108.本当の職能

 その日の夜、アカバネ島。


「ねえ、お母さん、くろにぃが変なの」


「うん? クロちゃんがどうしたの?」


 リサがジト目で僕を見て来る。


「ええええ!? 僕、何かしたっけ?」


「えっとね? くろにぃ、攻撃魔法も使えるのに回復魔法まで使えてね、しかも『無詠唱』なの」


「ええええええええ!? リサ、詳しく教えなさい!」


 それから学園であったことを洗いざらいセシリアさんに報告するリサ。


 ちょぅと話し盛り過ぎな気がするけど……気のせいだろうか?



「う~ん、もしかしてクロちゃんの職能って『聖人』かしら? 確か回復魔法と通常魔法も使えるなら……」


「えー、でも『聖人』って『聖女』と、どちらか片方しかいないってお母さん言ったよね?」


「え? ええ、言ったわね」


「それなら可笑しいわ、だって『聖人』って生まれるはずないんだもん」


「うん? どうしてリサがそう言い切れるの?」


「え? だって…私せ……ッ」


 何かを言いかけたリサは急いで自分の口を塞いだ。


 そんなリサをセシリアさんがジト目で見つめた。


「アーーリーーサーー、お母さんに何を隠しているの! 白状しなさ~い!」


 それからセシリアさんの脇くすぐりの刑にあったリサだった。



 あぁ――眼福――って違う、そうじゃない。


 そもそも何故、リサがそう言い切ったのか、僕も気になった。


「ご……ごめんさないってば~、あはは~もうくすぐらないでよ~ちゃんと話すから!」


 漸くセシリアさんのくすぐり刑が終わった。



「ふぅ……、実は私の職能……魔法使いじゃないの……お母さんごめんね? もしものために隠していたの」


「もしもの?」


「うん、ほら、私、前世の記憶があるでしょう? だからお母さんの迷惑にならないようにと……職能を偽っていたの、でも実際は隠していた方が迷惑かけてしまったかも……嘘ついてごめんなさい」


「ううん、それは違うわ。迷惑なんて何一つ思ってないからね! 寧ろこうしてクロちゃんとも会えたし、リサとも会えたんだからね」


 セシリアさんが笑みを浮かべた。






「ありがとうお母さん、えっと――私の職能は……魔法使いじゃなくて……その……」






「――――――『聖女』なの」






「えええええ!?」×2


 い……妹が……あの特別職能『聖女』!?


 僕とセシリアさんは驚き過ぎて転げ落ちる勢いだった。


 だって、セシリアさんって最上級職能の『教皇』のはずでしょう?


 そんな凄い人の娘が、更に上の職能で生まれるなんて――世紀の大事件だと思う。




「で……でも! くろにぃはもっと凄いのよ!? 私『聖女』なのに回復魔法『無詠唱』で使えないんだから、お母さんも回復魔法を『無詠唱』では使えないでしょう??」


 その言葉に僕とセシリアさんが我に返った。


 そして今度は僕がターゲットになった。


「そう言えば……さっきもそう言ってたわね、クロちゃん、回復魔法見せて貰っても良いかしら?」


 セシリアさんの言葉に頷き回復魔法を見せた。


 ――無言で。


「えええええ!? ……本当に何も言わずに回復魔法を……発動出来るなんて!? ……えええええ!?」


「ほら! でしょう? くろにぃって凄い職能だと思うの!」


「そ……そうだね、と言うか、クロちゃんの職能って聞いても良かったりするかしら?」


 セシリアさんが恐る恐る尋ねて来た。


 困る事もないし、この二人の事はエクシア家の家族同様・・信頼しているので大丈夫だろう。


「うん、良いよ。でも周りには話さないでね?」


 僕の言葉に二人共、唾を呑み込み、大きく頷いた。


 何だか期待の眼差しだ。






「僕の職能は、『アザトース』って職能なんだ」






 ……


 …………


 ………………


 ……???


 うん? 二人共どうしたんだろう?




「えっと、お母さん聞いた事あるの?」


「いえ……初めて聞く職能だわ?」


「特殊職能なのは間違いなさそうね」


 ああ、やっぱり聞いたことないようだね。


 《天の声》さんもまだ解析不可と答えているから、分かるようになるのはまだまだかも知れない。



「それでクロちゃん、その職能はどんな事が出来るの?」


「私も知りたい!」


 二人の目がキラキラしている。


「えっと……、そうだね、強いて言えば……何でもかな?」


「何でも?」×2


「うん、幼い頃から大体思った事は何でも出来てるかなー、あ、魔法系統だけだけどね」


「そう言えば、この島も何だかクロちゃんの島って聞いたよう……な?」


「うん、この島は『魔導島』って言ってね、『賢者の石』から『大地生成』魔法で作られていて、僕のスキルでちょっとだけ土地が良くなっていて、『次元扉』で各支店を繋いで、各町へ行けるようにしているんだ」


 そう話すと二人の目が回っていた。


 何だか二人の頭の上にヒヨコ達がたくさん見えるようだった。



 暫くして気が付いた二人、先ずその涎を拭いてあげよう。


「はひ!? くろにぃからなんだか……色々とんでもない事を聞いた気がしたけど……全然覚えてないや」


「リサ、偶然ではないわ、私もよ」


 その後、アルティメットスライムのソフィアも紹介した。


 アルティメットスライムと聞いた二人は、また暫く状態異常『混乱』と『石化』を繰り返していた。


 あれ……可笑しいな……うちのソフィアってこんなに愛くるしいのに、何で二人共固まってるの?





 そんな彼女達を置き去り、次から次へとクロウの現状報告が続いた。


 だが、既にソフィアの登場から固まっていた二人には、それ以降の言葉は何一つ耳に入らなかった。

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