141.飛び降り遊びの裏で

 ◆ダグラス◆


 先日オーナーから、またとんでもない商売のネタを持ってきてくださった。


 どうやら、オーナーの姉君であるセレナ様が、橋から飛び降り遊びをしていると話していた。


 橋から――飛び降りるまでは理解できた。


 で、そこに遊びって言葉が付くってなんだ?


 想像も出来ないので、オーナーにお願いして現地を見せて貰った。



 うむ。


 一言で言えば、想像以上だった。


 麗しいセレナ様に、ディアナ嬢とアリサ嬢が楽しそうに橋から飛び降りていた。


 オーナーは既にジト目になっていて、彼女達を眺めていると、飛び降りたはずなのに飛び上がって来た。


 橋の下を見ると確かに川が流れている。



 この川は特殊な川で、人だけが上に跳ね返るとの事。


 確かに、下に飛び降りたセレナ様が、川にぶつかるとそのまま上に飛び上がって来た。


 飛び上がってくるのも丁度降りた分だけ上がると言う。


 試しに恐る恐る、俺も飛び降りて見た。



 怖かった。



 しかし――



 何だこれは!



 やみつきになる!



 もう一回!



 もう一回だ!



 それから五回程飛んで帰って来た。


 オーナー……そんなジト目で見ないでください……。


 俺だって……毎日アヤノから……はぁ。




 そして次の日。


 アカバネ商会関連の多くの方が集まった。


 セレナ様からの熱弁によって。


 それからフローラ様、セシリアさん、ヘレネさんと飛び降り、とても楽しい様子。


 それを見た他の女性陣も飛び降り、その後から男性陣も恐る恐る飛び降りた。


 この日、久しぶりに歳を忘れ、皆はしゃいで遊んだ。




 ◇




「ダグラスさん」


 とフローラ様から呼び止められた。


「フローラ様、何か御用でしょうか?」


「ええ、一つ相談したい事がありますの」


「かしこまりました、何なりとお申し付けください」


 フローラ様が真剣な表情になった。


「この遊び――とても危険です」


「はっ……、確かにやみつきになりますね」


「ええ、そしてもっと危険なのは――」


 俺は真剣なフローラ様の表情に唾を飲み込んだ。


「ここはクロウくんのダンジョンなのです。このままにしておくと、クロウくんがまた・・何を仕出かすか分かりません」


 確かに! あのオーナーの事だ。


 これをまた飛んでもない方向に……。


「それだけは阻止しなければいけません」


「はっ、同感でございます。あのお方なら……俺の想像を遥かに凌駕した事件を起こしますから」


「ええ、ですからこの件は先手を打ちましょう」


「先手ですか?」


 フローラ様が悪い顔になった。


「はい。この橋飛び降り遊びを――商売にしてしまいましょう」


 ふむ、確かにこれを商売にする事によって、オーナーにはこれ以上に事を大きく出来なくなるはず。


 このままでは、またどんなとんでもない事になるか……我々のオーナーは……。


「かしこまりました。このダグラス、全身全霊を持って、オーナーの悪事を阻止させます!」


「ええ! お願いしますわ!」


 フローラ様と握手を交わした俺は、すぐにディゼル殿に駆け寄った。


 ディゼル殿は、今では一番心を知れている友人だ。


 勿論、歳の差はあれど、我々はアカバネ商会の初期メンバー且つ管理職という光栄な立場なのだから。



 そして、橋から飛び降り遊びをどう商売にするか相談した。


「まず、支店から橋に直通の『次元扉』を作れば移動は簡単だけれども……」


「そもそも『次元扉』を使って良いのかが悩み所ですな」


「ええ、あれが表に出るのは、まだ早いかと悩んでいます」


「ふむ――、全員に『契約の紙』を使うのは」


「費用がかかり過ぎますね……そもそもその量を確保するのすら難しいでしょう」


 ディゼル殿と俺は悩んだ。


 その時ディゼル殿が何かを閃いた顔になった。


 暫く考えたディゼル殿は、


「地下にすればどうだろうか」


「地下?」


「ええ、そもそもここの風景は現実味がない。それは『アカバネ商会』が作り上げたを見せる魔道具という事にして、支店の地下に案内して、地下の入口をこちらに繋げば……不思議な景色が見えて、尚且つ川に飛び降りても跳ね返るのも納得させられると思ったのです」


「この景色も跳ね返り上がって来たのも全てはと言う事にする――という事ですね?」


「ええ、普通ならば信じない、しかし『アカバネ魔道具』なら――信じるでしょう」


 ディゼルさんの目に迷いが無かった。


 今では王国内で最高の信頼を持っている『アカバネ商会』だ。


 その『アカバネ魔道具』は一番の信憑性を持つ。


「それならばやれます! ディゼル殿! これ程の閃き、大したモノです!」


「あはは、これも全てクロウ様のためになると思えばこそです。少しでもナターシャのためになれば良いですが……」


 実はディゼル殿は、ナターシャ嬢を何とかオーナーのにしようと企んでいる。


 これは俺にだけ相談してくれたのだが、当の本人であるナターシャ嬢も同じ考えだという事だった。


 ナターシャ嬢と言えば、今では王国内で一番有名な女性なのに……それ程の女性を妾とは……。


 しかし、オーナーならあり得るのかもしれない。



 そんな事を思いながら、俺はオーナーにお願いして、この橋から飛び降り遊びを商売に画策するのだった。

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