240.女神様の神託
◆とある研究室のような部屋◆
その研究室のような部屋は、誰一人おらず、机の上には長い年月をかけて積もったホコリが雪のようだった。
部屋中には、小さ試験管が並んでいる。
その奥に、一際大きい試験管があり、その中には何やら液体が入っており、小さな魔石が浮いていた。
その魔石が小さく光り出した。
小さな光はやがて、少しずつ大きくなり、神々しい光となった。
しかし、部屋には誰もおらず、小さな魔石の神々しい光は虚しく光り輝くのであった。
◇
戦争が終わり、カナンの町の建設も順調に進んだ。
更に、大陸中に『カイロス教会』に代わり、『女神教会』が設立されていった。
既に大陸中には、『女神クロティア』を信じる者が数知れず。
『女神教会』の本格的な活動まで多くの信者達が待ちわびていた。
戦争から二か月が経過し、遂に、『女神教会』の始まりの瞬間がやってきた。
全ての町の広場――アカバネ大商会のステージの上には
――そして、
◇
「女神クロティア様を信じる者達よ。わたくしは女神教会の教皇。セシリアと申します」
セシリアの言葉に全ての町が歓喜に包まれた。
「これから皆様に女神クロティア様からの『神託』を授けます」
『神託』の言葉を聞くと、大半の人がその場で跪いた。
「敬愛する人の子らよ。今の世界は誰かを憎んで生きる人が多いのです。それは全て魔族が仕向けた事であります。私はその現状に深く心を痛んでおります」
跪いた人達が全員涙した。
――しかし、これは全て嘘である。
――魔族が仕向けたと言うのは真っ赤な嘘で、全てクロウティアが思い付いた事を話しているに過ぎないのである。
――帝国で既に多くの者が魔族の姿を見ているので、その噂が信憑性を増しているだけである。
「私がこの世界に降臨していられるのも、あと僅かです。人の子らよ。目の前の同志を妬むなかれ。人を愛し、助ける事に徳が積まれるのです。さあ、人の子らよ。立ち上がり、悲しむ者達を救うのです。いつか、希望の地『カナン』に奇跡が起きるその日まで――――」
全ての信者達が立ち上がった。
全員やる気に満ちた表情をしている。
隣人と握手を交わし、女神クロティアの名を高々に称えていた。
――――まさか、自分達が女神様に騙されているとも知らずに。
◇
「ええええ!? 女神様の『神託』を頂戴!?」
驚く僕に、セシリアさんとリサが真剣な表情で頷いた。
「そもそも、女神クロティア様はクロちゃんなのだから、此度の『女神教会』の開始の挨拶の時、『神託』を授けないといけないの」
「え…………そんな事言われても……」
「あ! くろにぃ、私に良い考えがあるよ?」
リサがニヤっと笑った。
あ……これ、絶対いたずらするやつだ。
「えっとね! ――――『神格――」
「ダメ!」
「えー! 良い考えだと思ったんだけどな!」
唇を可愛く拗ねらせてもダメ!
僕はもう『神格化』は使いたくないんだ!
だって……僕、男だからね!
セシリアさんが僕達を見て、クスクスと笑った。
うう……セシリアさんも笑ってる場合じゃ……。
どうしよう。
『神託』か……。
「まずは、信者達には優しくなって欲しいわね」
「それは僕も思います! しかし、どうやって優しくなって貰おう?」
「今までの教会は、自分達――つまり『カイロス教会』を信じてない人達を貶していたの、だからまずそれからだね」
「前の教会ね……う~ん、まず魔族の仕業って事にでもして、優しくなりなさい! と言うのは?」
「うん! それ良いわね!」
セシリアさんも賛同してくれるようだ。
「くろにぃ、でもこのままだと漠然と『優しくなれ』と言うだけだから、人にとって『優しい』は違うんだから、具体的に決めた方が良いと思うよ?」
「う~ん……う~ん……」
「じゃあ、クロちゃんみたいになって貰ったらいいんじゃない?」
「僕みたいに?」
僕みたいってどういう事だろう?
「クロちゃんはアカバネ商会の従業員達をいっぱい助けて来たでしょう? だから、信者達にも『悲しんでいる人達を救え』とかでいいんじゃない?」
「うん! それいいかもね! 救えって言えば、『アカバネポーション』も沢山売れるだろうし、僕の力を使わなくても、知らない所で沢山の人々が助かると思うから、それにしよう!」
――こうして、全世界の人々を感動させた『神託』が出来上がったのである。
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