242.最後の祭り
漸く、教会も始まり、世界は平和へと向かっていた。
大陸中にアカバネ大商会の名が広まり、『女神教会』も順調に広まった。
元々の『カイロス教会』から名前を変えるだけだけど、そもそも信じる神が変わるので、難しいと思っていた。
いたんだけど…………女神様が降臨したからと、物凄い速さで広まった。
更に、復興も戦争後とは思えない速さで進んだ。
それもアカバネ大商会の大活躍あっての事で、大陸中にその名を轟かせる原動力にもなった。
『女神教会』がカナン町で建設され、多くの人がその地を訪れては、町中央にある、『女神クロティア様』の像に祈りを捧げた。
その傍で売っている『女神ポーション』は飛ぶように売れ、困っている人々に使われていった。
人々が救済を意識するようになって、また大きく変わったのは、慈愛心だった。
働く事が出来なくなった人々を周りの人々が助ける事が日常茶飯事になっていた。
今までは想像も出来なかった光景だ。
物乞いに唾を吐いていた人々が、今度は食べ物を与えるようになった。
物乞い達が生気を取り戻し、アカバネ大商会で仕事の斡旋をされ、町の掃除や配達を頑張るようになり、住民達の生活が向上した。
人の優しさが巡り巡って、自分に返ってくる。
『女神教会』の教えは、着実に大陸中に広がって、みんなの心に届いたのだった。
そんな中、僕はと言うと。
学園に来ていた。
だって、僕はまだ学生だからね。
本当に学生らしい事、何もしてない気がするけど……。
ステータスも元に戻って来たので、同級生や後輩の戦術を見て上げたり、アルケミストクラスを歩いて周り、欲しそうな素材をあげたり、意見出来る所は意見したりした。
そして、最後のアカバネ祭の日を迎えた。
十八回目のアカバネ祭。
実はこの祭りを持って、アカバネ祭は終わりを迎える。
既にアカバネ新聞ではその事を伝えており、理由等は当日発表する事になった。
◇
◆エドイルラ本店の広場◆
アカバネ祭が最後という事で、今までよりも多くの人々が詰めかけ寄っていた。
違う街でもアカバネ祭のステージを見る事は出来るが、それはあくまでも映像であり、本物は開催地のみとなっている。
今まで以上に多くの者でエドイルラ街が賑わっていた。
――――そして十八回目の祭りが幕を開けた。
いつもの如く、最初は発表会として、ステージにダグラス総帥とその妻であるアヤノ、副総帥ディゼル、『アイドル』ナターシャが上ってきた。
ステージに横並びになった彼らは深々と挨拶をすると、代表としてダグラスが口を開いた。
「いつもアカバネ祭を愛してくださった多くの方に、感謝の言葉を伝えたいと思います。ありがとうございます」
再度、全員が深々と挨拶する。
「そして、先日から『アカバネ新聞』で伝えているように、この度の十八回目の祭りで――――『アカバネ祭』は終わりを迎えます」
その言葉に、多くの会場では悲しむ声がした。
「この度、アカバネ祭が終わりを迎えるには幾つかの理由がございます。まず一つに、現在のやり方では――アカバネ大商会の意向にのみ左右された祭りとなり、多くの者達がステージに立てる機会を奪われると思っているからです。
戦争が終わり、復興も進み、今や多くの人々が人を救うような社会となりました。ですが、人の社会はそれでは終わらないのです。我々は大商会はその歩みを止めたくない。だからアカバネ祭は今回の祭りで閉幕とし――――新たな『女神祭』を行います!!」
ダグラスの思わぬ発表に戸惑った観客もすぐに歓声をあげた。
「ですが! 『女神祭』は我々アカバネ大商会で行うモノではありません。グランセイル王国、アーライム帝国、フルート王国、テルカイザ共和国、それぞれの国が一つの輪になって開催する事になります! 『女神祭』は毎年の六月終わり頃に開催する事が決まりました!!」
その発表にますます歓声は止まなかった。
「我々アカバネ大商会は『女神祭』を全面的に支援する方針です! ですが、各国がどのような『祭り』にしていくのか、それは今の我々でも分かりません! いずれ発表があると思うので、それまで『アカバネ新聞』を楽しみに待って頂けたら幸いです!」
今度は、副総帥のディゼルが前に出た。
一つ咳払いをした彼は。
「今まで行ってきた『アカコレ』『ライブ』はなくなりません! これから毎年、二度『アカコレ』を開催します! 更に『ライブ』は今までの形ではなく、別な形で皆様にお送りすると思いますので、是非楽しみにしていてください!!」
アカバネ祭の目玉演目がなくならないという事実に、歓声が大陸を包んだ。
歓声の中、ナターシャが前に出て、「アカバネ祭の開幕だよ! 最後だからって、手を抜くお客様は――――お仕置きだからね!」の言葉で観客の熱気は最高潮のまま、祭りが始まった。
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