217.跡地にて

 気が付くと、僕は何も無い、広大な焼け跡の前に立っていた。


 地面がクレーターになっており、その凄まじかった大爆発を身に染みる程、見せつけられていた。



 あの向こうにイカリくんが待っているはずだ。


 急いで行かなきゃ……。


 早く助けなきゃ……。



 クレーターに向う僕を、リサとディアナが必死に止めた。


 え?


 二人とも、どうして止めるの?


 僕が行かなきゃ、僕なら助けられるかも知れないから。


 『エリクサー』なら、『ソーマ』なら、まだ間に合うかも知れない。



 向こうには……誰も居ない?


 そんなはずない!


 イカリくんが…………。




 あの時、何よりも先にイカリくんも助けに行っていれば……どうして僕は助けに行かなかったんだ。


 僕は焼け跡の前でただただ喪失感に包まれた。




 ◇




 気が付くと、日が傾いていた。


 夕焼けに照らされた焼け跡は何も映っておらず、訪れるてあろう闇を静かに待っているようだった。



 そんな時、僕の隣でソフィアが震えながら僕を見つめていた。


【ご……ご主人様……ごめんなさい……私が……私がもっとしっかり……イカリ様を…………守れていたら…………本当に……ごめんなさい……】


 守る?


 ああ……そうだ。


 ソフィア、君の分体がイカリくんに付いていたはずだ。


 どうして、


 どうして助けてくれなかったの?


 そうだ!


 全てはソフィアのせ――――。






 パチ――――ン






 僕の左頬が熱くなっていた。


 目の前にはセレナお姉ちゃんが涙を堪えていた。


「ふざけないで!! ソフィアの所為じゃないわ! クロウ、しっかりしなさい!!!」


 セレナお姉ちゃんの悲痛な叫びが聞こえた。


 どうしてお姉ちゃんは僕を叩くの?


 僕はただ……


 ただ……




 そうだ、全て悪いのは、帝国の奴らだ。


 あいつらが戦争なんか仕掛けるから。


 戦争で他人を傷つけるから。






「みんな……みんな殺してやる、帝国のみん――――」






 ――――優しい匂いがした。






 ――――「だいじょうぶ! あたしはくろうてーあのおねーちゃんだから! あたしがくろうてーあをまもるの! だからくろうてーあはこわがらなくていいの! ぜんぶおねーちゃんがまもってあげるんだから!!」






 ああ、あの時のお姉ちゃんの声と匂いだ。


 僕をずっと守ってくれた優しい匂い。


 いつも僕の隣にいてくれた優しい匂い。


 僕のたった一人のお姉ちゃんの優しい匂いだ。






「クロウ、復讐を復讐で返したら……いつまでも終わらないわ。戦争も同じよ。クロウが人を撃ったら、その人の大切な人がクロウを憎むわ、復讐を復讐でしか返せないと悲しいの連鎖はいつまで経っても終わらないわ。

 だから今は前を向いて生きましょう? 大丈夫、私はいつだってクロウの味方だから。お姉ちゃんだから。どうか人を恨まないで、人を殺すだなんて簡単に言わないで。どうか…………」






 ――――「私達を見て」






 お姉ちゃんの声で、僕は周りを見た。


 泣き疲れて、真っ赤な目になっているリサとディアナ。


 セレナお姉ちゃんの頬にも涙が流れていた。


 僕は……ただ……ただ……イカリくんに会いたかった。


 そして…………、






 謝りたかった。






 ごめんね、イカリくん。


 僕はどうやら君の仇を取る事も出来る気がしないよ……。



 ごめんね、イカリくん。


 僕にはまだ守りたい人達が沢山いるから……。


 君の為に涙を流しているばかりではいられないから……。



 ――――僕は行くね。


 いつかまた、ここに笑顔で戻ってくるよ。


 また君に会う為に。






 僕は震えているソフィアを抱きしめた。


「ソフィア、ごめん、僕は酷い主人だけど、もう一度、僕の従魔に、なって貰えないかな?」


 ソフィアは僕の顔に優しく抱き着いた。


 彼女はずっと「ありがとう」と言っていた。

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