231.婚約、そして…

 ――――「僕とリサの結婚を許してください」




 あの日。


 クロウティアが帰ってきて、両親の前で告げた言葉だった。


 当の本人であるアリサも何が起きたのか、理解出来ずにいたが、その場にいた多くの者は、その婚約を祝福した。


 ――しかし、その中にはその婚約を素直に祝福出来ない人もいた。




 ◇




 その日。


 グランセイル王国の王城では、此度の戦争の功労者を労う為の謁見が開かれていた。


 そこに集まっていたのは、


 ジョゼフ・ブレイン。


 ディアナ。


 その他、貴族が数名となっていた。


 ――しかし、本来なら一番注目されるはずの人物の姿は無く、その所為で城内がざわついていた。



 グランセイル王に呼ばれ、ジョゼフや貴族数人が労う言葉と共に、恩賜おんしの品が授与された。


 不穏な空気の中、最後にディアナの番となった。


 グランセイル王の労う言葉が終わり、恩賜を与えようとした、その時。


 ディアナが言葉を発した。


 それは非常に無礼な事で、謁見の間の貴族からは「なんと失礼な!」の言葉が飛び交った。


「皆の者、良い。ディアナよ、話してみよう」


 グランセイル王の言葉に、皆が沈黙した。


 ――そして。


「此度の恩賜を賜る件、大変光栄に思います。ですが……わたくしはクロウティア・エクシア様に仕えている身、その恩賜はわたくしではなく、わたくしのご主人様である、クロウティア様にこそ与えられるべきだと存じます」


 それを聞いたグランセイル王が笑うと、王の間にいた貴族からも感服の言葉が飛び交った。


 自分より主人を優先するその姿に、グランセイル王も多くの貴族も心を打たれた。


「わたくしの恩賜はご主人様であるクロウティア様から頂きますので、どうか、クロウティア様に恩賜を与えてくださいませ」


 ディアナの気持ちを汲んだグランセイル王により、この日、『英傑』ディアナの恩賜はなかった。


 しかし、多くの者が彼女の『英傑』の名を語る事となった。






 授与式が終わると、グランセイル王が立ち上がり、信じられない事を告げた。


 それは、王国の多くの者にとって、あまりにも非情な出来事となった。




 ◇




 その日、僕は相変わらず、島で休養を取っていた。


 島には、僕の婚約者となったリサと、そのお母さんであるセシリアさん。


 護衛のディアナ、――そして、何故か……みすぼらしい格好をしているセレナお姉ちゃんがいた。


 その姿に驚いた僕が、お姉ちゃんに歩み寄ろうとした時。


 ソフィアが、僕の前に遠距離ライブ観戦装置ライブビューイングを設置した。


 ――そして、僕は自分の目では到底信じられない光景を目撃した。




 ◇




 ◆帝都グランド城内◆


 皇帝の執務室。


 皇帝カイザ、アデルバルト伯爵、レイラ皇女が集まっていた。


「お父様。わたくしはもう決心が付きました」


「そうか……」


 覚悟を決めた娘の表情を、何処か寂しく思う皇帝であった。


「此度、アデル伯爵様も助けてくださいました……それに恐らく……彼がわたくしを助けてくださったお方だと思います」


「例の優しい匂いか?」


「はい――それに……」


「それに?」


 一度、目を瞑って、息を吸うレイラ皇女。


「この戦争で彼女が成した功績はとても素晴らしいモノのはずです……ですのに……我々・・の為に、彼女が犠牲になるのは見てられません。お父様、わたくし一人でどうにかなるモノでもないと思います……ですが、精いっぱい、彼女から受けた御恩も返せるよう、勤めて参ります」


 そう語るレイラ皇女に、皇帝と伯爵もまた覚悟を決めた。


「分かった。生き別れになる訳でもあるまい。かのアカバネ大商会はどうやら『転移魔法』が使えるとの噂もある。彼女が守った三男・・ならアカバネ大商会とも繋がりはあるだろう。レイラよ。これは皇帝として命だ」


 レイラ皇女が皇帝に跪いた。


「エクシア家の三男の元へ行き、尽くして参れ」


「ありがとうございます」




 アーライム帝国の皇女であるレイラ・インペリウスは、クロウティアの元に旅立った。

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