192.結婚式宴会

 アカバネ島では宴会が開かれていた。


 ライお兄ちゃんとダグラスさんの結婚式の打ち上げ会だ。


 広場が大きな宴会場になっており、従業員と多くの知人が参加している。



 宴会場の中央には、今回の主役、ライお兄ちゃん夫婦三人と、ダグラスさん夫婦二人が座っており、沢山の人から祝福されていた。



 実はさっき、島に戻ってきたダグラスさんとアヤノさんが大変だった。


 僕を見つけるや否や、二人から抱き付かれて、二人を宥めるのがとても大変だった。


 今回、僕がダグラスさんに唯一贈れるモノは、嫌な想いも沢山あったけど、それ以上に僕達家族の絆を繋いでくれた名前を贈った。


 名字は貴族にしか持つ事が出来ず、僕のお父さんが辺境伯様なので、お父さんにお願いしてダグラスさんを準男爵位と共に、名字『アカバネ』を贈った。


 お父さんにそんな簡単に貴族爵位をあげてもいいのかと聞いたけど、ダグラスさんはここ最近までエクシア領で最も貢献度が高くて、そもそも今回の結婚式でお父さんから貴族爵位を贈る予定だったそうだ。


 お父さんから「考える事が一緒だなんて、流石は僕の息子だ」って嬉しそうに話してくれた。


 名前を贈ると決まって、リサとセシリアさんにも事情を話したら、二人ともとても喜んでくれた。


 僕達を繋いでくれた絆は、新しい世界でこの世界の人達と僕達を繋ぐ絆となってくれるだろう。




 ◇




「ねえ、クロウ」


「うん? どうしたの? セレナお姉ちゃん」


「名前、あげて良かったね」


「――――うん。凄く喜んでくれて、僕も嬉しいよ」


 ダグラスさん達を見て、嬉しそうに笑うお姉ちゃんの横顔は、宴会の明るさもあって、美しかった。


「アヤノさんも、アグネスさんもレオナさんも綺麗だね」


「ふふっ、三人とも、とても綺麗だわ」


 いつか、僕もこうやって…………セレナお姉ちゃんを見守る日が来るのだろう……。


 想像するだけで嬉しくなった。


 しかし、セレナお姉ちゃん、結婚する相手は未だにいないようだから、大丈夫なのだろうか?


 まあ、お姉ちゃんには既に途切れる事のない求婚が続いているし、その中で良い縁談があったら……。




 いつも一緒にいたセレナお姉ちゃんが……


 誰かの元に行ってしまうと思うと、少し嫌な気分になった。


 弟として、良くないのだろうけど……何かモヤモヤしてしまう。


「何だか、暗い顔になったわよ?」


「え!? ――――ん、セレナお姉ちゃんもああ・・なったときの事、想像していたから……」


 お姉ちゃんは何も言ってこなかった。


「お姉ちゃんこそ、暗い顔……だよ?」


「――――ん、クロウがああ・・なったときの事、想像していたわ」


 隣同士、手を伸ばせば届く距離。


 お姉ちゃんの息の音も聞こえて来るこの距離。


 この距離が――――、僕には最も遠い距離だと思えた。






 宴会は夜深くまで続いた。


 僕達子供組はそろそろ退場と言われたので、渋々宴会を後にした。


 大人には大人の世界があって、僕にはまだ遠いように感じる。




 ◇




 ◆アグウス・エクシア◆


 長男とダグラス殿の結婚式の披露宴。


 綺麗な奥さんを二人も貰ったライくんには、これから領主になるためにも頑張って欲しいモノだ。


 ダグラス殿は末息子のクロウから前世の名前も受け継いで、エクシア領の貴族となってくれた。


 これからも二人の活躍がとても期待される。


 その祝いにも、とても多くの人達が集まってくれていた。


 そんな多くの人達が幸せな雰囲気の中。



 ――――はあ、あの子らは何をしているんだ……。


 何で二人とも、表情がどんよりしているんだ。


 全く……。



 何となく原因は分かっている。


 二人共、幼い頃からいつも二人一緒だった。


 弟が歩けるようになって、姉も毎日一緒に遊んでいたし、弟が外を歩くようになってもすぐに姉も一緒に行くようになっていたね。


 常に二人一緒にいたから、お互い・・・の結婚式でも想像してどんよりしているんだろうね……。


 僕には兄弟がいないので、どういう思いなのかは分からないけれど、僕の結婚式の時、フローラのお兄さん方々から猛烈な洗礼を受けたからね……。


 うちの子達はそうならないと良いけど……。



 時間が過ぎ、子供組には退場して貰った。


 まあ、大人組がそろそろ酔い過ぎる頃合いだからだろう。


 普段からあまり酔い過ぎないダグラス殿も、流石に今日は歩けないくらいに酔っていた。



「あ――――、アグウスしゃま」


「うん?」


 そこには酔いつぶれそうなアヤノさんがいた。


 花嫁さんよ……。


「アヤノさん、そんなに飲んで大丈夫ですか?」


「はひ! だいじょうぶれす! はぁい~」


 うん、大丈夫じゃないね。


「アグウスしゃま~」


「どうしました?」


「くりょうしゃまの~、こんやくしゃは~、だれにするんですか~」


 くりょう……ってクロウか?



 とそんな事を思っていると、僕達の周りにどんどん人が集まった。


「あたしは! せれなちゃんとでーあなちゃんかな~」


 アグネスさん!? 貴方も花嫁なのに酔っ払いすぎでは!?


 そもそもセレナは血縁だぞ!?


「にゃに! あたしはなたしゃ~かな!」


 アヤノさんはナターシャ嬢を推してるのか。


 それを聞いたディゼル殿が泣き出した!?


「いんや~やっぱり~でーあなちゃんかな~」


 うちの次男と婚約しているミリヤさんは、同じ獣人族だからかな?


 アレウス殿!? ヘレネさん!? 二人とも泣く程嬉しいのか!?


「みにゃさんはわかってらい! いちびゃんはありしゃちゃんけ!!」


 マリエルさん!? マリエルさんはアリサちゃんを推してるのか……。


 せ、セシリアさん!? 急に大泣きし始めた!? 天使が泣いてお――――


 ふ、フローラ、痛い、何故僕を叩くのだ!?


 え? 目が嫌らしい!? いやいや!


 僕はフローラしか――――。



 あ、フローラ、酔っ払ってこんな所で寝ると風邪引くぞ……。


 はあ、何だかうちのクロウの嫁さんで言い争いになっている……。


 当の本人は、どう思っているのやら――


 今度温泉ででもゆっくり聞こうかね。

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