252.鐘の音から始まりを告げる

 カーン、カーン、カーン――――。


 アカバネ島に美しい鐘の音が鳴り響いた。


 全てのアカバネ大商会の正従業員達が集まっていた。


 椅子には親族や知人達が座っており、その周りを囲んで正従業員達という構成だ。




 会場に美しい音楽が鳴り響いた。


 多くの拍手と共に、屋敷の扉が開いた。


 開いた扉から最初に多くのスライムが現れた。


 そして、その中から、美しい男性が一人、一際大きいスライムを肩に乗せ、カーペットを歩いた。


 余程緊張しているのか、動かしている腕と足が同じ方向に上っている。


 スライム達に導かれて登壇した彼の目は既にぐるぐる回っており、周りの歓声など、一切耳に入っていないようだった。



 音楽の雰囲気が変わると、今度は二人の花嫁が現れた。


 二人は手を繋ぎ、ウェディングロードを歩いた。


 真っ白なドレスに、金色の輝く長い髪は見る者全てを祝福するかのような輝きを放っていた。


 もう一人もドレスとは真逆の黒髪をなびかせ、仮面の奥に見える美しい碧眼がとても綺麗だった。



 二人が登壇すると、またもや二人の花嫁が現れた。


 その二人も手を繋ぎ、登壇した。


 真っ白なドレスに獣人族らしい耳と尻尾、澄んだ明るい黒灰色の目が美しかった。


 もう一人は、ドレスと似合う銀髪と落ち着いた雰囲気は世界で最も美しいとされる美貌だった。



 祭壇では、柔らかい笑みを浮かべた聖母がおり、彼女の笑顔は、この場にいる全ての者を祝福するかのようだった。



 ――――そして、見守る者全てに緊張が走った。



「汝ら、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、妻を愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」



 聖母の声が響き、待ち望んだ瞬間が訪れる。



「「「「はい」」」」「はひっ」


「「「「誓います」」」」「ちかっまっす」



 新郎が緊張のあまり、声が裏返っている。


 周りからクスっと笑える声がちらほら聞こえた。



「では、これにて、二人の結婚を認めます。誓いのキスを――――」



 しかし、新郎が動かない。


 その姿を見守っていた参列者達からは不安な雰囲気が漂った。


 当の花嫁達も少し驚いていた。


 ――――まさか……ここで、婚約破棄を言われてしまうかも知れないと一瞬、頭によぎるも、そんな事はあり得ないと知っている彼女達は新婦を見つめた。


 そして、目の前で新郎の顔を見ていた聖母が――――


「くっ……ぷっ……あ、あははは~、あははは~!」


 聖母の笑い声が会場に響いた。


 金髪の花嫁は何かを思ったのか、新郎の顔を横から覗いた。


「くろにぃ!? え? あははは~!」


 それから新郎の顔を覗いた新婦達はみんなで笑い、新郎をぐるっと回して前を向かせた。


 それを見た全ての参列者達から笑い声が島中を包んだ。




 ――――そこには、鼻血を流しながら白目を向いて、立ったまま気絶したクロウティアの姿があった。




 ◇




 クロウティアの結婚式の夜。


 アカバネ島では大宴会が行われていた。


 誰もが幸せな笑顔と美味しい料理と酒に酔いしれていた。



 宴会の真ん中には、本日の主役のクロウティアと四人の花嫁達がいた。


 ただ、クロウティアが気絶していた為、現在はセナの膝の上で眠っていた。


 幸せに眠っている彼を見た多くの参列者達も幸せに包まれるのであった。




 ◇




 ◆アグウス・エクシア◆



 三男の愉快な結婚式も終わり、参加者みんなは宴会を楽しんでいる。


 当の本人は、お嫁さんの膝の上で幸せそうに寝ている。


 あの二人・・のそういう姿を見るのも久しい。


 幼い頃、風呂場でバッタリと会ってしまって、息子がああいう状態になったのを見た事がある。


 あの時も彼女・・の膝の上だったっけ。



 宴会では、多くの人達から祝って貰えた。


 息子の事だから、あまり高価な贈り物は数倍にして返されると知っていてか、みんな素朴な贈り物ばかりだ。


 みんな息子の事をちゃんと分かっている。


 それくらい、あの子は人々に愛されているのだろうね。


 僕も親として鼻が高い。



 花嫁さん達の両親達もみんな嬉しそうだ。


 ディゼル殿、アレウス殿、ヘレネさん、セシリアさん、みんな、笑顔を絶やす事なく宴会を楽しんでいた。


 出来る事なら息子も祝ってあげたいんだけどね。


 あの調子じゃいつ目を覚ますのやら……。




 ◇




 僕が目を覚ました時は、既に夜近くだった。


 周りから楽しそうな声が聞こえていた。


 ――――僕何していたっけ?


 と、ふと、目を開けた視界に意識を戻した。



 ん……?


 これ何だろう……。


 触った感じ……柔らか――――――。



 その先に鋭い眼光が僕を睨んでいた。


 あの変な仮面…………碧眼……セナお姉ちゃん?


 ん?


 この柔らかいの……セナお姉ちゃん…………。


 ?????


 そこに優しいナターシャお姉ちゃんの声が聞こえた。


「クロウくん……お楽しみは……夜になってからよ」


 え?


 あ?


 え??


 え???




 そして、僕はまた意識を失うのだった。

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