165.手がかり

 アカバネ商会は慌ただしかった。


 それもそうで、あと数日で十三回目の『アカバネ祭』があるからだ。



 今回の『アカバネ祭』では色んな発表と試みがあるので、その事前準備で慌ただしかった。


 かく言う僕もその一人だ。


 今回、初めてとなる『アカコレ』のおかげで連日、色んな服の試着だったり、ステージの歩き方や魅せ方も勉強していた。


 毎日ではなかったので、休みの日はイカリくんに癒されていた。


 イカリくんには全貌を話す訳にもいかず、漠然と仕事の楽しさを語っていた。



 更に先日決めた奉仕活動も全て順調に進んでいた。


 各町の受けも良く、住民達も協力的で、何の問題もなかった。


 この世界での被虐待児達も数十名、既に無事救出する事が出来た。


 それにはセシリアさんが全力をあげており、現在調査隊はセシリアさんを主軸に勤しんでいた。


 セシリアさんのおかげで助かった小さな命は、これから大きく輝く事になるのだと思うと、前世の息子として、とても誇らしかった。




 ◇




 慌ただしい毎日も、遂に今日で終わりを迎えた。


 つまり、明日が『アカバネ祭』の日だ。



 準備も終わり、本日はイカリくんに会いにきた。


 しかし、いつもの待ち合わせ場所に彼はいなかった。



 ん~、別に約束している訳じゃなかったけど……、祭りは参加しないと言っていたから、今日は一目会っておきたかったなー。


 そのままぼーっとするのも勿体ないので、学園を歩き回ってみる事にした。



 まず、最初に来たのは魔法科Cクラスだ。


 相も変わらず皆学園祭の準備に勤しんでいるようだ。


 みんな……勉強は大丈夫かな?


 学園アルテミスは勉強もさることながら、こういうイベント事も大事にしている学園だ。


 教師も学園も一丸となって生徒と真摯に向き合っている。


 王都内にも関わらず、権力とか一切考えないこの学園は素晴らしいと思えた。


 どうしても『ロード』クラスだけは特別だけどね。



 おお~お客様用のローブととんがり帽子も随分作ってあるね。


 既に五十組みくらいは作っていた。


 サイズも四種類程あって、子供用も作られている。


 こういうのって、多分子供の方が受けがいいだろうからね。



 意外だったのは、クラスをまとめているのがピナさんだったことだ。


 カリスマがあるわけではないが、誰にでも親切で明るい彼女ならではの事だろうね。




 次に顔を出したのはディアナの稽古場だ。


 ディアナ一人で十人の生徒と稽古を行っていた。


 いくら補助魔法が掛かっているとは言え……戦闘職能持ち十人をあんな簡単に相手に出来るなんて……ディアナもとても強くなったね。


 遠くで見てたけど、ディアナの凛々しい姿がとても素敵だった。


 雇い主として誇らしいよ。




 またぶらぶらと歩いていると、『アルケミスト』クラス棟に着いた。


 そう言えば、ここに来るのは初めてだね。


 この棟に、知り合いはいなかったから――――今までは。



 中は製造系らしく、色んな模型やら作品があちらこちらに並んでいた。


 『アルケミスト』クラスは他のクラスと違い、分野が多すぎるので、教室も小さい代わりに、沢山の教室があった。


 『ナイト』クラスだと実力でAからCクラスとかあって、途中で上位クラスに編入とかもあるんだけど、『アルケミスト』クラスではそういうモノはないという、そもそも各クラスの人数が少ないので三年間ずっと一緒だし、何なら先輩後輩とも一緒だ。


 教室の上にクラス名を読みながら歩いて、一番奥にある『魔道具師』のクラスを見つけた。



 目的地だったクラスの中を覗いてみたけど、誰もいなかった。


 恐る恐る中へと入ってみた。


 そこで見たのは――――。




 教室にたった一つ・・だけ置いてある机だった。




 あれ? イカリくんって――『魔道具師』と言っていたよね?


 どうして、机がたった一つなんだ?



「ん? 君あまり見ない顔だね?」


 教室の入り口から声がした。


 そこには赤い髪の女の子がいた。


「あ、ごめんなさい。ちょっと知り合いを探していて」


「ん? 知り合いって、ここの?」


「えっと――――多分」


「多分??」


「クラスに来るのは初めてなので」


「そう……このクラスにはイカリフィア先輩しかいないわよ?」


 え!? やっぱり……この机はイカリくんのモノだったんだ……。


 イカリくんがクラスに馴染めなかった理由……。


 それは誰もいないから――。



 とても不安な気持ちになった僕は精霊眼を全開にして学園中でイカリくんを探した。


 ――でも、イカリくんを見つける事は出来なかった。


 学園の広場で途方に暮れていると、


「――――、やっと見つけた! 君!」


 声がした方を向けると、さっき会った女の子がいた。


「ん? 僕?」


「そうだよ、急に走って行ったから吃驚したじゃない、それとこれ」


 彼女から手紙・・を渡された。


「これは……?」


「あの教室の机の中に入っていたの、君が急に走って行くものだから、この手紙が落ちてきてさ、そこに『クロウくんへ』って書いてあってさ、クロウくんって多分君でしょう?」


「うん、僕、クロウって言うんだ――――この手紙、ありがとうね」


「友達なんでしょう? 友達は大事にしないといけないからね! じゃあね!」


「うん! ありがとう!」


 女の子を見送って僕は急いで屋敷に戻って手紙を読んだ。




 その手紙を読んだ僕は――――。

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