194.紅茶開発
本日はダグラスさんに呼ばれて、会議室に来ていた。
「オーナー、本日は大事な相談がございます」
ダグラスさんが少し緊張した面持ちだった。
最近のダグラスさんにしては珍しいかな?
「実は、隣国であるフルート王国から、王都イスルと、南貿易街ホルに支店を出してみてくれないかと相談がございました」
「ええええ!? 隣国から!?」
「はい、隣国の大商会、『フェルメール大商会』から提携して欲しいとの要望があったそうです」
「『フェルメール大商会』??」
「…………、こほん、オーナー、かの大商会はフルート王国で唯一の大商会として大陸でも数本に入る程の大商会です」
ううっ…………聞いた事あったかも知れない……。
「その大商会さんがどうしてアカバネ商会を?」
「ええ、グランセイル王国内では空前の洋服流行りが起きています。その勢いは、グランセイル王国内だけでなく、隣国の共和国まで広がっています。いくら隣国とはいえ、その事実は見過ごせない程の事件ですから、『フェルメール大商会』が一早く着目したのでしょう」
洋服流行り!?
確かに……一日で完売した店とかも多かった……というか、完売したよね? 全店舗で。
「その『フェルメール大商会』のオーナーこそ、『先見の賢者フェルメール様』ですよ?」
「『先見の賢者』様!?」
「ええ、非常に先を見通す力に長けている方との噂もあり、『フェルメール大商会』がたった一代で大商会となったのは、大陸でも有名な話しです」
「す、すごい!! そんな素晴らしい方がいらっしゃるなんて!」
「ええ、まあ――――オーナーの方が百倍……」
ダグラスさんが小声で何かを呟いた。
「え? どうしたんですか? ダグラスさん」
「いいえ、それでオーナー、どう致しますか?」
「提携でしたっけ……僕は賛成です」
「かしこまりました。アカバネ商会が損する事は絶対にないと思われますので、先方に承諾の旨を伝えさせて頂きます」
「分かりました、よろしくお願いします」
三賢者の一人、『先見の賢者フェルメール様』。
三賢者の中の最初の賢者様だ。
フルート王国が帝国にもグランセイル王国にも属していない最も大きい理由は、フェルメール様の存在が最も大きいと聞いている。
何でも、戦い全てを勝ち抜いたそうだ。
更に、戦いだけでなく、自ら商会も開いて、今では大商会となっているから凄い方だ。
僕もいつか、機会があればお会いしてみたいな。
◇
会議が終わり、僕はアカバネ島の食堂に来ていた。
食堂では、セシリアさんとエクシア家屋敷の料理長ブルックさん、アカバネ島料理長フィーネさんの三人で、僕からお願いしている学園祭用の飲食の試作を作っていた。
「こんにちは~」
「クロちゃん、いらっしゃい」
学園祭用の飲食会議が始まった。
「まず、学園祭の催し物ですので、あまり高価すぎるモノを出すのは良くないと思います」
「ふむ、あまりに高価なモノを出してしまうと、問題になりかねないですからね」
「全面的に『アカバネ商会』を出して、無理矢理通すのもいいですけどね。エクシア家はアカバネ商会と提携を結んでいますから」
「私からの案が一つありますが、貴族御用達の高級紅茶『アルグレーイ』に安価の『ミロミルク』を多めに足した紅茶はどうでしょう?」
「ふむ、折角の高級紅茶が勿体ないのではありませんか?」
「私は『アルグレーイ』に『ミロミルク』を多めに入れたモノが一番美味しいと思いますよ?」
「なっ!? セシリアさん、それは本当なのですか?」
「はい、『ミロミルク』は量も多く採れるから安価なだけで、そのコクが強すぎるが故にあまり人気がないんです。その強すぎるコクが『アルグレーイ』の上品な味にとても合うんですよ?」
セシリアさんの力説にブルックさんとフィーネさんが食い入るようだった。
『次元袋』から『ミロミルク』と『アルグレーイの葉』を取り出したフィーネさんは、セシリアさんの指示通り、『アルグレーイ』を作り、『ミロミルク』を多めに入れた紅茶を作ってくれた。
元々高級紅茶『アルグレーイ』は、上品な香ばしい香りが特徴で、その香ばしさから『美しい香りの紅茶』と称されている。
もちろん、香りだけではない。
その味も、口に入れた瞬間に体中を巡る程に風味が広がる。
ただ、こういう味の
強すぎる風味を和らげてくれて、『美しい香りの紅茶』をより柔らかい風味で楽しめる事が出来るのだ。
そんな貴族御用達高級紅茶『アルグレーイ』を、平民でもあまり使用しない安価ミルクである『ミロミルク』で割って飲む人なんて、多分いないと思う。
その『ミロミルク』だが、『ミロータル』と呼ばれている
しかも、とても温厚なため、多くの人が簡単に飼う事が出来るという。
ただ、この『ミロミルク』はコクがあまりにも強すぎるのだ。
普段『ミロミルク』を飲む場合は、水で割って飲む程にそのコクが強い。
魚料理等でその強いコクを活かした料理がある程だ。
フィーネさんがセシリアさんの指示で作ってくれた『アルグレーイ』。
紅茶とミロミルクを一対二で割っていた。
随分ミロミルクを多く入れていたけど、大丈夫だろうか?
出された紅茶からは、今まで感じた事もない程の美味しい香りがした。
僕達はその紅茶を恐る恐る口に運んだ。
――「「「美味い!!」」」
強すぎる紅茶の風味と、強すぎるミルクのコクが予想されたその紅茶は、お互いの強さがお互いをより引き立ててくれて、お互いの
口の中に濃厚なミルクの味わいと甘さに溢れ、香ばしい香りが体を優しく巡るその風味は衝撃的な美味しさだった。
僕が今まで飲んだ紅茶の中で最も美味しいかも知れない。
「セシリアさん、この紅茶、凄く美味しいです!」
「まさか……長年貴族家に仕えていたのに、こんな組み合わせがあるとは……」
「私も今まで色んな紅茶を作って来ましたが、この紅茶は最早完成品ですね……まさか『ミロミルク』がここまで風味を立たせてくれるとは……」
僕達を見てセシリアさんがふふっと笑っていた。
「貴重なモノだから貴重なモノとしか合わない、という考えはいけませんよ? 美味しさは『値段』ではありませんから」
セシリアさんが物凄くキラキラしていた。
まさに――聖女様に相応しかった。
「よし、これなら安価の『ミロミルク』で割った高級紅茶『アルグレーイ』も、普段の三杯分作れるとなれば、安価で出しても問題なさそうですね」
「ええ、アルグレーイは商会
セシリアさんとブルックさんとフィーネさんのおかげで、飲み物は調達出来そうだ。
「ふふっ、ではこの紅茶は『ロイヤル紅茶』と名付けましょう!」
大陸歴史で最も愛される事となる紅茶『ロイヤル紅茶』が、まさかこんな風に作られたとは、歴史家の誰も予想だに出来なかった事だろう。
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