちゃんが一番綺麗だわ」
「お母さん……でも他の方々に比べたら私なんて……」
「ふふっ、ねえ、ディアナちゃん」
「うん?」
お母さんは、私の髪留めの、とあるヘアピンを付けてくれた。
私はクロウ様から数多くのヘアピンを頂いていた。
どうやら私が好きだと思っているらしくて、一緒に歩いていると、見かける度に買ってくださった。
勿論、それ一つ一つは大した値段ではなくて、お小遣いでも買えるくらい安物ばかりではあった。
でもその一つ一つが、クロウ様から頂いた物で、どれもが私の宝物だった。
そして、今、私の頭に付けられた肉球の飾りのヘアピンだった。
――――私が初めてクロウ様から贈って頂いた一番の宝物だった。
「ディアナちゃんは私の娘だからね、世界一可愛いわよ。それに、クロウ様からこういう贈り物を貰えたのは、この世界で唯一ディアナちゃんだけ――――――あらあら、これから花嫁になるのに泣いちゃったら大変。ほら、お化粧直しましょう」
◇
◆ナターシャ・ミリオン◆
「お嬢様、とても綺麗です」
「ふふっ、ありがとう! フネさん」
フネさんはずっとミリオン家に尽くしてくれたメイドさんだ。
私が病気の時、最も私を看病してくれた命の恩人でもある。
「私は娘に恵まれておりませんからね~、こうしてお嬢様の晴れ舞台を見られるのが嬉しくて嬉しくて」
「ふふっ、フネさん。ありがとう。これもフネさんが私を看病し続けてくれたおかげだよ? そうじゃなかったら、私、クロウくんに出会う事が出来なかったんだからね」
フネさんは私を優しく抱きしめてくれた。
「今ではこんなに元気になられて、アイドルも――――あんなに大変な思いをしたのに、頑張って来られて、ちゃんとクロウ様の心も射止められて、お嬢様は私達の誇りです。亡くなられた奥様もきっと天国から見守ってくださってますよ」
うん、本当に頑張ったわ。
踊りや歌の練習を欠かした事は一度もない。
毎日美容も考えて、食べ物も考えて、クロウくんに喜ばれる為に頑張って……でも本当は私なんかがクロウくんに選ばれるなんて思っても見なかった……。
「ディゼルさんが……昨日、墓参りに行かれてましたよ? きっと奥様にお嬢様の晴れ舞台を報――――あらら、花嫁さんがそんなに泣いたら、折角の美人さんが台無しですよ? もう一度、化粧しましょうね」
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