130.想い

 『アブソリュート・ゼロ』


 その魔法は、全ての魔法の中で最強と言われる魔法である。


 各属性ごとに最強魔法が存在しており、『アブソリュート・ゼロ』は氷属性魔法の最強魔法だ。


 最強魔法と名が付いているだけあって、その威力は途轍もないのだが、その魔法が最強クラスかそうじゃないかはたった一つの点で分かるようになっている。


 それは――。



 天災級の魔法かどうかだ。



 最強クラスの魔法はどの魔法でも、大型天災に勝るとも劣らないと言われている。


 最強クラス魔法を人類が使おうとすると、最上級魔法使いの『賢者』がメイン術者となり、その補助に魔法使い数百人が付き添い、詠唱には数日掛かると伝わっている。




 その中でも異質な強さを持つ魔法があった。


 それが『アブソリュート・ゼロ』だ。


 この魔法が凶悪な理由は三つ。



 一つ目はその威力だ。


 その圧倒的な威力は、全てのモノを凍らせることができると言われている。


 一度凍ったモノは二度と生き返らないと言われている。



 二つ目はその広範囲だ。


 最強クラスの魔法の中でも最高峰の範囲を誇っている。


 その範囲は山脈すら凍らせられると言われている。



 そして最後は、その耐久性だ。


 この魔法が凶悪である最大の理由だ。


 この魔法で出来た氷は、全く溶けない、壊せないのだ。


 この魔法を溶かす事が出来ると言われているのは、同ランクの火属性最強クラス魔法『ヘル・インフェルノ』のみと言われている。


 しかし『ヘル・インフェルノ』は、極所特化型魔法のため、範囲が狭いのだ。




 そんな天災級最強魔法『アブソリュート・ゼロ』は最強魔法の中でも凶悪の代名詞だった。




 ◇



「てな訳で、以上が『アブソリュート・ゼロ』の説明でした」


 物知り博士こと、リサ先生の講義を受けた我々三人は拍手をした。


 しかし、僕が良く使う氷属性魔法超広範囲が、そんな大層な魔法だったとは思いもしなかった。


「しかし、どうしてクロウはそんな最強クラス魔法を一人で使えるの?」


 セレナお姉ちゃんの疑問はもっともだ。


「だって、あれは『アブソリュート・ゼロ』じゃないよ?」


 僕は氷の山を指差してそう話した。


「え? でも『アブソリュート・ゼロ』と効果が同じだよね?」


「確かに同じだけど……」


 そもそも氷属性魔法を広範囲に使っただけなんだけどな……。






「ねぇ、クロウ? クロウって本当に――――『賢者』なんだよね?」






 セレナお姉ちゃんからおもむろにそう言われた。


「えっと……、ごめん、お姉ちゃん、実は――違うんだ」


 本当はちゃんと家族揃った時に話すつもりだったんだけど……。


 お姉ちゃんが何かを考え込んで、だんまりになった。


「今度の家族泊まりんときに話そうとしてて……」


「……、アリサちゃんは知っていた・・・・・ようだね?」


「え? ……はい、ちょっと事情があって……」


 リサが申し訳なさそうに話した。


「そっか……、うん、分かったわ、今度の泊まりんとき話してくれればいいわ」


 セレナお姉ちゃんがそう話した。


 しかし、お姉ちゃんの目。


 僕は一生忘れる事が出来なくなったその目。






 哀しい目をしていた。




 ◇




 それから僕達はそれぞれで一階で狩りを行った。


 ゴーレムは殆ど動けないくらい遅いので、皆四方に散って狩りをしていた。


 僕は先程のお姉ちゃんの目が忘れられず、ただ座り込んでいた。



「マスター」


 そんな僕の隣にヘレナが座った。


「マスターは特別なお方です。この島が存在していられるのもマスターのおかげです。そして、ここに住んでいる多くの者達は、そんなマスターを尊敬しつつも……恐れています」


「僕を……恐れている?」


 それは初耳だ。


「マスターのたった一言で、彼らはここで生きられなくなります」


「僕はそんな事言わないよ!」


「マスター、私は従魔として、マスターの優しさを知っています。ですが彼らは……従魔ではありません、マスターの本心・・を知る術を持っていないのです」


 僕の……本心?


 僕はただ、皆と仲良く過ご……し…………。


 仲良く…………。




 幼い頃、まだ記憶もあやふやだった頃、前世の僕はお父さんと仲良く笑っていた事を覚えている。


 それは、まやかしなのだと……ずっとそう思い込んで・・・・・いた。


 でも違った。


 いつしかお父さんは荒れるようになった。


 だから僕達は……僕達家族はああ・・なってしまった。




「セレナ様が先程、マスターに怒らなかったのは――マスターに捨てられる・・・・・のが怖かったからだと思います」




 ヘレナの言葉を聞き、僕は頭が真っ白になった。


 分かっていたはずなのに、分からないふりをしていた。


 そして気がつくと僕は走っていた。


 セレナお姉ちゃんの元へ。






「お姉ちゃん!」


「!? クロウ……?」


 少し目が赤いお姉ちゃんを僕は全力で抱きしめた。


 違うんだ。


 僕はお姉ちゃん達の弟で、クロウティアで、家族だ。


 黒斗じゃない。


「お姉ちゃん、ごめんなさい」


 そんな僕をお姉ちゃんが優しく抱き返してくれた。




「バカね、そんな心配しなくても、ちゃんと信じているわよ」


 うん、ありがとうお姉ちゃん。

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